こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
企業経営において、取引先からの売掛金や貸付金が回収できないという「貸倒れ」は、できれば避けたい事態です。しかし、万一発生してしまった場合でも、税務上適切に処理することで、損金に算入し税負担を軽減できる場合があります。
なお、、「貸倒損失」として損金に計上するには、法人税法基本通達に定められた厳格な要件を満たす必要があります。単に回収できないからといって、損金処理できるわけではありません。
今回は、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3に基づいて、貸倒損失として認められるための3つの判断基準と、実務上の注意点について解説します。
1 法律上の貸倒れ(法基通9-6-1)
法律に基づいた手続きや債権者間の協議等により、債権の全部または一部が正式に切り捨てられた場合に該当します。
主な具体例
会社更生法や民事再生法に基づく更生計画・再生計画の認可決定
- ■特別清算の協定認可決定
- ■金融機関や行政のあっせんによる債権放棄
- ■債務超過が相当期間継続し、書面で債務免除した場合
最初の3つは外部の第三者によって「客観的に回収不能である」と判断されるケースですが、最後の債務免除については、債権者自らが意思表示を明確にする必要があります。
なお、債務免除を行ったとしても、その目的が合理的でなく、例えば関係会社への利益供与と判断された場合は、「寄附金」として損金不算入になる可能性があります。
このタイプは、損金経理は不要で、該当する事実が発生した事業年度で強制的に損金算入されます。
2 事実上の貸倒れ(法基通9-6-2)
法律上は債権が残っているものの、債務者の資産状況や支払能力などからみて、全額が回収不能と客観的に判断される場合です。
主な該当例
- ■債務者の破産・強制執行・差押え・行方不明
- ■長期間にわたる資金枯渇・債務超過状態
- ■債務者の死亡・災害・取引停止・経営破綻
これらの事由により、合理的に回収不能と判断できることが前提です。税務上は「実態に即して判断」することが求められており、形式にとらわれず、債務者の経済的状況や債権回収の難易度、労力と費用のバランスも考慮されます。
この基準による処理では、損金経理が必須です。すなわち、帳簿に明確に費用として記載されている必要があります。
3 形式上の貸倒れ(法基通9-6-3)
形式的な事実に基づいて、一定の営業債権(売掛金・未収請負金など)について貸倒処理が認められるケースです。
主な要件
- ■債務者との取引停止から1年以上経過しても弁済がない場合
※「取引停止日」「最後の弁済期日」「最後の弁済日」のうち最も遅い日から1年 - ■債権額が小額であり、督促をしても弁済がなく、回収コストが債権額を上回ると見込まれる場合
形式要件を満たすだけで貸倒処理が認められるため、明確な経済的事実の証明は不要ですが、あくまで営業債権に限られ、貸付金などには適用されません。
この場合も、損金経理の処理が必須です。また、処理後は「備忘価額」として1円を帳簿に残す必要があります。
4 実務上の注意点と対応策
計上時期の管理
■「回収不能になった事業年度」でしか計上できないため、タイミングを逃すと認められません。
■事実上の貸倒れや形式上の貸倒れでは、事実発生時に損金処理しなければ後の修正は困難です。
証拠資料の整備
■内容証明郵便、督促履歴、債権管理記録、代表者とのやり取りの記録
■信用調査報告書や債務者の資産状況、経営破綻の証明も有効な証拠となります
消費税の処理
■貸倒処理を行うと、対応する消費税額も売上税額から控除することが可能です。
更正の請求も視野に
■すでに申告済みの事業年度においても、5年以内であれば「更正の請求」により損金算入と還付請求が可能です。
まとめ
貸倒損失の処理は、税務上の損金算入による節税効果をもたらす一方で、判断基準が厳格で証拠の整備も不可欠です。特に事実上の貸倒れや債務免除を伴う処理では、適切な立証がなければ税務調査で否認される可能性があります。