はじめての相続税|全体像をやさしく解説

2025年5月8日 管理人

1 相続税とは?

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

この章では、「相続税とは何か?」を説明します。

相続税の計算 (2)

相続税とは何か?

相続税とは、人が亡くなったときに、その人の財産(家、土地、現金など)を引き継いだ人に課される税金です。 目的は、富の偏りを減らし、経済的なバランスを保つことです。また、亡くなった人が生前に得た利益に対して、最終的に課税する意味もあります。

【例】 ある人が1億円の資産を持って亡くなり、その全額を子どもが引き継いだとします。 子どもは何もせずに1億円を手に入れることになります。そのため、相続税によって一部を国が回収し、社会全体の公平性を保とうとしています。

相続税の役割

相続税には2つの主な役割があります。

(1)所得税の補完
亡くなった人が生前に得た利益で蓄えた財産に、死亡のタイミングで税金をかける仕組みです。

(2)富の集中を防ぐ
一部の人に極端に多くの財産が集中するのを防ぐため、相続のたびに税金をかけて調整します。

相続税の基本的な流れ

(1)人が亡くなる
(2)財産を調査する(家、土地、預金など)
(3)誰が財産を引き継ぐかを確認する
(4)一定の金額を超えた財産に相続税がかかる
(5)税額を計算し、申告と納税を行う

相続税は、単に財産に税金をかけるだけではなく、社会全体の公平性を保つための仕組みです。

次の章では、相続税の計算方法や考え方について詳しく説明します。

2 相続税の課税方式

相続税を実際に計算する際には、「どのように課税するのか」というルールを理解する必要があります。ここでは、日本の相続税の課税方式について説明します。

相続税計算

課税方式の種類

相続税には、次の2つの基本的な課税方式があります。

(1)遺産課税方式:亡くなった人が残した財産全体に対して税金を計算する方法。 (2)遺産取得課税方式:相続人が受け取った財産の金額に応じて税金を計算する方法。

日本では、現在「遺産取得課税方式」が採用されています。

遺産取得課税方式の特徴

相続人ごとに取得した財産の金額に応じて、個別に相続税を計算します。 つまり、誰がいくら受け取ったかによって、それぞれの税額が変わります。

この方法には以下のような特徴があります:

  • 各相続人の取得額が反映されるため、税負担が公平になりやすい。
  • 高額な財産を取得した人ほど、高い税率が適用される。
  • 相続税の総額を一度計算し、それを実際の取得額に応じて分ける仕組み(法定相続分課税方式)を採用している。

なぜこの方式が採用されているのか?

この方式は、財産を多く受け取った人が多く税金を支払うことにより、社会全体の公平性を保つという考え方に基づいています。 また、税務上の不正(たとえば意図的に相続分を少なく申告するなど)を防ぎやすいという利点もあります。

次章では、実際にどんな財産に課税されるのか、そして課税対象にならない財産について説明していきます。

3 相続税がかかる財産とかからない財産

相続税はすべての財産にかかるわけではありません。この章では、相続税の対象になる財産(課税財産)とかからない財産(非課税財産)を明確に分けて説明します。

課税対象となる財産の例

以下のような財産は、相続税の対象になります。

  • 預貯金(銀行口座の残高)
  • 土地や建物などの不動産
  • 株式、投資信託などの金融資産
  • 車や貴金属、絵画などの動産
  • 未収金(貸したお金の返済がまだのもの)

また、「みなし相続財産」として、以下も課税対象になります:

  • 生命保険金(受取人が相続人の場合)
  • 死亡退職金(勤務先から支給されるもの)

これらは、民法上は相続財産ではありませんが、相続税の課税対象に含まれます。

非課税とされる財産

以下の財産は、相続税がかかりません。

  • 墓地、仏壇、位牌などの祭祀財産
  • 相続人が受け取った生命保険金のうち、非課税枠内の金額(500万円 × 法定相続人の数)
  • 死亡退職金のうち、非課税枠内の金額(同じく500万円 × 法定相続人の数)
  • 公的年金等の未支給分

判断のポイント

課税されるかどうかは、「経済的価値があるか」「被相続人の死亡によって取得したか」が判断基準になります。

次章では、相続税を計算する具体的な手順について説明していきます。

4 相続税の計算手順

この章では、相続税をどのように計算するかを、ステップごとに整理して解説します。

ステップ1:課税遺産総額の把握

まず、課税の対象となる財産(第3章で解説)をすべて評価します。 その合計から、「非課税財産」と「債務および葬式費用」を差し引いた金額が、課税遺産総額となります。

ステップ2:基礎控除の適用

課税遺産総額が「基礎控除額」を超えているかを確認します。

  • 基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)

課税遺産総額がこの基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。

ステップ3:相続税の総額の計算

課税遺産総額を法定相続分で仮に分けたと仮定して、それぞれの相続人について税率を適用し、税額を計算します。

  • 税率は超過累進税率(10%〜55%)が適用されます。
  • すべての税額を合計したものが「相続税の総額」です。

相続税の税率は以下の通りです:

【相続税の速算表】
* 1,000万円以下:10%(控除額0円)
* 3,000万円以下:15%(控除額50万円)
* 5,000万円以下:20%(控除額200万円)
* 1億円以下:30%(控除額700万円)
* 2億円以下:40%(控除額1,700万円)
* 3億円以下:45%(控除額2,700万円)
* 6億円以下:50%(控除額4,200万円)
* 6億円超:55%(控除額7,200万円)

ステップ4:実際の取得額に応じた按分

実際の相続分(遺言や協議による)に基づいて、相続税の総額を按分します。

ステップ5:各種控除の適用

  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者控除
  • 障害者控除
  • 相次相続控除

これらの控除を適用したあとの金額が、最終的な相続税額となります。

【計算例】
被相続人:夫、相続人:妻と子2人、遺産総額1億円の場合

ステップ1:課税遺産総額 = 1億円
ステップ2:基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円×3人 = 4,800万円
課税遺産総額 = 1億円 – 4,800万円 = 5,200万円
ステップ3:法定相続分で計算
妻:5,200万円×1/2 = 2,600万円 → 税額315万円
子:5,200万円×1/4 = 1,300万円 → 税額125万円(各人)
相続税総額 = 315万円 + 125万円×2 = 565万円

このように段階的に計算していきます。

次章では、贈与税の仕組みと、相続との関係について説明していきます。

5 贈与税と相続の関係

贈与税は、相続税を補完する役割を持っています。この章では、贈与税の基本的な仕組みと相続税との関係について説明します。

贈与税の仕組み

贈与税は、生前に財産をもらったときに課される税金です。 対象となるのは、個人から無償でもらった財産で、年間110万円を超える部分です。

【贈与税の税率】
贈与税には「一般贈与財産」と「特例贈与財産」の2つの税率があります。

一般贈与財産(夫婦間、兄弟間など):
200万円以下:10%
400万円以下:15%(控除額10万円)
600万円以下:20%(控除額30万円)
…(以下省略)

特例贈与財産(直系尊属から20歳以上の子・孫への贈与):
200万円以下:10%
400万円以下:15%(控除額10万円)
…(税率が一般より優遇)

相続税との関係(生前贈与加算)

相続開始前7年以内に被相続人から贈与された財産は、相続税の計算に加算されます。 これを「生前贈与加算」と言います。

相続時精算課税制度

高額な贈与について、贈与時にまとめて税金を計算する制度です。 一度選択すると暦年贈与制度に戻すことができない点に注意が必要です。

  • 特別控除:2,500万円まで非課税
  • 税率:一律20%
次章では、申告や納税の手続きについて解説していきます。

6 申告と納税の手続き

相続税と贈与税には、必ず申告と納税が必要です。この章ではその流れと期限について説明します。

相続税の申告と納税

  • 申告期限:相続開始(死亡)から10ヶ月以内
  • 納税方法:現金一括が原則
  • 延納(分割払い)や物納(不動産などで支払う)も条件付きで可能

贈与税の申告と納税

  • 申告期限:贈与を受けた翌年の2月1日〜3月15日
  • 申告が必要な場合:110万円を超える贈与を受けたとき

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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