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相続時精算課税制度とは?メリット・デメリット

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

「贈与税が心配…でも、子や孫に早めに資産を渡したい」

その際に検討にあがる制度が「相続時精算課税制度」です。しかし、メリットの裏に潜む重大なデメリットを知らずに利用すると、想定した節税効果が得られない可能性があります。

今回は、相続時精算課税制度の仕組みやメリット・デメリット、さらに令和5年度の税制改正で何が変わったのかを、解説します。
情報元:国税庁 相続時精算課税の選択


1 相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度とは、贈与税の特例制度の一つで、以下の要件を満たす贈与に適用されます。

 適用の要件

  • 贈与者:贈与年の1月1日時点で60歳以上の直系尊属(親・祖父母)
  • 受贈者:18歳以上の子や孫(令和4年4月1日より年齢要件が20歳→18歳に引き下げ)
  • 贈与対象:金銭や不動産など原則としてすべての資産

この制度を選択すると、2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、超えた部分については一律20%の税率で贈与税が課されます。ただし、相続時にそれまでの贈与分を相続財産に「加算」して相続税を精算する仕組みです。

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2 相続時精算課税制度の仕組み

制度を選択すると、それ以降の贈与はすべて「相続時精算課税方式」で管理されます。具体的な流れは以下の通りです。

  • ■贈与時に「贈与税の申告」が必要(非課税でも申告要)
  • ■2,500万円までは非課税
  • ■超過分には20%の贈与税が課税される
  • ■相続発生時に、過去の贈与分を相続財産に加算し、相続税を計算
  • ■贈与時に支払った贈与税は、相続税から差し引かれる

3 令和5年度の改正ポイント

改正ポイント

  • ■相続時精算課税制度でも「年間110万円の基礎控除」が創設(令和6年1月1日以降の贈与から適用)
  • ■年間110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告が不要となる
  • ■ただし、110万円以下の贈与も相続時の加算対象となる点に注意

改正ポイント 相続時精算課税制度が使いやすくなりました!

従来の相続時精算課税制度は、一度選択すると「ずっと相続時精算課税」になってしまい、年間110万円の非課税枠(暦年課税のメリット)は使えませんでした。

しかし、改正後はこうなりました:

改正内容:相続時精算課税でも年間110万円まで非課税!

  • ■相続時精算課税を選んだ場合でも、年間110万円以下の贈与については「贈与税がかからず」「申告も不要」
  • ■実質的に、暦年課税と並列で選択できる制度へと整備された

4 メリットと重要な注意点

メリット

  • ■2,500万円の特別控除:贈与税の計算において、累計2,500万円まで贈与税がかからない
  • ■超過分の税率が一律20%:特別控除額を超えた分の贈与税率は、暦年課税の最高税率(最大55%)と比較して低く抑えられる
  • ■早期に財産を贈与できる:子や孫が必要としているタイミングでまとまった財産を移転し、有効活用させることができる
  • ■収益物件や値上がりが予想される財産の相続税対策:贈与後の収益は受贈者の財産となり、将来の値上がり分を相続税の対象から外すことができる
  • ■相続争いを防げる可能性:特定の財産を特定の相手に確実に引き継がせたい場合に有効

5 知らないと危険!8つの重大なデメリット

デメリット①:一度選択すると暦年課税が使えなくなる

税務署に「相続時精算課税制度選択届出書」を提出し、一度この制度を適用すると、同じ贈与者からの贈与については、将来にわたって暦年課税に戻すことができません。

令和6年以降は年間110万円の基礎控除が設けられましたが、この110万円の贈与額も相続時には持ち戻しの対象となります。暦年課税のような完全な非課税枠ではない点に注意が必要です。

暦年贈与について >

デメリット②:申告の手間がかかる

相続時精算課税制度を選択する場合、贈与財産の金額に関わらず、原則として贈与があった年の翌年3月15日までに贈与税の申告義務が発生します。

令和6年以降は年間110万円以下の贈与であれば申告不要となりましたが、110万円をわずかでも超える贈与があった場合は申告が必要です。申告書を期限内に提出し忘れた場合、20%の贈与税が課税される可能性があります。

デメリット③:単なる税金の先送りになりうる

相続時精算課税制度は、贈与税が非課税になるわけではなく、あくまで「相続時に精算する」制度です。

制度を選択して贈与を受けた財産は、贈与者の相続発生時に相続財産の価額に持ち戻して合算されます。相続税の基礎控除を超える相続財産が見込まれる場合は、単に税金の支払いが贈与時から相続時へ先送りされるだけで、相続税の節税効果が得られない可能性があります。

デメリット④:小規模宅地等の特例が使えなくなる

小規模宅地等の特例は、居住用や事業用として使われていた宅地等を相続した場合に、その相続税評価額を最大80%減額できる制度です。

しかし、この特例は「相続した宅地等」に対して適用されるため、相続時精算課税制度を利用して生前贈与した宅地等には適用できません。将来的に小規模宅地等の特例の適用が見込まれる宅地等がある場合、それを生前贈与してしまうと特例が使えなくなり、結果として相続税が高くなる可能性があります。

小規模宅地の特例について >

デメリット⑤:不動産の生前贈与はコストが大幅に増える

不動産を生前に贈与する場合、登録免許税や不動産取得税といった別の税金が相続と比較して大幅に増加します。

  • ■登録免許税:相続の場合は固定資産税評価額の0.4%、贈与の場合は2%
  • ■不動産取得税:相続の場合はかからない、贈与の場合はかかる

デメリット⑥:生前贈与を受けた財産は物納できない

相続税の物納制度は「相続または遺贈により取得した財産」が対象となります。相続時精算課税制度で生前贈与を受けた財産は、贈与の時点で受贈者の財産となっているため、相続税を物納する際に充てることはできません

贈与を受けた財産に対する相続税の納税資金を別に準備しておく必要があります。

デメリット⑦:将来の税制改正リスク

相続時精算課税制度で贈与された財産は、贈与者の相続が発生するまでの間、長期間にわたって相続財産に持ち戻されるという特性があります。

制度を利用した時点では有利に見えても、将来の法改正によって不利になる可能性もあります。実際に、平成25年の税制改正では相続税の基礎控除額が約40%引き下げられた事例があります。

デメリット⑧:過去の贈与を忘れるリスク

相続時精算課税制度を選択した場合、それ以降の贈与者からの贈与は、金額に関わらず相続時に持ち戻しの対象となります。

この過去の贈与について、贈与を受けた側が「うっかり忘れ」てしまい、相続税申告に含め忘れるケースがあります。税務調査などでこれが発覚した場合、後日税務署から指摘を受け、遺産分割協議や相続税の申告をやり直す必要が出てくる可能性があります。

 

実務対応のポイントとまとめ

相続時精算課税制度は、最大2,500万円の特別控除や、令和6年からの年間110万円の基礎控除といった魅力的なメリットがありますが、その裏返しとして無視できない8つの重大なデメリットが存在します。

特に、一度選択すると暦年課税に戻せないこと贈与財産が相続時に持ち戻されて相続税の対象になること不動産贈与のコスト増や小規模宅地等の特例が使えなくなる点などは、安易な利用判断を避ける上で非常に重要です。

制度の利用を検討する際は、ご自身の資産状況、将来の相続財産の予想、贈与を受ける方の状況などを総合的に考慮し、相続発生時を見越した税負担額のシミュレーションを行うことが不可欠です。

「何がベストな選択肢なのか」を判断するのは専門知識が必要となるため、不安がある場合は相続税に強い税理士に相談されることを強くお勧めします。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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【暦年贈与】贈与税のしくみとは?課税方法・計算例・非課税制度

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

親や祖父母から財産を譲り受ける「贈与」。お金や土地、不動産をもらったとき、「税金はかかるの?」「申告は必要?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

今回は、贈与税の基本的なしくみから、課税の方法、税率の計算、非課税となる特例制度まで、贈与税に関する知識をわかりやすく解説します。


1 贈与税とは?誰に、いつ課されるの?

贈与税とは、個人から個人へ財産を無償で渡したときに、財産を「もらった側」が負担する税金です。

課税されるのは誰?

  • 贈与税の納税義務者:財産をもらった「受贈者」

  • 課税対象:個人から個人への贈与(法人は対象外)

たとえば、親から子へ、祖父母から孫へ不動産や現金を贈与した場合、もらった側に贈与税がかかる可能性があります。

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2 贈与税の課税方式と基礎控除

贈与税は、原則として「暦年課税方式」により課税されます。

暦年課税方式とは?

1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与財産の合計額に応じて、贈与税を計算します。

基礎控除額(非課税枠)

贈与税には年間110万円の「基礎控除」があります。つまり、1年間に受け取った贈与額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。

相続時精算課税制度とは?メリット・デメリット


3 贈与税の計算方法と税率

贈与税は、「基礎控除後の課税価格」に対して累進税率が適用されます。

特例税率 vs 一般税率

受贈者の年齢と贈与者との関係によって、適用される税率が異なります。

贈与税の特例税率と一般税率の比較
適用条件税率適用されるケース
直系尊属(父母・祖父母)から18歳以上の子や孫への贈与下掲の表(特例税率)特例税率が適用される
上記以外(兄弟姉妹間、配偶者間、未成年への贈与など)下掲の表(一般税率)一般税率が適用される

計算例:特例税率が適用されるケース

  • 贈与額:600万円

  • 基礎控除:110万円

  • 課税価格:490万円

  • 税率:20%、控除額:30万円

贈与税額 = 490万円 × 20% − 30万円 = 68万円

 


4 非課税となる贈与とは?

贈与税がかからないケースもあります。次のような贈与は、条件を満たせば非課税となります。

1. 生活費や教育費

必要な都度、生活費や学費を贈与した場合、贈与税はかかりません。ただし、まとめて一括で渡すと課税対象となることがあるため注意が必要です。

生活費の贈与について >

2. 教育資金一括贈与の特例(最大1,500万円非課税)

30歳未満の子や孫の教育資金を一括贈与する場合、専用口座と手続きによって最大1,500万円まで非課税にできます。

3. 結婚・子育て資金の一括贈与(最大1,000万円非課税)※期限終了に注意


5 贈与税の申告・納付はいつまで?

贈与税の申告期限は、贈与を受けた翌年の 2月1日から3月15日 までです。

  • 贈与税の申告が必要な場合:110万円を超える贈与を受けたとき

  • 贈与税の納付期限も申告期限と同じ

期限を過ぎると、延滞税や加算税などのペナルティが発生するため、早めの準備が肝心です。

延滞税等について >


6 贈与税を巡るトラブルを防ぐには?

名義預金とみなされるケースに注意!

「孫名義の通帳に入金したけど、通帳・印鑑は祖父母が管理していた」などの場合、贈与とは認められず、相続税の対象となる恐れがあります。

贈与契約書を作成しましょう

贈与は「契約」です。贈与者と受贈者の意思確認を記録するためにも、贈与契約書を作っておくことをおすすめします。

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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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相続税はいつから始まった?なぜ相続に税金がかかるのか

1 相続税の誕生 – 明治38年、戦費調達から生まれた制度

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

相続税が日本で導入されたのは、明治38年(1905年)1月1日のことです。日露戦争の膨大な戦費調達のため、政府は「非常特別税法」による二度の増税を実施しましたが、相続税だけは単行法として規定され、永久的性質の財源とすることとされました。

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  • 課税方式:遺産税方式(被相続人の遺産総額に課税)
  • 税率:家督相続1.2%~13%、遺産相続1.5%~14%
  • 課税根拠:「偶然所得課税説」- 相続により偶然得た財産への課税

2 なぜ相続に税金がかかるのか?時代とともに変化する課税根拠

相続税の課税根拠は、時代とともに大きく変化してきました。

明治時代:偶然所得課税説

創設当初は、相続による財産取得を「偶然所得の発生」ととらえ、その所得(財産)に対して負担能力に応じて課税する考え方でした。

戦後占領期:富の集中排除

昭和22年のシャウプ勧告では、「財閥解体」という占領政策と結びついた「富の集中排除」が課税の根拠として示されました。これは単なる税収確保ではなく、社会政策的な意味を持つものでした。

現代:富の再分配と所得税補完

現在の相続税制度では、以下の2つの意義が併存しています:

  • ■富の再分配機能:社会に還元することによる富の集中抑制
  • ■所得税の補完:被相続人の一生の税の清算という意味

 

3 激動の戦後改革 – シャウプ勧告による抜本的改革

昭和22年:民法改正対応と贈与税創設

  • 家督相続と遺産相続の区分廃止
  • ■贈与税の創設(一生を通じた累積課税)
  • 賦課課税から申告納税制度への転換

昭和25年:シャウプ勧告による革命的改革

シャウプ勧告は、相続税制度に革命的な変化をもたらしました:

「累積的取得税」の導入

  • 相続税と贈与税を統合
  • 一生を通じて取得した財産すべてを累積して課税
  • 最高税率90%という驚異的な累進性

差別税率の廃止

  • 被相続人との親疎による税率格差を撤廃
  • より公平な課税を目指す

短命に終わった理想的制度

しかし、この「累積的取得税」はわずか3年で廃止されました。理由は:

  • 実行上の困難(過去数十年の財産取得記録が必要)
  • 日本の実情との乖離
  • 納税者・税務署双方の事務負担の増大

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4 独立後の制度再構築 – 日本の実情に合わせた改革

昭和28年:累積的取得税の廃止

「シャウプ勧告は理論に走りすぎている」との批判を受け、より実用的な制度に改正:

  • ■遺産取得税方式の相続税暦年課税の贈与税の二本立て
  • ■税率も現実的な水準に調整

暦年贈与について >

昭和33年:現行制度の基礎確立

遺産税方式と遺産取得税方式の折衷型を採用

  • 税額計算は遺産税方式(遺産総額で計算)
  • 納税は各相続人が個別に実施
  • この基本構造が現在まで維持されている

相続税の全体像について >


5 21世紀の相続税 – 高齢化社会への対応

平成15年:相続時精算課税制度の導入

高齢化の進展により、「相続による次世代への資産移転の時期が従来よりも大幅に遅れ」という課題に対応:

制度の特徴

  • 贈与時:2,500万円まで非課税、超過分は20%課税
  • 相続時:贈与財産と相続財産を合算して相続税計算
  • 経済活性化という新たな政策目的を付加

相続時精算課税について >

現代における相続税の意義

  • ■富の再分配:社会格差の是正
  • ■所得税の補完:一生の税の清算
  • ■経済の活性化:資産の世代間移転促進

6 相続税100年の変遷から学ぶ教訓

制度の柔軟性の重要性

相続税の歴史を振り返ると、時代の要請に応じて制度が柔軟に変化してきたことがわかります:

  • 戦費調達(明治時代)
  • 財閥解体(戦後占領期)
  • 社会政策(現代)

理想と現実のバランス

シャウプ勧告による「累積的取得税」の短命な歴史は、理論的に優れた制度でも、実行可能性がなければ継続できないことを示しています。

国際的な潮流との調和

現在では、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなど主要国が累積的資産移転税を採用しており、日本の相続時精算課税制度も世界的な潮流に沿ったものといえます。

 


まとめ|相続税の歴史を知ることで見えてくる制度の本質

相続税は決して「理不尽な税金」ではなく、社会全体の公平性を保ち、経済の健全な発展を支える重要な制度です。100年の歴史を通じて:

  • ■社会情勢に応じて柔軟に変化してきた
  • ■富の再分配という一貫した目的を持ち続けている
  • ■実行可能性と理論的正当性のバランスが重要である

現在の相続税制度も、高齢化社会という新たな課題に対応しながら進化を続けています。制度の歴史と背景を理解することで、より効果的な相続対策を立てることができるでしょう。

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【相続トラブルを防ぐ】特別受益の持ち戻し免除とは?

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

相続が発生した際、被相続人が生前に特定の相続人へ財産を贈与していた場合、それは「特別受益」として相続財産に加えて計算されるのが原則です。しかし、被相続人が「その贈与分は相続財産に含めなくてよい」と意思表示していた場合は、この“持ち戻し”を免除することができます。

今回はこの「特別受益の持ち戻し免除」について、制度の概要、注意点、実務上の対策をわかりやすく解説します。


1 特別受益とは?~公平な遺産分割のための制度~

相続人の一部が、被相続人から住宅取得資金や結婚資金などの多額の贈与を受けていた場合、それは**「特別受益」**とされ、相続時に相続財産へ持ち戻して計算するのが原則です。

この制度は、すべての相続人が公平に相続できるようにするために設けられています。

特別受益について >


2 持ち戻し免除とは?

持ち戻し免除とは、被相続人が「贈与分を相続財産に加えないでよい」と意思表示した場合に、特別受益を遺産分割の対象から除外できる制度です。

これは相続人間の公平よりも、「被相続人の意思」を重視する制度であり、特定の相続人を優遇したいという思いを反映できます。


3 持ち戻し免除が認められる3つのケース

1. 明示の意思表示がある場合

遺言書や贈与契約書などに、「特別受益の持ち戻しは免除する」と明確に記載されていれば、持ち戻し免除が有効です。

記載例:

「長男に対する生前贈与については、持ち戻しを免除するものとする。」

2. 黙示の意思表示が認められる場合

書面はなくても、被相続人の生前の言動や状況から「持ち戻しを免除する意図があった」と判断されれば、黙示の意思表示として認められることもあります。

認められやすいケース:

  • ■家業を継がせるための資産贈与

  • ■介護などの見返りがあった場合

  • ■経済的困窮など特別な事情のある相続人への贈与

3. 婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与

2019年の民法改正により、婚姻期間が20年以上の配偶者に対する居住用不動産の贈与や遺贈は、原則として持ち戻し免除の意思表示があったと推定されるようになりました。


4 持ち戻し免除の注意点

遺留分には影響しない

持ち戻し免除の意思表示があっても、遺留分(最低限の法定相続分)を侵害することはできません。遺留分の計算上は、特別受益として考慮されます。

たとえ遺言で「特別受益を持ち戻さない」と記載しても、他の相続人が遺留分を侵害された場合は、「遺留分侵害額請求」が可能です。

相続トラブルに発展するリスク

持ち戻し免除により特定の相続人が大きな財産を取得すると、他の相続人との間で不公平感が生じる可能性があります

  • ■「本当に持ち戻し免除の意思があったのか?」

  • ■「遺言書の内容は妥当か?」

といった争いが、遺産分割協議・調停・審判に発展することも少なくありません。


5 トラブルを避けるための生前対策

 遺言書で意思を明確に

持ち戻し免除を行う場合は、遺言書で明確に記載することが最も安全です。口約束や黙示では、後の争いの火種になることもあります。

 

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【相続トラブルを防ぐ】特別受益とは?知っておきたいポイントを解説

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

相続の現場では、被相続人から「生前に家を建ててもらった」「結婚資金を援助してもらった」など、特定の相続人だけが利益を得ていたというケースがあります。これが「特別受益」の問題です。

特別受益を正しく理解しておかないと、遺産分割協議が不公平になり、相続トラブル(争族)に発展する恐れもあります。本記事では、特別受益の基礎知識から計算方法、トラブル防止の対策まで、実務経験に基づいて分かりやすく解説します。


1 特別受益とは?その意味と重要性

特別受益とは、法定相続人の中で、被相続人から遺言や生前贈与により「特別な利益」を受けた人がいる場合に、その利益を公平な相続に反映させるための制度です。

例えば、長男だけが住宅購入資金1,000万円を生前に受け取っていた場合、それを考慮せずに相続すると、他の相続人から「不公平だ」と感じられてしまいます。そこで、その1,000万円を一度遺産に「持ち戻す」ことで、相続分を調整します。特別受益は相続税の対象ではないため、この持ち戻しは相続税に影響を与えることは、基本的にありません。あくまで、公平な相続分を計算するための概念です。

法的根拠と要件
特別受益は民法903条に定められた制度で、以下の要件を満たす必要があります:
・相続人が被相続人から受けた利益であること
・「遺贈」または「婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与」であること
・扶養の範囲を超える多額の贈与であること

単なる生活費や一般的な教育費は扶養義務の範囲内とされ、特別受益には該当しません。

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2 どんなものが特別受益になる?

以下のような贈与や遺贈が、特別受益に該当する可能性があります。

特別受益となるケース

  • ■遺言による相続人への財産の贈与(遺贈)
  • ■婚姻・養子縁組のための多額の持参金や支度金
  • ■住宅購入資金の援助
  • ■事業資金の援助(農地・株式等)
  • ■高額な学費援助(医学部・留学費など)等

特別受益とならないことが多いケース

  • ■一般的な生活費・仕送り
  • ■高校までの教育費
  • ■同居家族の生活支援
  • ■生命保険金(原則)
  • ■被相続人が孫にした贈与 等

判断のポイント
特別受益に該当するかどうかは、以下の要素を総合的に判断します:

  • ■被相続人の資産状況や社会的地位
  • ■贈与の金額や性質
  • ■他の相続人との公平性
  • ■家族の慣行や社会通念

例:年収500万円の家庭での100万円の贈与と、年収5,000万円の家庭での100万円の贈与では、特別受益としての評価が異なる場合があります。

時効について
2023年4月1日施行の民法改正により、相続開始から10年を経過すると、原則として法定相続分による分割となり、特別受益を主張できなくなる点に注意が必要です。

 


3 特別受益があるときの相続分の計算方法

特別受益がある場合、遺産総額に特別受益を加えた「みなし相続財産」を基準に分割計算します。ここでの「みなし相続財産」は、相続税の計算における「みなし相続財産」とは異なります。あくまで、公平な相続分の計算のための概念です。

計算式

■みなし相続財産
= 相続財産 + 特別受益の額

■特別受益者の相続分
= (みなし相続財産 × 法定相続割合)- 特別受益額

例:遺産1億円、子3人、長女に生前贈与2,000万円

  • ■みなし相続財産:1億円+2,000万円=1億2,000万円

  • ■相続分:各4,000万円

  • ■長女の取得額:4,000万円-2,000万円=2,000万円

  • ■他の兄弟:各4,000万円

特別受益が相続分を超える場合

特別受益の額が計算上の相続分を上回る場合、その相続人は追加で相続財産を受け取ることはできません(民法903条2項)。

計算例:

  • ■遺産:3,000万円、子2人
  • ■長男への生前贈与:2,500万円
  • ■法定相続分:各1,500万円

この場合、長男は既に法定相続分を超える贈与を受けているため、残りの遺産3,000万円はすべて次男が相続します。

評価の時点

特別受益の価額は「相続開始時の価値」で評価します。例えば、贈与時1,000万円の不動産が相続時に2,000万円になっていた場合、2,000万円として計算します。


4 遺留分との関係と持ち戻し免除

遺留分計算における特別受益
特別受益は遺留分の計算にも影響します。2019年の相続法改正により、遺留分計算における生前贈与の対象期間は「相続開始前10年以内」となりました(ただし、遺贈や相続人以外への贈与は別ルール)。

重要:相続分の計算と遺留分の計算では、特別受益の取り扱いが異なります

  • ■相続分の計算:持ち戻し期間に制限なし
  • ■遺留分の計算:原則として相続開始前10年以内

持ち戻し免除とは
被相続人が「この贈与は特別受益として持ち戻さなくてよい」と意思表示することで、特別受益の持ち戻しを免除できます。

持ち戻し免除が認められる場合:

  • ■ 明示の意思表示:遺言書等に明記
  • ■ 黙示の意思表示:状況から免除の意図が推認される場合
  • ■ 法定推定:婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産贈与

記載例:
「長男○○に対する令和○年○月○日の金1,000万円の贈与については、民法903条の特別受益の持ち戻しを免除する。」

注意点
持ち戻し免除の意思表示があっても、遺留分の計算には影響しません。他の相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

 

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飯野明宏税理士
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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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金(ゴールド)を売却・相続する際の税金とは?

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

世界情勢の不安定化やインフレ対策として「金(ゴールド)」への投資が注目されている昨今、金を資産として保有される方も増えています。そんな中、「金を売ったら税金は?」「相続で金を受け継いだ場合はどうなるの?」といった疑問の声も聞かれるようになりました。

金に関する税金は、「売却」か「相続」か、「現物」か「積立」かなど、状況に応じて取り扱いが大きく異なります。本記事では、金の税務について次の観点から解説します。


1 金を売却したときの税金(譲渡所得)

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● 基本は「譲渡所得」として課税される

金地金や金貨を売却して得た利益は、原則として「譲渡所得」として総合課税の対象になります。売却益は、以下の計算式で算出します。

  • 譲渡所得 = 譲渡価格 -(取得費+譲渡費用)

さらに所有期間によって、以下のように課税計算が変わります。

・所有期間5年以内:短期譲渡所得

  • 所得金額から最大50万円の特別控除を差し引いた金額が課税対象。

・所有期間5年超:長期譲渡所得

  • 上記の控除後、さらに1/2に圧縮された金額が課税対象に。

● 取得費に注意!

取得費が不明な場合、譲渡価格の5%を概算取得費とすることになります。取得費を正しく証明するためにも、「購入時の領収書や明細書」は大切に保管しておきましょう。

● 支払調書制度について

平成24年1月1日以降、同一人に対する金地金等の譲渡対価の支払い金額が200万円を超える場合、買取業者は税務署に「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を提出する義務があります。この調書には売却者の住所、氏名、マイナンバー、金の種類や数量、金額などが記載されるため、税務署は金の売却を把握できます。200万円以下でも確定申告が不要というわけではなく、譲渡所得の特別控除50万円を超えた場合は申告が必要です。


2 金を相続したときの税金(相続税)

金は現金や不動産と同様に、相続財産として相続税の対象になります。

● 種類ごとの評価方法

  • 金地金(インゴット):死亡日時点の1gあたりの業者買取価格 × 重量

  • 金貨:額面評価または、時価評価(骨とう価値がある場合)

  • ジュエリー等:買取業者による評価

  • 純金積立:積立口座の残高

  • 祭具等:原則非課税だが、資産性があると課税対象に

● 金の相続税評価の注意点

相続税評価額は被相続人の死亡日時点の1gあたりの業者買取価格で計算しますが、売却価格(小売価格)ではないことに注意が必要です。また、金の仏具等を相続税対策として購入する手法が紹介されることがありますが、現在では税務署に否認されるケースが多く、加工費分だけ資産価値が目減りするリスクもあるため、真の節税効果は期待できません。

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3 相続した金を売却したときの税金(再び譲渡所得)

相続した金を売却した場合も、「譲渡所得」として課税されます。

このときの取得日・取得価額は被相続人の購入日・購入価格を引き継ぎます。つまり、被相続人が長く保有していれば「長期譲渡所得」として有利になります。

さらに、相続税を支払った場合には、一定の条件を満たすことで、相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」も活用可能です。


4 金投資口座(純金積立等)の税金

現物の金地金ではなく、金投資口座や金貯蓄口座での運用利益は、金融類似商品の収益として

  • 一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の源泉分離課税

となります。確定申告は不要で、扶養控除判定にも含まれません。

5 金の税務における注意点

● 損失が発生した場合の取り扱い

金地金の売却で損失が出た場合、同一年中の他の譲渡所得とは損益通算できますが、金地金は「生活に通常必要でない資産」に該当するため、給与所得などの他の所得との損益通算はできません。

● 営利目的での継続的売買

営利を目的として継続的に金地金の売買を行っている場合は、その実態に応じて事業所得または雑所得として扱われ、譲渡所得とは税務上の取り扱いが異なります。

● 確定申告の要否

年収2,000万円以下の給与所得者の場合、給与所得及び退職所得以外の所得の合計が20万円以下であれば確定申告は不要ですが、金の売却益が特別控除50万円を超える場合は、金額に関わらず確定申告が必要です。

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静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

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