相続時精算課税制度とは?メリット・デメリット

2025年5月19日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

「贈与税が心配…でも、子や孫に早めに資産を渡したい」

その際に検討にあがる制度が「相続時精算課税制度」です。しかし、メリットの裏に潜む重大なデメリットを知らずに利用すると、想定した節税効果が得られない可能性があります。

今回は、相続時精算課税制度の仕組みやメリット・デメリット、さらに令和5年度の税制改正で何が変わったのかを、解説します。
情報元:国税庁 相続時精算課税の選択


1 相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度とは、贈与税の特例制度の一つで、以下の要件を満たす贈与に適用されます。

✅ 適用の要件

  • 贈与者:贈与年の1月1日時点で60歳以上の直系尊属(親・祖父母)
  • 受贈者:18歳以上の子や孫(令和4年4月1日より年齢要件が20歳→18歳に引き下げ)
  • 贈与対象:金銭や不動産など原則としてすべての資産

この制度を選択すると、2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、超えた部分については一律20%の税率で贈与税が課されます。ただし、相続時にそれまでの贈与分を相続財産に「加算」して相続税を精算する仕組みです。

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2 相続時精算課税制度の仕組み

制度を選択すると、それ以降の贈与はすべて「相続時精算課税方式」で管理されます。具体的な流れは以下の通りです。

  1. 贈与時に「贈与税の申告」が必要(非課税でも申告要)
  2. 2,500万円までは非課税
  3. 超過分には20%の贈与税が課税される
  4. 相続発生時に、過去の贈与分を相続財産に加算し、相続税を計算
  5. 贈与時に支払った贈与税は、相続税から差し引かれる

3 令和5年度の改正ポイント

🔄【改正ポイント】

  • 相続時精算課税制度でも「年間110万円の基礎控除」が創設(令和6年1月1日以降の贈与から適用)
  • 年間110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告が不要となる
  • ただし、110万円以下の贈与も相続時の加算対象となる点に注意

【改正ポイント】相続時精算課税制度が使いやすくなりました!

従来の相続時精算課税制度は、一度選択すると「ずっと相続時精算課税」になってしまい、年間110万円の非課税枠(暦年課税のメリット)は使えませんでした。

しかし、改正後はこうなりました:

✅ 改正内容:相続時精算課税でも年間110万円まで非課税!

  • 相続時精算課税を選んだ場合でも、年間110万円以下の贈与については「贈与税がかからず」「申告も不要」
  • 実質的に、暦年課税と並列で選択できる制度へと整備された

4 メリットと重要な注意点

✅ メリット

  • 2,500万円の特別控除:贈与税の計算において、累計2,500万円まで贈与税がかからない
  • 超過分の税率が一律20%:特別控除額を超えた分の贈与税率は、暦年課税の最高税率(最大55%)と比較して低く抑えられる
  • 早期に財産を贈与できる:子や孫が必要としているタイミングでまとまった財産を移転し、有効活用させることができる
  • 収益物件や値上がりが予想される財産の相続税対策:贈与後の収益は受贈者の財産となり、将来の値上がり分を相続税の対象から外すことができる
  • 相続争いを防げる可能性:特定の財産を特定の相手に確実に引き継がせたい場合に有効

5 知らないと危険!8つの重大なデメリット

⚠️ デメリット①:一度選択すると暦年課税が使えなくなる

税務署に「相続時精算課税制度選択届出書」を提出し、一度この制度を適用すると、同じ贈与者からの贈与については、将来にわたって暦年課税に戻すことができません。

令和6年以降は年間110万円の基礎控除が設けられましたが、この110万円の贈与額も相続時には持ち戻しの対象となります。暦年課税のような完全な非課税枠ではない点に注意が必要です。

暦年贈与について >

⚠️ デメリット②:申告の手間がかかる

相続時精算課税制度を選択する場合、贈与財産の金額に関わらず、原則として贈与があった年の翌年3月15日までに贈与税の申告義務が発生します。

令和6年以降は年間110万円以下の贈与であれば申告不要となりましたが、110万円をわずかでも超える贈与があった場合は申告が必要です。申告書を期限内に提出し忘れた場合、20%の贈与税が課税される可能性があります。

⚠️ デメリット③:単なる税金の先送りになりうる

相続時精算課税制度は、贈与税が非課税になるわけではなく、あくまで「相続時に精算する」制度です。

制度を選択して贈与を受けた財産は、贈与者の相続発生時に相続財産の価額に持ち戻して合算されます。相続税の基礎控除を超える相続財産が見込まれる場合は、単に税金の支払いが贈与時から相続時へ先送りされるだけで、相続税の節税効果が得られない可能性があります。

⚠️ デメリット④:小規模宅地等の特例が使えなくなる

小規模宅地等の特例は、居住用や事業用として使われていた宅地等を相続した場合に、その相続税評価額を最大80%減額できる制度です。

しかし、この特例は「相続した宅地等」に対して適用されるため、相続時精算課税制度を利用して生前贈与した宅地等には適用できません。将来的に小規模宅地等の特例の適用が見込まれる宅地等がある場合、それを生前贈与してしまうと特例が使えなくなり、結果として相続税が高くなる可能性があります。

小規模宅地の特例について >

⚠️ デメリット⑤:不動産の生前贈与はコストが大幅に増える

不動産を生前に贈与する場合、登録免許税や不動産取得税といった別の税金が相続と比較して大幅に増加します。

  • 登録免許税:相続の場合は固定資産税評価額の0.4%、贈与の場合は2%
  • 不動産取得税:相続の場合はかからない、贈与の場合はかかる

⚠️ デメリット⑥:生前贈与を受けた財産は物納できない

相続税の物納制度は「相続または遺贈により取得した財産」が対象となります。相続時精算課税制度で生前贈与を受けた財産は、贈与の時点で受贈者の財産となっているため、相続税を物納する際に充てることはできません

贈与を受けた財産に対する相続税の納税資金を別に準備しておく必要があります。

⚠️ デメリット⑦:将来の税制改正リスク

相続時精算課税制度で贈与された財産は、贈与者の相続が発生するまでの間、長期間にわたって相続財産に持ち戻されるという特性があります。

制度を利用した時点では有利に見えても、将来の法改正によって不利になる可能性もあります。実際に、平成25年の税制改正では相続税の基礎控除額が約40%引き下げられた事例があります。

⚠️ デメリット⑧:過去の贈与を忘れるリスク

相続時精算課税制度を選択した場合、それ以降の贈与者からの贈与は、金額に関わらず相続時に持ち戻しの対象となります。

この過去の贈与について、贈与を受けた側が「うっかり忘れ」てしまい、相続税申告に含め忘れるケースがあります。税務調査などでこれが発覚した場合、後日税務署から指摘を受け、遺産分割協議や相続税の申告をやり直す必要が出てくる可能性があります。

 

実務対応のポイントとまとめ

相続時精算課税制度は、最大2,500万円の特別控除や、令和6年からの年間110万円の基礎控除といった魅力的なメリットがありますが、その裏返しとして無視できない8つの重大なデメリットが存在します。

特に、一度選択すると暦年課税に戻せないこと贈与財産が相続時に持ち戻されて相続税の対象になること不動産贈与のコスト増や小規模宅地等の特例が使えなくなる点などは、安易な利用判断を避ける上で非常に重要です。

制度の利用を検討する際は、ご自身の資産状況、将来の相続財産の予想、贈与を受ける方の状況などを総合的に考慮し、相続発生時を見越した税負担額のシミュレーションを行うことが不可欠です。

「何がベストな選択肢なのか」を判断するのは専門知識が必要となるため、不安がある場合は相続税に強い税理士に相談されることを強くお勧めします。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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