ご家族が亡くなられた際、勤務先から、亡くなった方が受け取るはずだった給与や賞与、そして退職金や弔慰金などが支払われることがあります。これらの金銭が、受け取ったご遺族にとって相続税や所得税の対象となるのか、分かりにくいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これらの金銭がどのように課税されるのかについて、分かりやすくご紹介します。
1 亡くなった方の給与・賞与の税金
「支給期」とは
給与・賞与の税務上の取扱いを理解するために重要な「支給期」について説明します。
- ■支給期とは、給与等の支払いを受ける権利が確定する時期のことです。
- ■月給:通常は各月の末日(例:3月分給与の支給期は3月31日)
- ■賞与:会社の規定や労働契約で定められた支給日
具体例
– 3月15日死亡、給与支給日が毎月25日の場合
– 2月分給与(2月25日支給予定)→ 死亡前に支給期到来 → 準確定申告対象
– 3月分給与(3月25日支給予定)→ 死亡後に支給期到来 → 相続財産
死亡後に支給期が到来したもの
- ■相続税の課税対象(本来の相続財産)
- ■所得税は課税されない
- ■死亡後3年経過後に支給が確定した場合は一時所得として所得税課税
死亡前に支給期が到来したもの
- ■被相続人の所得税対象(準確定申告で申告)
- ■相続税申告では源泉所得税控除後の金額を未収金として相続財産に含める
- ■ 死亡時に未払いであっても源泉徴収が必要
※注意点
死亡前に支給期が到来していた給与は、たとえ実際の支払いが死亡後であっても、被相続人の給与所得として準確定申告の対象となります。同時に、未収金として相続財産にも含まれるため、所得税と相続税の両方で課税関係が生じます。
2 亡くなった方の退職金の税金
- ■「みなし相続財産」として相続税課税対象
- ■死亡後3年以内に支給が確定した退職金が対象
- ■相続税非課税枠:500万円 × 法定相続人の数
「死亡後3年以内に支給が確定」の詳細
- ■支給金額が3年以内に確定すれば、実際の支払いは3年経過後でも相続税の対象
- ■ 会社の取締役会での決議、労働協約に基づく自動計算なども「確定」に含まれる
- ■3年経過後に支給が確定した場合:受取人の一時所得として所得税課税
具体例
– 令和6年4月1日死亡の場合
– 令和9年3月31日までに退職金額が確定 → 相続税対象
– 令和9年4月1日以降に退職金額が確定 → 一時所得(所得税対象)
死亡退職金の受取人について
受取人指定がある場合
- ■会社の退職金規定で受取人が指定されている場合は、受取人固有の財産
- ■遺産分割協議の対象外となり、指定された受取人が単独で受け取り可能
- ■相続放棄をした人でも受け取ることができる
受取人指定がない場合
- ■相続人全員の共有財産として遺産分割協議の対象
- ■法定相続分または遺産分割協議による分割が必要
※退職金規定の確認が重要です。「遺族」「相続人」という記載でも、具体的な順位や範囲により取扱いが変わる場合があります。
3 勤務先から支払われた弔慰金の税金
- ■名目が弔慰金でも実質が退職金であれば「死亡退職金」として課税
非課税限度額
- ■業務上の死亡:普通給与の3年分
- ■業務外の死亡:普通給与の半年分
※非課税限度額を超えると「死亡退職金」として相続税課税の可能性
業務上死亡の判定基準
業務上死亡に該当する例
- ■ 勤務時間中の業務遂行中の事故
- ■会社の指示による出張中の事故
- ■通勤途中の事故(通勤災害)
- ■業務に起因する疾病による死亡
- ■会社の歓送迎会等、業務の延長とみなされる行事中の事故
業務上死亡に該当しない例
- ■完全な私用での外出中の事故
- ■業務と全く関係のない病気による死亡
- ■ 故意による自殺(ただし、業務上の極度のストレスが原因の場合は個別判断)
※労災保険の認定状況も参考になりますが、税法上の判定は独自に行われます。
弔慰金か退職金かの実質判定
退職金規定等に基づく場合
退職給与規定やこれに準ずる規定に基づいて支給される場合は、名目が弔慰金でも実質的に退職金として課税
判定のポイント
- ■「勤続年数×基本給×○倍」のような計算式 → 退職金の性質が強い
- ■会社への貢献度を個別に評価して支給 → 弔慰金の性質が強い
- ■ 被相続人の地位・功労度、同業他社の同様地位者の受給額も考慮
4 まとめ
亡くなった方が勤務先から受け取るはずだった金銭(給与、賞与、退職金、弔慰金)は、その種類や、いつ支給期が来たか、いつ支給額が確定したかなどによって、相続税や所得税の取り扱いが異なります。
正確な課税関係を理解し、適切な申告・手続きを行うためには、相続税に詳しい税理士にご相談されることをおすすめします。