こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
「子どもに財産を相続させたくない」
そんなケースでご相談を受けることがあるのが、「相続廃除(そうぞくはいじょ)」という制度です。
現在の日本の法制度では、正式な手続きなしに法定相続人の資格を奪うことはできません。
今回は、一定の場合、被相続人の意思によって法定相続人の資格を剥奪することができる「相続廃除」について、民法の規定を踏まえ、わかりやすく解説します。
📚 目次
第1章|相続廃除とは?民法に基づく正式な制度
被相続人の明確な意思に基づいて法定相続人の資格を失わせる方法が「相続廃除」です。
相続廃除とは、推定相続人(通常、子や配偶者など)が、以下のような非行を行った場合に、被相続人が家庭裁判所に申し立てることで、その相続権を失わせる制度です。
申立ての主体:被相続人自身または遺言執行者
相続欠格との違い
相続欠格 | 相続廃除 | |
---|---|---|
理由 | 法律に定められた重大な不正行為(例:詐欺・脅迫による遺言作成等) | 被相続人に対する虐待・重大な侮辱・著しい非行など |
手続き | 法律上当然に相続資格を喪失(自動適用) | 被相続人が家庭裁判所に申立てを行い、審判を経て成立 |
取消し | 不可(取消・回復の余地なし) | 被相続人の意思で取消し(赦免)が可能 |
第2章|相続廃除が認められる条件(要件)
相続廃除は、以下のいずれかに該当する場合に認められる可能性があります。
- 被相続人に対する虐待
- 被相続人への重大な侮辱
- 著しい非行
裁判例で認められた例
「早く死んでしまえ」などの暴言を繰り返す(重大な侮辱)
犯罪行為で繰り返し服役し、被相続人が賠償対応している(著しい非行)
財産を無断で処分、不貞行為、長期の音信不通 など
ただし、単なる不仲では認められません。客観的に見て、信頼関係が回復不能なレベルで破綻していることが必要です。
第3章|相続廃除の方法:生前廃除と遺言廃除
① 生前廃除(生きているうちに手続き)
被相続人が家庭裁判所に申立てを行う
審判手続で進行
② 遺言廃除(遺言書に意思を記載)
遺言書に廃除の意思と理由を明記
遺言執行者が裁判所に廃除申立て
執行者の指定がない場合は、選任申立てが必要
※死亡後の廃除は、証拠が乏しくなるため、生前から記録や資料を残しておくことが重要です。
第4章|相続廃除の取消し
一度行った相続廃除は、被相続人の意思でいつでも取り消すことが可能です。
- 家庭裁判所に廃除取消しの申立てを行う
- または、廃除取消しの遺言を作成し、遺言執行者が手続きする
※取消しにも家庭裁判所の審判が必要です。
第5章|廃除できない相続人(対象外)
相続廃除の対象は推定相続人のうち、遺留分を有する者(通常は子や配偶者、直系尊属)に限られます。
そのため、兄弟姉妹などの遺留分のない相続人については、遺言で「相続させない」と書くだけで十分です。廃除の手続きは不要です。
第6章|代襲相続と相続税への影響
代襲相続は発生する
廃除された本人に子(孫など)がいれば、その子が代襲相続人となります。
これは「死亡と同様に扱う」ためです。
ただし、相続放棄(相続人として最初から扱わない)の場合は代襲相続は発生しません。
相続税法上の取り扱い
廃除された者は法定相続人としてカウントされない
代襲相続人がいれば、その者を法定相続人としてカウント
この違いは以下に影響します:
項目 | 内容 |
---|---|
相続税の基礎控除額 | 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
生命保険・死亡退職金の非課税限度額 | 500万円 × 法定相続人の数(※受取人ごとに按分) |
法定相続分に基づく税額計算 | 廃除された人・相続欠格者は法定相続人に含めず、 代襲相続人がいれば代わりにカウントする |
第7章|まとめ:相続廃除は慎重に、計画的に
相続廃除は、家庭の事情に深く関わるセンシティブな制度です。
「相続させたくない」と感じても、裁判所が認める要件を満たさなければ無効になります。
また、手続きには法的知識と証拠資料が必要です。