お知らせやお役立ちコラムなど

BLOG

役員による使い込みに関する税金

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
会社の資金が、役員によって私的に使い込まれる(横領・不正経費使用など)という事態は、経営に重大な損害を及ぼすだけでなく、税務上の処理にも複雑な対応を求められます。

u8922936522_conceptual_image_of_a_business_executive_holding__68428bf3-4472-4fb6-a0b0-dda444e13e76_0

今回は、法人税における所得計算への影響を中心に、役員の使い込みが発覚した場合の税務上の取り扱いについて解説します。


リンク 税大ジャーナル 横領等の不法行為と帰属を巡る一考察


1 横領損失と損害賠償請求権は同時に計上されるのが原則

役員による資金の不正使用が判明した場合、会社にとっては「横領損失」が発生したとされます。
税務上は、原則として横領が発覚した時点で損失を損金計上します。

同時に、会社は加害者である役員に対して損害賠償請求権を取得し、損害賠償相当額を益金に計上します。これを「同時両建説」と呼び、会計処理の例は以下のとおりです。

(借方)横領損失 10,000千円 / (貸方)売掛金 10,000千円

(借方)未収入金 10,000千円 / (貸方)損害賠償金収入 10,000千円

この処理により、損金と益金が同額となるため、所得金額には影響しません

従業員の横領について >


2 損害賠償を途中で免除した場合のリスク

会社が役員の資力を確認したうえで、損害賠償請求を途中で免除した場合には注意が必要です。
この場合、免除額は役員に対する報酬として取り扱われます。

  • ■役員賞与は定期同額でなければ損金算入不可 → 会社の所得が増加

  • ■既に解任された元役員への免除は「寄付金」とみなされ、一部しか損金にできない

つまり、請求を免除することで、逆に法人税の負担が増加する結果となる可能性があるのです。

u8922936522_Japanese_accountant_realizing_fraud_while_reviewi_6249836d-b538-4b7d-a30b-3a06a653c260_1


3 過年度にわたる使い込みが発覚した場合の対応

使い込みが過去の事業年度にわたっていた場合、次のような問題が生じます。

  • 過年度の売上漏れ、架空経費の発見

  • 修正申告の必要(本税+加算税+延滞税)

この場合、税務署に修正申告書を提出し、過去の所得を是正する必要があります。


まとめ|税務上も刑事上も重大なリスク。未然防止と早期対応を

役員による使い込みが発覚した場合の法人税上の影響は次のとおりです。

  • ■発覚時点では、損失と損害賠償が両建てで処理され、所得への影響はないのが原則
  • ■回収不能が明らかになれば、損金処理が可能(貸倒損失)
  • ■免除した場合は、役員賞与または寄付金として損金不算入
  • ■過去年度にさかのぼる場合は、修正申告と追加課税のリスク
  • ■そもそも使い込み行為は刑事罰の対象となることもある

法人のお客様のページ

相続税の専門サイト

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

相続辞典ボタン

会社の経営辞典

従業員の横領が発覚したら?法人税の所得計算3つのポイント

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は、会社経営にとって最もショックな出来事のひとつ、「従業員による横領」が起きてしまった場合の法人税における所得計算のポイントを解説します。

横領行為はあってはならないものですが、発生してしまった場合には、損失の処理や損害賠償請求権の扱いなど、税務処理が非常に複雑です。事例を交えながら、どのような会計・税務対応が求められるかを見ていきましょう。


リンク 税大ジャーナル 横領等の不法行為と帰属を巡る一考察


横領が発覚した場合の所得計算のポイント

横領が起きた場合、法人税の観点からは次の3つの項目が重要になります。

1. 売上の計上時期

従業員が横領したとしても、会社名義で商品が販売されていれば、販売時点で売上として計上しなければなりません
代金が会社に入金されていないという事実は、売上の計上義務を免れる理由にはなりません。

2. 横領による損失(横領損失)の損金算入

横領された金額については、「横領損失」として損金算入が認められます
この場合、損失を計上するのは「横領が発覚した事業年度」ではなく、実際に横領が行われた事業年度とされることが一般的です。

3. 損害賠償請求権の益金(雑収入)計上時期

会社は、横領した従業員に対して損害賠償請求権を有します。
この損害賠償請求権に相当する金額は、雑収入として益金に算入する必要がありますが、その計上時期にはいくつかの考え方があります。

通説:同時両建説(損失と益金を同年度に計上)

税務上は「損失が発生した事業年度に損害賠償請求権も同時に益金計上する」とする考え方が通例です。
これを「同時両建説」といいます。

u8922936522_Japanese_business_owner_shocked_while_reviewing_f_1e03c660-2414-46e1-afe7-35b0e440485f_2


まとめ|横領と所得の関係は「売上・損失・雑収入」を同じ期に揃えることが原則

従業員の横領があった場合には:

  • ■商品販売による売上 → 発生時点で課税対象

  • ■横領された損失 → 発生時点で損金算入

  • ■損害賠償請求権 → 同時期に雑収入として益金計上(通例)

(借方)横領損失 10,000千円 / (貸方)売掛金 10,000千円
(借方)未収入金 10,000千円 / (貸方)損害賠償金収入 10,000千円

損害賠償請求権は実務上、未収入金とされ、回収不能だった場合は貸倒損失となりますが、これは貸倒損失の規定によります。
貸倒損失について >

この3つを同じ事業年度で処理するのが原則的な考え方です。
なお、「いつ知ったか」「請求権が確定したか」「回収可能かどうか」など、実態によって判断が分かれるため、慎重な検討が必要です。

役員の横領について >

法人のお客様のページ

相続税の専門サイト

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

相続辞典ボタン

会社の経営辞典

 

貸倒引当金とは?会計・税務の違いと実務のポイント

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。

企業活動では、売掛金や貸付金などの債権回収リスクと常に隣り合わせです。

倒産した社長
「この取引先、本当に払ってくれるだろうか?」そのような不安を抱えた経験をお持ちの方も多いと思われます。

今回は、万一に備えて損失を事前に計上する「貸倒引当金」について、会計上のルールと法人税法における取扱いについて解説いたします


第1章|貸倒引当金とは?

貸倒引当金とは、将来債権が貸倒れとなる可能性に備えて、あらかじめ費用(損金)として見積もり計上する会計上の処理

です。

対象となるのは、売掛金や貸付金などの金銭債権。取引先の倒産や経営破綻によって回収不能となるリスクを踏まえ、早めに損益に反映する仕組みです。

u8922936522_empty_Japanese_office_after_bankruptcy_cardboard__28757fe5-25e8-40d4-b381-af4544b24bdb_3


第2章|会計上の貸倒引当金

計上の4要件

企業会計原則では、以下すべてを満たす場合に引当金を計上することが求められます。

  1. 将来の特定の費用または損失である

  2. 当期以前の事象に起因している

  3. 発生可能性が高い

  4. 合理的な見積額がある

債権の区分と引当方法

会計上、金銭債権はリスクに応じて次の3つに分類されます:

債権の区分と貸倒引当金の評価方法
区分危険度評価方法
一般債権総括引当法(実績率や一定割合に基づく一括評価)
貸倒懸念債権個別引当法(債務者の財務状況や回収見込に応じて評価)
破産更生債権等個別引当法(原則として全額引当、回収不能が前提)

第3章|税務上の貸倒引当金の考え方

貸倒引当金については一定の場合に法人に限って、損金算入が認められています

税務上のポイントは、以下の2区分です:

  • ■一括評価金銭債権:売掛金など、広範囲な債権に一律で見積もる方式
  • ■個別評価金銭債権:回収困難と認められる個別債権を対象に、個別評価する方式

どちらも会計上で引当金が計上されていることが税務上の前提条件です。


第4章|一括評価金銭債権の取扱いと繰入限度額

一括評価の対象となる債権(例):

  • 売掛金、貸付金、未収手数料、未収家賃など

  • 保証履行後の求償権、受取手形、先日付小切手など

対象外の債権(例):

  • 預金、前払金、保証金、仕入割戻し、保険金請求権など

計算方法:

① 実績繰入率(原則)

過去3年の貸倒実績をもとにした繰入率を、期末残高に乗じます。

 繰入限度額 = 期末残高 × 実績繰入率

② 法定繰入率(中小企業の特例)

資本金1億円以下の中小法人は、業種別の「法定繰入率」による計算が可能です。

 例:製造業=8/1000、卸売業=10/1000


情報元:国税庁 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定


情報元:国税庁 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲


第5章|個別評価金銭債権の取扱いと繰入限度額

対象となる典型的な4事例:

貸倒引当金の繰入限度額と事由別算定方法(法人税法上)
事由繰入限度額の算定
更生・再生計画の認可決定等回収可能額を除いた全額を繰入可能
長期の債務超過財務内容等から判断し、回収見込がないと認められる金額
破産・民事再生等の申立て(債権額 - 取立見込額)× 50%
公的債務者の長期不履行同上:(債権額-取立見込)× 50%

実務で特に注意すべき点:

  • 「実質債権とみられない金額」や相殺債務は除くこと

  • 回収不能性を証明するため、信用調査・督促履歴・保証履行等の証拠資料の保存が必須


第6章|消費税との関係

貸倒引当金を繰り入れた段階では、消費税の処理は発生しません
実際に貸倒れが発生し、確定した時点で、売上にかかる消費税から控除できる仕組みです。


第7章|まとめとアドバイス

  • 貸倒引当金は、将来の貸倒れに備える重要な会計・税務処理です。

  • 税務では、「一括評価」と「個別評価」に分かれ、繰入額には厳格なルールがあります。

  • 適切な計上時期、証拠資料、会計処理との整合性が不可欠です。

 

法人のお客様のページ

相続税の専門サイト

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

相続辞典ボタン

会社の経営辞典

貸倒損失とは?税務上の3つの判断基準と実務で注意すべきポイント

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
企業経営において、取引先からの売掛金や貸付金が回収できないという「貸倒れ」は、できれば避けたい事態です。しかし、万一発生してしまった場合でも、税務上適切に処理することで、損金に算入し税負担を軽減できる場合があります。

なお、、「貸倒損失」として損金に計上するには、法人税法基本通達に定められた厳格な要件を満たす必要があります。単に回収できないからといって、損金処理できるわけではありません。

今回は、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3に基づいて、貸倒損失として認められるための3つの判断基準と、実務上の注意点について解説します。


情報元:国税庁 貸倒損失として処理できる場合


1 法律上の貸倒れ(法基通9-6-1)

法律に基づいた手続きや債権者間の協議等により、債権の全部または一部が正式に切り捨てられた場合に該当します。

主な具体例

会社更生法や民事再生法に基づく更生計画・再生計画の認可決定

  • ■特別清算の協定認可決定
  • ■金融機関や行政のあっせんによる債権放棄
  • ■債務超過が相当期間継続し、書面で債務免除した場合

 

最初の3つは外部の第三者によって「客観的に回収不能である」と判断されるケースですが、最後の債務免除については、債権者自らが意思表示を明確にする必要があります。
なお、債務免除を行ったとしても、その目的が合理的でなく、例えば関係会社への利益供与と判断された場合は、「寄附金」として損金不算入になる可能性があります。

このタイプは、損金経理は不要で、該当する事実が発生した事業年度で強制的に損金算入されます。


2 事実上の貸倒れ(法基通9-6-2)

法律上は債権が残っているものの、債務者の資産状況や支払能力などからみて、全額が回収不能と客観的に判断される場合です。

主な該当例

  • ■債務者の破産・強制執行・差押え・行方不明
  • ■長期間にわたる資金枯渇・債務超過状態
  • ■債務者の死亡・災害・取引停止・経営破綻

これらの事由により、合理的に回収不能と判断できることが前提です。税務上は「実態に即して判断」することが求められており、形式にとらわれず、債務者の経済的状況や債権回収の難易度、労力と費用のバランスも考慮されます。

この基準による処理では、損金経理が必須です。すなわち、帳簿に明確に費用として記載されている必要があります。

破産した社長


3 形式上の貸倒れ(法基通9-6-3)

形式的な事実に基づいて、一定の営業債権(売掛金・未収請負金など)について貸倒処理が認められるケースです。

主な要件

  • ■債務者との取引停止から1年以上経過しても弁済がない場合
    ※「取引停止日」「最後の弁済期日」「最後の弁済日」のうち最も遅い日から1年
  • ■債権額が小額であり、督促をしても弁済がなく、回収コストが債権額を上回ると見込まれる場合

形式要件を満たすだけで貸倒処理が認められるため、明確な経済的事実の証明は不要ですが、あくまで営業債権に限られ、貸付金などには適用されません。

この場合も、損金経理の処理が必須です。また、処理後は「備忘価額」として1円を帳簿に残す必要があります。


4 実務上の注意点と対応策

計上時期の管理

  • ■「回収不能になった事業年度」でしか計上できないため、タイミングを逃すと認められません。

  • ■事実上の貸倒れや形式上の貸倒れでは、事実発生時に損金処理しなければ後の修正は困難です。

証拠資料の整備

  • ■内容証明郵便、督促履歴、債権管理記録、代表者とのやり取りの記録

  • ■信用調査報告書や債務者の資産状況、経営破綻の証明も有効な証拠となります

消費税の処理

  • ■貸倒処理を行うと、対応する消費税額も売上税額から控除することが可能です。

更正の請求も視野に

  • ■すでに申告済みの事業年度においても、5年以内であれば「更正の請求」により損金算入と還付請求が可能です。


まとめ

貸倒損失の処理は、税務上の損金算入による節税効果をもたらす一方で、判断基準が厳格で証拠の整備も不可欠です。特に事実上の貸倒れや債務免除を伴う処理では、適切な立証がなければ税務調査で否認される可能性があります。

法人のお客様のページ

相続税の専門サイト

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

相続辞典ボタン

会社の経営辞典

債権者集会等があった場合の貸倒れ処理とは?

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は、取引先の経営悪化や債権者集会の発生時における「売掛金や貸付金の貸倒損失処理」について、法人税法上の取扱いを解説します。

本ブログは次のブログの具体例となっています。


情報元:国税庁 貸倒損失として処理できる場合

貸倒損失について >


1 設例:売掛先の経営悪化と債権者集会の発生

ある得意先A社は、業況悪化により10か月間にわたり売掛金の支払を停止しています。債権者間では債権回収に向けた相談が始まっており、当社としてもA社との取引を停止したうえで今後は現金取引へ移行する意向です。

また、別件として、倒産した会社社長が更生手続開始の申立てを行ったB社に対して、当社は2,000万円の貸金を有しており、担保不動産の査定額3,000万円のうち300万円が回収見込額とされています。このようなケースにおいて、税務上の貸倒処理が可能か否か、判断基準が求められます。

破産した社長2


2 貸倒れの2分類:法的貸倒れと事実上の貸倒れ

法人税法上、貸倒損失の処理には次の2つがあります。

■第一に、「法的整理による貸倒れ」
 貸金等の一部または全部が切り捨てられたような場合。例えば、会社更生法等の更生計画の認可の決定等により、該当部分については消滅時点における貸倒損失として損金経理が認められます。

■第二に、「事実上の貸倒れ」
 相手方の資産の状況、や支払能力等からみて、その全額が回収できないことが明らかになった場合であり、法人が損金経理を行うことを条件に、貸倒損失として損金算入が認められます。

ただしこの場合、納税者は貸倒損失とすべき事実を具体的に特定して主張し、損失の存在を合理的に推認させる立証が必要とされています。

9-6-1 金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ

法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額

イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの

ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

9-6-2 回収不能の金銭債権の貸倒れ

法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。


3 A社への対応:時期尚早な貸倒処理に注意

設例にあるA社に関しては、売掛金の支払が滞っているものの、資産や支払能力の詳細が明らかになっていない段階では、「回収不能」と認めるには早計とされます。

したがって、A社についての貸倒処理は、客観的かつ確定的な事情が整うまで控えるのが妥当といえるでしょう。

法的整理が行われていない場合でも、金融機関等が仲介し債権者集会等を通じて「調整的な債務整理」が行われた場合には、その処理に客観性と公正性が認められれば、貸倒損失の計上が許容される場合もあります。


4 B社への対応:更生手続開始

一方、B社については更生手続開始の申立てがなされているため、次のように処理できます。

  • 貸付金残高2,000万円のうち、回収見込額300万円を除いた残額1,700万円

  • このうち50%相当額=850万円については、個別貸倒引当金として損金に算入可能性を検討することができます

このように、法的整理の手続きが客観的に開始され、評価可能な担保価値も把握されている場合には、貸倒引当金による損金処理が正当に認められるとされます。


5 まとめ:債務整理・債権回収不能の判断には慎重さと証拠が必要

貸倒損失として損金処理を行うためには、

  • 相手方の経済的状況の把握

  • 支払能力の立証

  • 整理手続の有無と進行状況

  • 債権者集会等の合意文書や鑑定資料

といった具体的かつ合理的な証拠の整備が不可欠です。
安易な「経営悪化=貸倒処理」といった判断は、税務否認のリスクを伴います。

形式的貸倒について >
法人のお客様のページ

相続税の専門サイト

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

相続辞典ボタン

会社の経営辞典

取引を打ち切った得意先に対して残っている売掛金を、貸倒処理してよいのか?

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は「取引を打ち切った得意先に対する売掛金について、貸倒処理が認められるか」という論点を、法人税基本通達と実務に照らして解説します。

本ブログは次のブログの具体例となっています。


情報元:国税庁 貸倒損失として処理できる場合

貸倒損失について >


1 貸倒処理の原則:債権者の弁済不能と判断されること

売掛金等の金銭債権の貸倒処理については、原則として「相手方が弁済不能となった場合」において、その未回収債権の全額または一部について貸倒処理をすることが認められます。

この点、取引停止後1年以上経過し、かつ相手先との継続的な取引が行われていない債権について、備忘価額(1円)を除いて貸倒損失として損金処理できる旨が定められています。

u8922936522_Japanese_accountant_staring_at_a_stack_of_unpaid__da4d1bfa-bad1-4b98-bded-67a9e6a1a5e9_2
情報元:国税庁 金銭債権の貸倒れ

9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。

(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)

(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき

(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。

なお、この規定は売掛債権(売掛金、未収請負金等)に限定されており、貸付金その他これに準ずる債権は対象外である点に注意が必要です。また、当該売掛債権について担保物がある場合は適用除外となります。さらに、備忘価額は通常1円とされますが、正確には「備忘のため相当と認められる額」とされています。


2 9-6-3(形式的貸倒れ)と他の貸倒れ規定との違い

法人税基本通達9-6-3は「形式的貸倒れ」と呼ばれ、実質的な回収不能性の立証が不要という特徴があります。一定の形式的要件を満たせば貸倒処理が可能です。

これに対し、破産手続等の法的整理が開始している場合は「法的貸倒れ」(9-6-1)、債務者の支払能力等から回収不能が明らかな場合は「事実上の貸倒れ」(9-6-2)の適用を検討することになり、それぞれ立証要件が異なります。

u8922936522_Japanese_small_business_owner_checking_accounting_3ef8b0ca-a03f-4912-9efb-d5f8eee05465_1


3 継続的な取引停止と「1年以上経過」の適用について

実務上多いのが、取引の打ち切り後、相手方と1年以上音信不通になったケースです。

9-6-3の適用にあたっては、以下の形式的要件の確認が重要です:

取引停止時期の正確な特定
継続的取引の立証
担保物の有無の確認

これらの形式的要件を満たせば、実質的な回収不能性の立証は不要です。ただし、以下のような場合は9-6-3の適用が困難となります:

継続的取引関係の証明ができない場合
取引停止時期が不明確な場合
担保物の存在が判明した場合


4 取引停止後の処理と経済的実態に基づく判断

法人がある得意先との取引を停止した場合、まず9-6-3(形式的貸倒れ)の適用要件を満たしているかの確認が重要です。9-6-3の要件を満たさない場合は、9-6-2(事実上の貸倒れ)の適用を検討することになりますが、この場合は実質的な立証が必要となります。


5 まとめ:適用する貸倒れ規定に応じた適切な処理が重要

売掛金の貸倒処理については、状況に応じて適切な規定を選択することが重要です。

9-6-3(形式的貸倒れ)を適用する場合:
継続的取引の停止から1年経過等の形式的要件の確認
売掛債権であること、担保物がないことの確認
実質的な回収不能性の立証は不要

9-6-2(事実上の貸倒れ)を適用する場合:
相手先の支払不能の実態や、それを裏付ける証拠の整備が不可欠
債権の内容と取引経緯の記録
回収努力の履歴
相手の資産状況、支払能力等の調査

適用する規定に応じた要件を満たしながら、適切な税務処理を行うことが重要です。

 

法人のお客様のページ

相続税の専門サイト

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

相続辞典ボタン

会社の経営辞典