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【相続廃除】相続させたくない推定相続人を除外するための法的手続

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

「子どもに財産を相続させたくない」
そんなケースでご相談を受けることがあるのが、「相続廃除(そうぞくはいじょ)」という制度です。

現在の日本の法制度では、正式な手続きなしに法定相続人の資格を奪うことはできません。

今回は、一定の場合、被相続人の意思によって法定相続人の資格を剥奪することができる「相続廃除」について、民法の規定を踏まえ、わかりやすく解説します。


1 相続廃除とは?民法に基づく正式な制度

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被相続人の明確な意思に基づいて法定相続人の資格を失わせる方法が「相続廃除」です。

相続廃除とは、推定相続人(通常、子や配偶者など)が、以下のような非行を行った場合に、被相続人が家庭裁判所に申し立てることで、その相続権を失わせる制度です。

  • 申立ての主体:被相続人自身または遺言執行者

相続欠格との違い

相続欠格と相続廃除の違い
相続欠格相続廃除
理由法律に定められた重大な不正行為(例:詐欺・脅迫による遺言作成等)被相続人に対する虐待・重大な侮辱・著しい非行など
手続き法律上当然に相続資格を喪失(自動適用)被相続人が家庭裁判所に申立てを行い、審判を経て成立
取消し不可(取消・回復の余地なし)被相続人の意思で取消し(赦免)が可能

2 相続廃除が認められる条件(要件)

相続廃除は、以下のいずれかに該当する場合に認められる可能性があります。

  • ■被相続人に対する虐待
  • ■被相続人への重大な侮辱
  • ■著しい非行

裁判例で認められた例

  • 「早く死んでしまえ」などの暴言を繰り返す(重大な侮辱)

  • 犯罪行為で繰り返し服役し、被相続人が賠償対応している(著しい非行)

  • 財産を無断で処分、不貞行為、長期の音信不通 など

ただし、単なる不仲では認められません。客観的に見て、信頼関係が回復不能なレベルで破綻していることが必要です。


3 相続廃除の方法:生前廃除と遺言廃除

① 生前廃除(生きているうちに手続き)

  • ■被相続人が家庭裁判所に申立てを行う

  • ■審判手続で進行

② 遺言廃除(遺言書に意思を記載)

  • ■遺言書に廃除の意思と理由を明記

  • ■遺言執行者が裁判所に廃除申立て

  • ■執行者の指定がない場合は、選任申立てが必要

※死亡後の廃除は、証拠が乏しくなるため、生前から記録や資料を残しておくことが重要です。


4 相続廃除の取消し

一度行った相続廃除は、被相続人の意思でいつでも取り消すことが可能です。

  • ■家庭裁判所に廃除取消しの申立てを行う
  • ■または、廃除取消しの遺言を作成し、遺言執行者が手続きする

※取消しにも家庭裁判所の審判が必要です。


5 廃除できない相続人(対象外)

相続廃除の対象は推定相続人のうち、遺留分を有する者(通常は子や配偶者、直系尊属)に限られます。

そのため、兄弟姉妹などの遺留分のない相続人については、遺言で「相続させない」と書くだけで十分です。廃除の手続きは不要です。


6 代襲相続と相続税への影響

代襲相続は発生する

廃除された本人に子(孫など)がいれば、その子が代襲相続人となります。
これは「死亡と同様に扱う」ためです。

ただし、相続放棄(相続人として最初から扱わない)の場合は代襲相続は発生しません

相続税法上の取り扱い

  • ■廃除された者は法定相続人としてカウントされない

  • ■代襲相続人がいれば、その者を法定相続人としてカウント

この違いは以下に影響します:

相続税に関わる法定相続人の数とその影響
項目内容
相続税の基礎控除額3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
生命保険・死亡退職金の非課税限度額500万円 × 法定相続人の数(※受取人ごとに按分)
法定相続分に基づく税額計算廃除された人・相続欠格者は法定相続人に含めず、
代襲相続人がいれば代わりにカウントする

7 まとめ:相続廃除は慎重に、計画的に

相続廃除は、家庭の事情に深く関わるセンシティブな制度です。
「相続させたくない」と感じても、裁判所が認める要件を満たさなければ無効になります。

また、手続きには法的知識と証拠資料が必要です。

 

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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親が亡くなった後の手続き|時系列でわかる相続・葬儀・契約解約の流れ

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

親御さんが亡くなったとき、深い悲しみの中でも、遺されたご家族には多くの手続きが待ち受けています。葬儀や死亡届、年金や公共料金の手続き、そして相続税申告まで……。

しかも、これらの手続きには期限が定められているものも多く、、「何を・いつまでに」やるかを把握しておくことが大切です。

本記事では、「親が亡くなった後の手続き」について、時系列に沿って文章形式でわかりやすく解説します。
ご自身やご家族の備えとして、ぜひお役立てください。


1 死亡日〜2日以内に必要なこと

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死亡当日:まずは医師による確認と診断書の取得

死亡が確認されると、医師が「死亡診断書」を発行します。これは以後の手続きに必要な最重要書類です。コピーを複数枚取っておくと便利です。

同時に、親族・関係者への連絡、葬儀社の手配、ご遺体の搬送(自宅や安置施設へ)、入院費の清算などを並行して進めます。

死亡後2日目:死亡届と火葬許可証の申請

  • ■死亡届の提出(死亡を知った日から7日以内)
    → 提出先:本籍地、届出人の住所地、または死亡地の役所
  • ■火葬許可証の取得
    → 死亡から24時間以上経過しないと火葬できません。役所で死亡届と同時に手続きします。

葬儀社が代行してくれることも多いですが、通夜・葬儀の準備もこの段階で本格化します。


2 死亡後3日目:葬儀・火葬と火葬証明

この日に葬儀と火葬を行うケースが一般的です。火葬の際は「火葬許可証」が必要です。

火葬終了後、「火葬執行済」の印が押された火葬許可証が返却され、これは後の納骨に必須の書類になります。
万が一紛失しても、5年以内であれば再発行可能です。

また、初七日法要もこの日にまとめて実施することが増えています。

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3 5日〜7日目頃:葬儀費用の精算と注意点

葬儀が終わると、葬儀社から請求書が届きます。

領収書は必ず保管しておきましょう。葬祭費の支給申請で必要になります。

相続税で控除できる葬儀費用について >


4 10日目頃:役所・年金事務所・警察などの公的手続き

この段階では、本格的な各種届出・証明書取得の時期になります。

本籍地の役所で行うこと

  • 除籍謄本(死亡の記載がある戸籍)の取得

  • 故人の出生から死亡までの戸籍

  • 相続人の戸籍(相続関係証明に必要)

住所地の役所で行うこと

  • 住民票の除票取得

  • 健康保険・介護保険証の返還

  • 葬祭費、高額療養費の申請

  • 国民年金・後期高齢者医療などの資格喪失届

※期限は「10日以内」などが目安ですが、遅れても罰則はありません。

年金事務所で行うこと

  • 年金受給者死亡届

  • 未支給年金・遺族年金の請求(条件あり)

警察署で行うこと

  • 運転免許証の返納(死亡診断書コピー持参)


5 2週目(11日〜14日目頃):各種契約の解約・名義変更

故人が契約していたさまざまなサービスの名義変更や解約手続きを行います。

例:

  • 電気・ガス・水道などの公共料金

  • 携帯電話・インターネット・サブスク

  • クレジットカード

  • アカウント(Amazon、Google、Apple等)

  • 生命保険(死亡保険金:受取人が手続き/医療給付金:相続財産)

手続き期限は明確ではありませんが、請求や解約忘れが発生しないよう、できるだけ早く進めましょう


6 2週間以降:相続・遺産に関する手続き開始

いよいよ本格的な相続手続きのフェーズです。

相続手続きの主な流れ

  • 遺言書の有無確認(家庭裁判所の検認が必要な場合も)

  • 相続人の確定(戸籍取得済であれば可能)

  • 財産の調査(不動産、預貯金、有価証券、債務など)

  • 相続方法の決定(単純承認・限定承認・相続放棄)

相続関連の期限

相続手続きと期限の一覧表
手続き内容期限
相続放棄・限定承認相続開始を知った日から 3ヶ月以内
準確定申告(所得税)相続開始を知った日から 4ヶ月以内
相続税の申告・納付相続開始から 10ヶ月以内
不動産の相続登記原則 3年以内2024年4月から義務化

【2024年4月~】相続登記が義務化されました!不動産相続

こんにちは。富士市・富士宮市の相続・税務専門、飯野明宏税理士事務所です。

2024年4月1日から、すべての相続人にとって重要な制度がスタートしました。 それが「相続登記の義務化」です。今回はこの制度の概要や対象、不動産を相続した場合の対応方法、注意点などを税理士の視点からわかりやすくご説明します。

1 相続登記の義務化とは?

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これまで相続登記は任意の手続きでしたが、2024年4月1日からは原則として義務となりました。具体的には、相続や遺贈により不動産を取得した人は、「相続の開始を知り」かつ「所有権を取得したことを知った日」から3年以内相続登記を申請しなければなりません

たとえば、親が亡くなって自分が相続人であること、そして実家などの不動産が相続対象に含まれていると知った日から3年以内、というのが一般的な起算点になります。

2 過去の相続にも遡って適用されます

今回の義務化は、2024年4月1日よりも前に発生した相続にも適用されます

  • 5年前に父親が亡くなって、まだ不動産の名義変更をしていない場合
  • 10年前に祖父名義のままになっている山林がある場合

こうしたケースでも、「すでに相続人であると知り、不動産の存在も把握している」のであれば、2027年3月31日までに相続登記を行う必要があります

一方、長らく不動産の存在自体を知らなかったようなケースでは、その存在を知った日から3年以内に登記義務が発生します。

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3 相続登記を怠るとどうなる?

相続登記を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。ただし、いきなり罰則ということはなく、法務局から催告があり、それでも申請しなければ裁判所が過料を決定します。

なお、以下のような事情がある場合は「正当な理由」とされ、過料の対象外となることもあります。

  • ■相続人が多く、書類の収集に時間がかかる遺言の有効性に争いがある
  • ■相続人の中に重病者がいる
  • ■経済的困窮がある

4 義務化の背景~所有者不明土地の増加~

この制度が導入された背景には、「所有者不明土地」が深刻な社会問題となっている現状があります。

  • ■公共事業が進まない
  • ■空き家・空き地の管理が不明確
  • ■土地の売買や活用が進まない

こうした問題の多くは、相続登記がされていないことが原因とされています。義務化によって、適正な土地管理と流通の活性化を図る狙いがあります。

5 相続登記ができないときの救済措置

すぐに相続登記ができない事情がある場合、以下の方法により義務を一時的に果たすことが可能です。

法定相続分による登記

法定相続人が法定相続分どおりに登記する方法です。遺産分割協議がまとまっていなくても、とりあえず登記義務を果たせます。

※その後に取得者が決まった場合は、3年以内に所有権移転登記が必要。

相続人申告登記(2024年創設)

「私は相続人です」という申告をする制度で、戸籍謄本の提出のみで申請できます。他の相続人の情報や持分割合を示す必要がないため、簡便です。

6 土地を手放したいときの選択肢

「遠方で管理ができない」「活用の見込みがない」などの理由で土地を手放したい場合は、以下の制度が利用可能です。

相続土地国庫帰属制度(2023年4月~)

相続した土地を国に引き取ってもらう制度です。一定の条件と負担金が必要ですが、管理の負担から解放される選択肢として注目されています。

相続土地国庫帰属制度について >

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

相続税の障害者控除とは?要件・計算方法・二次相続

相続が発生した際、相続人の中に障害のある方がいらっしゃる場合に適用できる「障害者控除」は、相続税の負担を軽減できる制度です。本記事では、障害者控除の目的や要件、計算方法、注意点までを税理士の視点でわかりやすく解説します。


1 障害者控除の基本とその目的

障害者控除は、85歳未満の障害者である相続人が相続または遺贈により財産を取得した場合に、相続税額から一定額を控除できる制度です。障害のある相続人の生活保障を目的としています。

控除額が相続税額を上回る場合は、扶養義務者の相続税からも差し引くことができます。

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2 障害者控除の適用4要件

障害者控除の適用には、次のすべての要件を満たす必要があります。

  • ■相続や遺贈によって財産を取得していること
  • ■取得者が法定相続人であること
  • ■相続開始日に日本国内に住所があること
  • ■相続開始日に税法上の障害者であること

3 障害の区分と該当例

障害者控除には「一般障害者」と「特別障害者」の2区分があります。

● 一般障害者:

  • ■療育手帳において重度に該当しない知的障害者
  • ■身体障害者手帳 3級〜6級
  • ■精神障害者手帳 2級〜3級

● 特別障害者:

  • ■重度知的障害者、身体障害1級・2級、精神障害1級
  • ■成年被後見人
  • ■寝たきり高齢者(要医師判断)

4 障害者控除額の計算方法

計算式は以下のとおりです:

(85歳 − 障害者の満年齢) × 控除単価(10万円 or 20万円)

  • ■一般障害者:10万円/年
  • ■特別障害者:20万円/年

※年数の端数は1年に切り上げます。


5 控除しきれない場合の対応

控除額が相続税額を超える場合、その超過分は扶養義務者(配偶者・子・親・兄弟姉妹など)の相続税額から控除可能です。

例:

障害者Aさん(40歳・特別障害者)控除額:900万円。相続税:500万円。 → Aさんの税額は0円、残り400万円は兄Bさんの税額(500万円)から控除可能 → Bさんは100万円納税。


6 二次相続での取り扱い

二次相続では、以下の少ない方の金額が控除上限となります:

  • ■通常の計算による控除額
  • ■一次相続の残額

例:

一次:控除900万円中、300万円を使用 → 残600万円。 二次:60歳時 → 通常控除額 25年×20万=500万円 → 控除上限は500万円。


7 よくある質問と実務上の注意点

  • ■要介護認定だけでは不可。「障害者控除対象者認定書」が必要
  • ■療育手帳での適用可
  • ■修正申告・更正の請求でも可
  • ■控除で相続税0円なら申告不要(ただし把握のため申告推奨)
  • ■相続放棄者でも取得財産(例:保険金)があれば適用可能
  • ■受遺者(例:孫)は原則適用外(代襲相続や養子は除く)

まとめ

障害者控除は、障害のある相続人やその家族にとって重要な節税手段です。適切に要件を確認し、計算方法を理解することで、無理なく活用できます。制度の運用は複雑なため、相続税に詳しい税理士への相談を強くおすすめします。

 

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静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

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【相続税】給与・賞与・退職金・弔慰金 受け取るはずだったお金の税金

ご家族が亡くなられた際、勤務先から、亡くなった方が受け取るはずだった給与や賞与、そして退職金や弔慰金などが支払われることがあります。これらの金銭が、受け取ったご遺族にとって相続税や所得税の対象となるのか、分かりにくいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

これらの金銭がどのように課税されるのかについて、分かりやすくご紹介します。


1 亡くなった方の給与・賞与の税金

「支給期」とは

給与・賞与の税務上の取扱いを理解するために重要な「支給期」について説明します。

  • ■支給期とは、給与等の支払いを受ける権利が確定する時期のことです。
  • 月給:通常は各月の末日(例:3月分給与の支給期は3月31日)
  • 賞与:会社の規定や労働契約で定められた支給日

具体例
– 3月15日死亡、給与支給日が毎月25日の場合
– 2月分給与(2月25日支給予定)→ 死亡前に支給期到来 → 準確定申告対象
– 3月分給与(3月25日支給予定)→ 死亡後に支給期到来 → 相続財産

死亡後に支給期が到来したもの

  • 相続税の課税対象(本来の相続財産)
  • 所得税は課税されない
  • 死亡後3年経過後に支給が確定した場合は一時所得として所得税課税

死亡前に支給期が到来したもの

  • ■被相続人の所得税対象(準確定申告で申告)
  • ■相続税申告では源泉所得税控除後の金額を未収金として相続財産に含める
  •  死亡時に未払いであっても源泉徴収が必要

※注意点
死亡前に支給期が到来していた給与は、たとえ実際の支払いが死亡後であっても、被相続人の給与所得として準確定申告の対象となります。同時に、未収金として相続財産にも含まれるため、所得税と相続税の両方で課税関係が生じます。

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2 亡くなった方の退職金の税金

  • 「みなし相続財産」として相続税課税対象
  • 死亡後3年以内に支給が確定した退職金が対象
  • 相続税非課税枠:500万円 × 法定相続人の数

退職金について >

「死亡後3年以内に支給が確定」の詳細

  • ■支給金額が3年以内に確定すれば、実際の支払いは3年経過後でも相続税の対象
  •  会社の取締役会での決議、労働協約に基づく自動計算なども「確定」に含まれる
  • ■3年経過後に支給が確定した場合:受取人の一時所得として所得税課税

具体例
– 令和6年4月1日死亡の場合
– 令和9年3月31日までに退職金額が確定 → 相続税対象
– 令和9年4月1日以降に退職金額が確定 → 一時所得(所得税対象)

死亡退職金の受取人について

受取人指定がある場合

  • 会社の退職金規定で受取人が指定されている場合は、受取人固有の財産
  • 遺産分割協議の対象外となり、指定された受取人が単独で受け取り可能
  • ■相続放棄をした人でも受け取ることができる

受取人指定がない場合

  • 相続人全員の共有財産として遺産分割協議の対象
  • 法定相続分または遺産分割協議による分割が必要

※退職金規定の確認が重要です。「遺族」「相続人」という記載でも、具体的な順位や範囲により取扱いが変わる場合があります。


3 勤務先から支払われた弔慰金の税金

  • 名目が弔慰金でも実質が退職金であれば「死亡退職金」として課税

非課税限度額

  • 業務上の死亡:普通給与の3年分
  • 業務外の死亡:普通給与の半年分

※非課税限度額を超えると「死亡退職金」として相続税課税の可能性

業務上死亡の判定基準

業務上死亡に該当する例

  •  勤務時間中の業務遂行中の事故
  • 会社の指示による出張中の事故
  • 通勤途中の事故(通勤災害)
  • 業務に起因する疾病による死亡
  • 会社の歓送迎会等、業務の延長とみなされる行事中の事故

業務上死亡に該当しない例

  • 完全な私用での外出中の事故
  • 業務と全く関係のない病気による死亡
  •  故意による自殺(ただし、業務上の極度のストレスが原因の場合は個別判断)

※労災保険の認定状況も参考になりますが、税法上の判定は独自に行われます。

弔慰金か退職金かの実質判定

退職金規定等に基づく場合
退職給与規定やこれに準ずる規定に基づいて支給される場合は、名目が弔慰金でも実質的に退職金として課税

判定のポイント

  • 「勤続年数×基本給×○倍」のような計算式 → 退職金の性質が強い
  • 会社への貢献度を個別に評価して支給 → 弔慰金の性質が強い
  •  被相続人の地位・功労度、同業他社の同様地位者の受給額も考慮

4 まとめ

亡くなった方が勤務先から受け取るはずだった金銭(給与、賞与、退職金、弔慰金)は、その種類や、いつ支給期が来たか、いつ支給額が確定したかなどによって、相続税や所得税の取り扱いが異なります。

正確な課税関係を理解し、適切な申告・手続きを行うためには、相続税に詳しい税理士にご相談されることをおすすめします。

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上場株式の相続税評価方法と注意点

はじめに

相続財産に上場株式が含まれている場合、その評価は相続税申告において重要な要素となります。株式の評価を誤ると過大申告や過少申告につながる可能性があるため、正確な評価方法を理解することが必要です。

1 上場株式の相続税評価方法と注意点

相続財産の中に上場株式が含まれている場合、相続税の申告にあたって適切な評価が求められます。上場株式の株価は短期間で大きく変動する可能性があるため、相続税法上は、相続開始日だけでなく、一定の期間の株価の中から最も低い価格を選ぶことが認められています。

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2 上場株式の相続税評価額の基本計算式

評価額 = 1株あたりの株価 × 株数

この「1株あたりの株価」と「株数」を正確に把握することが評価のポイントです。

上場株式の評価は「時価主義」が原則ですが、株価変動リスクを考慮し、相続人に有利な価格選択が認められています。これは、相続開始日がたまたま株価の高値の日だった場合の不利益を避けるためです。


3 株数の確認方法

  • ■証券会社の「残高証明書」で確認。
  • ■取引証券会社が不明な場合は「証券保管振替機構(ほふり)」で開示請求。
  • ■単元未満株(端株)の見落としに注意:配当計算書などで確認し、株主名簿管理人から証明書を取得する必要があります。

4 1株あたりの株価の決定方法(4つの中から最も低い額を選択)

  • ■相続開始日の終値
  • ■相続開始月の終値の平均額
  • ■前月の終値の平均額
  • ■前々月の終値の平均額

原則として、上場株式の相続税評価額は、相続開始日の終値によって計算されます。しかし、相続開始日の3か月以内において、終値の平均が相続開始日の終値を下回る場合は、その中で最も低い額を選択することになります。

計算例
A社株式 1,000株を相続した場合
– 相続開始日(3月15日)の終値:1,200円
– 3月の平均終値:1,150円
– 2月の平均終値:1,180円
– 1月の平均終値:1,100円

→ 最も低い1月の平均終値1,100円を採用
評価額 = 1,100円 × 1,000株 = 1,100,000円


5 評価に関する注意点

1. 相続開始日に株価がない場合

休日などで終値が存在しない場合:原則、相続開始日に近い日付の終値を採用します。近い日付が複数ある場合、近い前営業日と後営業日の終値平均を使用して評価します。

2. 権利落ち日と基準日

  • ■権利落ち日とは、配当等の権利を得られる日である権利確定日の3営業日前の次の日のことをいいます。権利落ち日の前後は、株価が大きく変動することが多いため、通常とは異なる計算となります。

リンク 国税庁 株式及び出資

3. 配当期待権・未収配当金

  • ■配当基準日から決議日前:配当期待権として評価
  • ■決議日から支払日前:未収配当金として評価

未収配当金・配当期待権について >

4. 株式分割・株式併合の影響

相続開始日前後に株式分割や株式併合が行われた場合、株価と株数の調整が必要になります。証券会社に確認し、正確な株数で計算することが重要です。

5. 外国株式の評価

外国の証券取引所に上場している株式は、原則として外国の取引所の価格を円換算して評価します。為替レートは相続開始日のTTM(仲値)を使用します。

6. 評価明細書の作成

相続税申告書には「上場株式の評価明細書」の添付が必要です。各銘柄ごとに4つの価格を記載し、選択した価格とその理由を明確にしましょう。

6 まとめ

上場株式の相続税評価は、正確な株数の把握と適切な株価の選択が重要です。特に以下の点にご注意ください:

– 証券会社の残高証明書で正確な株数を確認
– 4つの価格から最も低い価格を選択
– 権利落ち日前後の特殊な計算に注意
– 配当期待権・未収配当金の別途評価

相続税の専門院

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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