債権者集会等があった場合の貸倒れ処理とは?

2025年5月27日
Posted in コラム
2025年5月27日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は、取引先の経営悪化や債権者集会の発生時における「売掛金や貸付金の貸倒損失処理」について、法人税法上の取扱いを解説します。

本ブログは次のブログの具体例となっています。


情報元:国税庁 貸倒損失として処理できる場合

貸倒損失について >


1 設例:売掛先の経営悪化と債権者集会の発生

ある得意先A社は、業況悪化により10か月間にわたり売掛金の支払を停止しています。債権者間では債権回収に向けた相談が始まっており、当社としてもA社との取引を停止したうえで今後は現金取引へ移行する意向です。

また、別件として、倒産した会社社長が更生手続開始の申立てを行ったB社に対して、当社は2,000万円の貸金を有しており、担保不動産の査定額3,000万円のうち300万円が回収見込額とされています。このようなケースにおいて、税務上の貸倒処理が可能か否か、判断基準が求められます。

破産した社長2


2 貸倒れの2分類:法的貸倒れと事実上の貸倒れ

法人税法上、貸倒損失の処理には次の2つがあります。

■第一に、「法的整理による貸倒れ」
 貸金等の一部または全部が切り捨てられたような場合。例えば、会社更生法等の更生計画の認可の決定等により、該当部分については消滅時点における貸倒損失として損金経理が認められます。

■第二に、「事実上の貸倒れ」
 相手方の資産の状況、や支払能力等からみて、その全額が回収できないことが明らかになった場合であり、法人が損金経理を行うことを条件に、貸倒損失として損金算入が認められます。

ただしこの場合、納税者は貸倒損失とすべき事実を具体的に特定して主張し、損失の存在を合理的に推認させる立証が必要とされています。

9-6-1 金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ

法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額

イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの

ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

9-6-2 回収不能の金銭債権の貸倒れ

法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。


3 A社への対応:時期尚早な貸倒処理に注意

設例にあるA社に関しては、売掛金の支払が滞っているものの、資産や支払能力の詳細が明らかになっていない段階では、「回収不能」と認めるには早計とされます。

したがって、A社についての貸倒処理は、客観的かつ確定的な事情が整うまで控えるのが妥当といえるでしょう。

法的整理が行われていない場合でも、金融機関等が仲介し債権者集会等を通じて「調整的な債務整理」が行われた場合には、その処理に客観性と公正性が認められれば、貸倒損失の計上が許容される場合もあります。


4 B社への対応:更生手続開始

一方、B社については更生手続開始の申立てがなされているため、次のように処理できます。

  • 貸付金残高2,000万円のうち、回収見込額300万円を除いた残額1,700万円

  • このうち50%相当額=850万円については、個別貸倒引当金として損金に算入可能性を検討することができます

このように、法的整理の手続きが客観的に開始され、評価可能な担保価値も把握されている場合には、貸倒引当金による損金処理が正当に認められるとされます。


5 まとめ:債務整理・債権回収不能の判断には慎重さと証拠が必要

貸倒損失として損金処理を行うためには、

  • 相手方の経済的状況の把握

  • 支払能力の立証

  • 整理手続の有無と進行状況

  • 債権者集会等の合意文書や鑑定資料

といった具体的かつ合理的な証拠の整備が不可欠です。
安易な「経営悪化=貸倒処理」といった判断は、税務否認のリスクを伴います。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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