こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は「取引を打ち切った得意先に対する売掛金について、貸倒処理が認められるか」という論点を、法人税基本通達と実務に照らして解説します。
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1 貸倒処理の原則:債権者の弁済不能と判断されること
売掛金等の金銭債権の貸倒処理については、原則として「相手方が弁済不能となった場合」において、その未回収債権の全額または一部について貸倒処理をすることが認められます。
この点、取引停止後1年以上経過し、かつ相手先との継続的な取引が行われていない債権について、備忘価額(1円)を除いて貸倒損失として損金処理できる旨が定められています。
9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。
(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)
(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。
なお、この規定は売掛債権(売掛金、未収請負金等)に限定されており、貸付金その他これに準ずる債権は対象外である点に注意が必要です。また、当該売掛債権について担保物がある場合は適用除外となります。さらに、備忘価額は通常1円とされますが、正確には「備忘のため相当と認められる額」とされています。
2 9-6-3(形式的貸倒れ)と他の貸倒れ規定との違い
法人税基本通達9-6-3は「形式的貸倒れ」と呼ばれ、実質的な回収不能性の立証が不要という特徴があります。一定の形式的要件を満たせば貸倒処理が可能です。
これに対し、破産手続等の法的整理が開始している場合は「法的貸倒れ」(9-6-1)、債務者の支払能力等から回収不能が明らかな場合は「事実上の貸倒れ」(9-6-2)の適用を検討することになり、それぞれ立証要件が異なります。
3 継続的な取引停止と「1年以上経過」の適用について
実務上多いのが、取引の打ち切り後、相手方と1年以上音信不通になったケースです。
9-6-3の適用にあたっては、以下の形式的要件の確認が重要です:
取引停止時期の正確な特定
継続的取引の立証
担保物の有無の確認
これらの形式的要件を満たせば、実質的な回収不能性の立証は不要です。ただし、以下のような場合は9-6-3の適用が困難となります:
継続的取引関係の証明ができない場合
取引停止時期が不明確な場合
担保物の存在が判明した場合
4 取引停止後の処理と経済的実態に基づく判断
法人がある得意先との取引を停止した場合、まず9-6-3(形式的貸倒れ)の適用要件を満たしているかの確認が重要です。9-6-3の要件を満たさない場合は、9-6-2(事実上の貸倒れ)の適用を検討することになりますが、この場合は実質的な立証が必要となります。
5 まとめ:適用する貸倒れ規定に応じた適切な処理が重要
売掛金の貸倒処理については、状況に応じて適切な規定を選択することが重要です。
9-6-3(形式的貸倒れ)を適用する場合:
継続的取引の停止から1年経過等の形式的要件の確認
売掛債権であること、担保物がないことの確認
実質的な回収不能性の立証は不要
9-6-2(事実上の貸倒れ)を適用する場合:
相手先の支払不能の実態や、それを裏付ける証拠の整備が不可欠
債権の内容と取引経緯の記録
回収努力の履歴
相手の資産状況、支払能力等の調査
適用する規定に応じた要件を満たしながら、適切な税務処理を行うことが重要です。