こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
企業活動では、売掛金や貸付金などの債権回収リスクと常に隣り合わせです。
「この取引先、本当に払ってくれるだろうか?」そのような不安を抱えた経験をお持ちの方も多いと思われます。
今回は、万一に備えて損失を事前に計上する「貸倒引当金」について、会計上のルールと法人税法における取扱いについて解説いたします。
第1章|貸倒引当金とは?
貸倒引当金とは、将来債権が貸倒れとなる可能性に備えて、あらかじめ費用(損金)として見積もり計上する会計上の処理
です。
対象となるのは、売掛金や貸付金などの金銭債権。取引先の倒産や経営破綻によって回収不能となるリスクを踏まえ、早めに損益に反映する仕組みです。
第2章|会計上の貸倒引当金
計上の4要件
企業会計原則では、以下すべてを満たす場合に引当金を計上することが求められます。
将来の特定の費用または損失である
当期以前の事象に起因している
発生可能性が高い
合理的な見積額がある
債権の区分と引当方法
会計上、金銭債権はリスクに応じて次の3つに分類されます:
区分 | 危険度 | 評価方法 |
---|---|---|
一般債権 | 低 | 総括引当法(実績率や一定割合に基づく一括評価) |
貸倒懸念債権 | 中 | 個別引当法(債務者の財務状況や回収見込に応じて評価) |
破産更生債権等 | 高 | 個別引当法(原則として全額引当、回収不能が前提) |
第3章|税務上の貸倒引当金の考え方
貸倒引当金については一定の場合に法人に限って、損金算入が認められています。
税務上のポイントは、以下の2区分です:
- ■一括評価金銭債権:売掛金など、広範囲な債権に一律で見積もる方式
- ■個別評価金銭債権:回収困難と認められる個別債権を対象に、個別評価する方式
どちらも会計上で引当金が計上されていることが税務上の前提条件です。
第4章|一括評価金銭債権の取扱いと繰入限度額
一括評価の対象となる債権(例):
■売掛金、貸付金、未収手数料、未収家賃など
■保証履行後の求償権、受取手形、先日付小切手など
対象外の債権(例):
■預金、前払金、保証金、仕入割戻し、保険金請求権など
計算方法:
① 実績繰入率(原則)
過去3年の貸倒実績をもとにした繰入率を、期末残高に乗じます。
繰入限度額 = 期末残高 × 実績繰入率
② 法定繰入率(中小企業の特例)
資本金1億円以下の中小法人は、業種別の「法定繰入率」による計算が可能です。
例:製造業=8/1000、卸売業=10/1000
情報元:国税庁 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲
第5章|個別評価金銭債権の取扱いと繰入限度額
対象となる典型的な4事例:
事由 | 繰入限度額の算定 |
---|---|
更生・再生計画の認可決定等 | 回収可能額を除いた全額を繰入可能 |
長期の債務超過 | 財務内容等から判断し、回収見込がないと認められる金額 |
破産・民事再生等の申立て | (債権額 - 取立見込額)× 50% |
公的債務者の長期不履行 | 同上:(債権額-取立見込)× 50% |
実務で特に注意すべき点:
「実質債権とみられない金額」や相殺債務は除くこと
回収不能性を証明するため、信用調査・督促履歴・保証履行等の証拠資料の保存が必須
第6章|消費税との関係
貸倒引当金を繰り入れた段階では、消費税の処理は発生しません。
実際に貸倒れが発生し、確定した時点で、売上にかかる消費税から控除できる仕組みです。
第7章|まとめとアドバイス
貸倒引当金は、将来の貸倒れに備える重要な会計・税務処理です。
税務では、「一括評価」と「個別評価」に分かれ、繰入額には厳格なルールがあります。
適切な計上時期、証拠資料、会計処理との整合性が不可欠です。