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弔慰金に相続税はかかる?非課税の範囲・税金計算を解説

第1章|そもそも「弔慰金」とは?

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

弔慰金は、企業等が従業員や役員の死亡時に遺族に支給する金銭です。香典とは異なり、福利厚生の一環として支給されるもので、支給額は会社規程や勤続年数などによって異なります。

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リンク 国税庁 弔慰金を受け取ったときの取扱い

弔慰金は、故人の遺産ではなく「遺族固有の権利」として受け取るものであるため、原則として相続税は課税されません。相続財産にも遺産分割協議の対象にもなりません。

第3章|非課税枠には上限あり!限度額を超えると課税の可能性

非課税とされる弔慰金にも上限があります。これを超えると、超過部分が「死亡退職金」とみなされ、相続税の課税対象になります。

  • ■業務外の死亡:普通給与の6か月分まで非課税
  • ■業務上の死亡:普通給与の3年分まで非課税

弔慰金の非課税枠計算例

【業務外死亡のケース】

  • ■月給50万円の従業員が業務外で死亡
  • ■弔慰金500万円を支給

計算

  • ■非課税枠:50万円 × 6ヶ月 = 300万円
  • ■超過部分:500万円 – 300万円 = 200万円(死亡退職金扱い)

【業務上死亡のケース】

  • ■同じ従業員が業務上で死亡
  • ■弔慰金2,000万円を支給

計算

  • ■非課税枠:50万円 × 36ヶ月 = 1,800万円
  • ■超過部分:2,000万円 – 1,800万円 = 200万円(死亡退職金扱い)

業務上死亡・業務外死亡の判断基準

業務上死亡に該当する例

  • ■業務中の事故による死亡
  • ■通勤中の事故による死亡
  • ■業務が原因の過労死・職業病による死亡
  • ■出張先での事故による死亡

業務外死亡に該当する例

  • ■私生活中の病気や事故による死亡
  • ■自宅での自然死
  • ■業務と関係のない場所での事故死

※判断が困難な場合は、労働基準監督署の認定や会社の判断を参考にします

第4章|非課税枠を超えた場合の「死亡退職金」としての取り扱い

超過部分は「みなし相続財産」として相続税が課税されます。ただし、別途以下の非課税枠も適用可能です。

非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数

※受取人が法定相続人である必要があります。

弔慰金と死亡退職金が両方支給される場合の計算手順

STEP1:弔慰金の課税対象額を計算
支給された弔慰金 – 弔慰金の非課税枠 = 弔慰金の課税対象額

STEP2:死亡退職金の課税対象額を計算
(支給された死亡退職金 + 弔慰金の課税対象額) – 死亡退職金の非課税枠

【計算例】

  • ■弔慰金:400万円(業務外死亡、月給50万円)
  • ■死亡退職金:1,500万円
  • ■法定相続人:3人

弔慰金の課税対象額:400万円 – 300万円 = 100万円
死亡退職金の課税対象額:(1,500万円 + 100万円) – 1,500万円 = 100万円

※弔慰金と死亡退職金を別々に計算すると、誤って課税対象額が増える可能性があります

みなし相続財産について >

第5章|申告方法と手続き

課税対象となる場合は、相続税の「第10表(退職手当金等の明細書)」に記載して申告します。期限は死亡の翌日から10ヶ月以内です。

第6章|まとめ:弔慰金は非課税が原則、でも高額なら要注意

弔慰金は、原則非課税ですが、高額になると一部が相続税の対象になることがあります。税額の正確な計算や申告の判断に不安がある場合は、税理士など専門家に相談するのが安心です。

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飯野明宏税理士
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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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未支給年金にかかる税金を徹底解説!相続税?所得税?ケース別解説

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

相続の手続きの中でよくいただくご質問のひとつに、「未支給年金に税金はかかるのか?」というものがあります。故人が亡くなった後でも、受け取れるはずだった年金(未支給年金)は遺族が受け取れる制度ですが、その課税関係は年金の種類によって異なります。

今回は、「未支給年金」の基本から、公的年金と私的年金の違い、所得税や相続税の扱い方まで、ケース別にわかりやすく解説します。


1 未支給年金とは?

未支給年金とは、年金受給者が亡くなった後、本来支給されるはずだったが未受給のまま残った年金のことを指します。遺族が所定の手続きを取ることで受け取ることが可能です。

ただし、この未支給年金はすべて「相続財産」として相続税がかかるわけではありません。ここが重要なポイントです。

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2 公的年金の未支給年金は所得税の対象

国民年金・厚生年金などの公的年金については、未支給分は「遺族固有の権利」とされ、相続税の課税対象にはなりません

代わりに、受け取った遺族の「一時所得」として所得税・住民税の対象になります

所得税の計算方法

一時所得 = 総収入金額 − 特別控除(最大50万円)

例えば、未支給年金が80万円なら、特別控除50万円を差し引いた30万円が課税対象となります。

※申告義務があるかは、他の所得との合計や控除額との関係によります。


3 企業年金の未支給年金は相続税の対象にも

企業年金については、死亡時期や給付の種類によって税務上の取り扱いが異なります:

死亡月までの未支給分

  • ■公的年金と同様に、遺族の「一時所得」として所得税の課税対象
  • ■相続税の課税対象外
  • ■相続放棄をしていても受け取り可能

死亡翌月以降の保証期間内の年金(遺族給付金)

  • ■「定期金に関する権利」として相続税の課税対象
  • ■死亡退職金の非課税枠は適用されない
  • ■相続放棄をしている場合は受け取り不可

死亡一時金(遺族一時金)

  • ■相続税の課税対象(みなし相続財産)
  • ■相続人が受け取る場合は非課税枠「500万円×法定相続人の数」が適用可能
  • ■相続人以外が受け取る場合は非課税枠の適用なし

4 相続放棄していても受け取れる?注意点とは

相続放棄と未支給年金の関係

受け取り可能なもの(相続放棄していても受け取れる)

  • ■公的年金の未支給分
  • ■企業年金の死亡月までの未支給分
    →これらは「遺族固有の権利」のため相続財産ではない

受け取り不可能なもの(相続放棄をしていると受け取れない)

  • ■企業年金の保証期間分(死亡翌月以降の遺族給付金)
  • ■個人年金の未支給分

→これらは「相続財産」に該当するため

注意点
企業年金でも、死亡月までの未支給分と保証期間分では取り扱いが全く異なります。相続放棄をした場合でも、死亡月分までは請求可能です。

相続放棄について >


5 遺族年金とは別物!混同に注意

未支給年金と混同されやすい「遺族年金」は、配偶者や子の生活保障のために支給されるものであり、相続税も所得税も課されません。


6 まとめ:未支給年金の課税は専門家へ相談を

未支給年金の税務上の取り扱い

  • ■公的年金の未支給分 → 所得税(遺族固有の一時所得)
  • ■ 企業年金の死亡月までの未支給分 → 所得税(遺族固有の一時所得)
  • ■ 企業年金の保証期間分(遺族給付金) → 相続税(定期金の権利)
  • ■個人年金の未支給分 → 相続税または贈与税(契約者により異なる)相続放棄との関係
  • ■公的年金・企業年金の死亡月分 → 相続放棄に関係なく受け取り可能
  • ■企業年金の保証期間分・個人年金 → 相続放棄をしていると受け取り不可

重要ポイント
企業年金は「死亡月まで」と「死亡翌月以降の保証期間」で税務上の取り扱いが全く異なるため、必ず区別して考える必要があります。

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飯野明宏税理士
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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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停止条件付遺贈とは?相続税申告での取扱いと注意点

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

「孫が大学に進学したら不動産をあげたい」
「特定の条件が満たされたら財産を渡したい」

このような願いを遺言に込めることができるのが「停止条件付遺贈」です。この記事では、停止条件付遺贈の仕組みと、相続税の申告・計算上の注意点をわかりやすく解説します。


1 停止条件付遺贈とは?

遺贈とは、遺言によって財産を譲ることをいいます。相続と違い、受遺者(もらう人)は相続人でなくても構いません。中でも「停止条件付遺贈」とは、「ある条件が成就した場合に限って財産を譲る」という遺贈の形です。

【具体例】

父が娘に「結婚を条件に住宅を遺贈する」という遺言を残して亡くなった。

このように、条件が満たされるまで遺贈の効力は発生しません。これが「停止条件付遺贈」です。

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2 相続税の申告はどうする?

相続税の申告期限は「相続開始から10ヶ月以内」と定められています。しかし、停止条件付遺贈ではその時点で「遺贈が実現するかどうか」がまだ不確定なため、特別な取扱いが必要になります。

基本の考え方

停止条件付遺贈の対象となる財産は、「未分割財産」として取り扱われます。

相続税の計算方法

各相続人が民法の法定相続分に従って当該財産を取得したものとして課税価格を計算し、申告・納税します。これは「仮計算」ではなく、確定的な申告方法です。

重要な制限事項

  • ■小規模宅地等の特例は適用できません
  • ■配偶者の税額軽減も適用できません
  • ■その他未分割財産では適用できない特例があります

計算例

法定相続人が配偶者と子2人の場合:

  • ■配偶者:1/2の割合で課税価格を計算
  • ■子A:1/4の割合で課税価格を計算
  • ■子B:1/4の割合で課税価格を計算

いずれも、後日条件が成就した際には「更正の請求」または「修正申告」によって最終的な税額を確定させることになります。

相続税の全体像について >


3 条件が成就したらどうする?

更正の請求

条件が成就して、当初の申告よりも税額が少なくなる場合は「更正の請求」により還付を受けます。
期限:条件が成就した日から4ヶ月以内

修正申告

条件が成就したことで税額が増える場合は「修正申告」を行い、不足分を納める必要があります。

※いずれも、条件の成就が客観的に証明できる書類(例:婚姻届、大学入学証明など)を添付します。

条件成就により財産を取得した受遺者にも相続税の申告義務が発生します。

申告期限の特例

  • ■申告期限:相続開始の翌日から10ヶ月以内(条件成就日からではない)
  • ■期限後申告となりますが、延滞税の計算期間から除外される特例があります
  • ■無申告加算税についても正当な理由があると認められます

条件成就のタイミングによる違い

申告期限前に条件が成就した場合

  • ■受遺者を含めて通常の相続税申告を行います
  • ■各種特例(小規模宅地等の特例など)の適用も検討可能です

申告期限後に条件が成就した場合

  • ■相続人:更正の請求または修正申告が必要
  • ■受遺者:期限後申告(ペナルティの軽減措置あり)

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4 受遺者が条件成就前に亡くなった場合

停止条件が満たされる前に受遺者が死亡してしまった場合、その遺贈は無効になります。つまり、遺贈は実現せず、その財産は法定相続人へ戻ることになります。

相続税申告への影響

受遺者の死亡により遺贈が無効となった場合:

すでに申告済みの場合

  • ■法定相続分による申告が確定します
  • ■追加の手続きは不要です

申告前の場合

  • ■当初から遺贈がなかったものとして申告します
  • ■法定相続分による分割で計算します

注意点
遺贈が無効となることで、相続人の税額が変わることはありませんが、適用できる特例の範囲が変わる可能性があります。


5 実務上の注意点

書面での条件設定を明確に

曖昧な表現や判断基準のない条件は、トラブルの元になります。「〇〇の大学に入学したとき」「〇〇歳になったら」など、客観的な基準で明記することが大切です。

条件が成就する時期によって手続きが異なる

特例適用の制限を理解する

停止条件付遺贈がある場合、以下の特例は当初申告では適用できません:

  • ■小規模宅地等の特例
  • ■配偶者の税額軽減
  • ■その他未分割財産に適用できない各種特例

ただし、条件成就により分割が確定すれば、更正の請求により特例の適用を受けられる場合があります。

受遺者への事前説明

受遺者にも相続税の申告義務が発生することを事前に説明しておくことが重要です。特に申告期限や延滞税の特例について正確な情報を伝える必要があります。

条件の成就時期を慎重に検討

条件の成就時期によって手続きが大きく異なるため、遺言作成時から十分な検討が必要です:

  • ■申告期限前の成就:通常申告が可能
  • ■申告期限後の成就:複雑な事後手続きが必要

条件成就の証明書類の準備

条件が成就した際の証明書類を事前に整備しておくことで、スムーズな手続きが可能になります。


6 まとめ:専門家への相談が不可欠

まとめ:停止条件付遺贈は高度な専門知識が必要

停止条件付遺贈は、遺言者の柔軟な意思を反映できる有効な手法ですが、相続税の取り扱いは極めて複雑です。

重要なポイントの整理

申告時の取り扱い

  • ■未分割財産として法定相続分で計算・申告
  • ■小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減は適用不可
  • ■確定的な申告であり「仮計算」ではない

条件成就後の手続き

  • ■相続人:更正の請求(4ヶ月以内)または修正申告
  • ■受遺者:期限後申告(延滞税等の軽減措置あり)
  • ■証明書類の添付が必要

受遺者死亡時の影響

  • ■遺贈は無効、法定相続分による分割が確定
  • ■すでに申告済みの場合は追加手続き不要

実務上の留意点

  • ■条件設定は客観的で明確な基準で
  • ■成就時期によって手続きが大きく異なる
  • ■受遺者への事前説明が重要

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胎児にも相続権がある?

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

「まだ生まれていない子ども=胎児には相続権があるのか?」

胎児にも相続人としての権利が認められるケースがあります。本記事では、胎児の相続権について、実務上の注意点や税務処理も交えながらわかりやすく解説します。


 

1 民法第886条が定める胎児の相続権とは?

民法には以下のように定められています。

第一項:胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
第二項:前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

胎児は生まれた場合に限り、相続開始時に「既に生まれていた」とみなされて、相続人として取り扱われます。出生が条件となるため、「停止条件付き相続権」とも呼ばれます。

胎児の権利が認められる3つの場面
民法では、胎児の権利能力が例外的に認められるのは以下の3つの場面に限定されています:
– 相続(民法第886条)
– 遺贈(民法第965条)
– 不法行為による損害賠償請求(民法第721条)

これら以外の法律行為については、胎児は権利能力を有しないため注意が必要です。

相続人について >

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2 胎児がいる場合の遺産分割と実務上の注意点

胎児が相続人になる場合、遺産分割や名義変更の実務にも配慮が必要です。

出生前に遺産分割はできない

胎児は出生をもって相続権を取得します。出生前の遺産分割協議は無効となるため、協議は原則として出生後に行うのが実務の通例です。

特別代理人の選任が必要になることも

母親も相続人であり、かつ胎児(出生後の子)と利益が相反する場合には、家庭裁判所で「特別代理人」の選任が必要になります。

胎児が複数(双子など)の場合の注意点
胎児が双子など複数の場合、実際に何人生まれるかが確定するまで相続人の数が決まらないため、遺産分割協議はさらに慎重な対応が求められます。また、一部が死産となった場合、生存した胎児のみが相続人となります。

遺産分割協議書の作成タイミング
胎児の出生前に特別代理人を選任して遺産分割協議を行うことも法的には可能ですが、死産となった場合は協議が無効となるリスクがあるため、実務上は出生後の手続きが推奨されます。


3 胎児がいる場合の相続税申告の扱い

胎児がいると、法定相続人の数に影響が出るため、相続税の基礎控除額も変わります。

● 申告期限内に出生した場合

胎児が申告期限内(被相続人の死亡から10か月以内)に生まれた場合は、正式に相続人としてカウントし、申告に含めます。

● 出生が申告期限後になった場合

胎児の出生によって基礎控除内に収まる場合は、税務署に申請すれば「申告期限延長(出生から2か月以内まで)」が可能です。

一方、胎児がいても課税が発生する場合は、胎児を含めずに申告し、出生後に「更正の請求」によって税額を修正・還付申請します。

申告期限延長の詳細条件
胎児の出生による申告期限延長は、以下の条件を満たす場合に認められます:
– 胎児の出生により相続人に異動が生じること
– その結果、他の相続人の取得財産額に変動があること
– 延長を求めるのは胎児以外の相続人であること
– 延長期間は最大2ヶ月間

基礎控除額の計算例
胎児がいる場合の基礎控除額の変化:
– 出生前:3,000万円 + 600万円 × 既存相続人数
– 出生後:3,000万円 + 600万円 × (既存相続人数 + 1)

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4 胎児が代襲相続人になるケースもある

胎児は、通常の法定相続人だけでなく、「代襲相続人」になることもあります。たとえば、胎児の父がすでに死亡している場合に、祖父が亡くなれば、胎児は父に代わって祖父の相続人になる可能性があります。


5 まとめ:胎児がいる相続は、慎重な対応がカギ

胎児に相続権があるとはいえ、出生しなければ権利が確定しないため、相続手続きや税務申告には慎重な対応が求められます。

  • ■出生前の協議は避ける

  • ■出生後に特別代理人の選任が必要か判断する

  • ■申告期限や延長の可否を確認する

  • ■更正の請求による還付申請を視野に入れる

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相続税が払えないときの最終手段?「物納制度」

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

相続税の納税では、多額の税金がかかるにもかかわらず、現金や預貯金が少なく納税資金に困るケースが少なくありません。前回のブログでは、相続税の分割納付を可能にする「延納制度」について解説しましたが、今回はそれでもなお納税が困難な場合の「物納制度」について詳しくご紹介します。


1 相続税の物納とは?現物で納めるという選択肢

物納とは、相続税を延納でも支払えない場合に限り、相続財産そのものを現物で納付する制度です。原則として相続税は金銭での一括納付が求められますが、相続財産が不動産や株式ばかりで現金が乏しい場合、金銭での納付が現実的でないことがあります。そうした状況を考慮して設けられたのが、この「物納制度」です。

延納について >


情報元:国税庁 相続税の物納

 


2 物納の適用要件とは?税務署に認められる条件

物納の適用を受けるには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

  • 延納によっても納付困難であること

  • 相続税の申告期限内(10ヶ月以内)に物納申請書を提出すること

  • 対象財産が「物納適格財産」であること

物納許可限度額の計算
物納が認められる金額には上限があり、以下の計算式で算出されます:

物納許可限度額 = 相続税額 - ①現金・預貯金等 - ②年間資金余剰額×延納期間 - ③臨時的な資力

①現金・預貯金等:納税時点で保有する現金、預貯金、換価容易な財産
②年間資金余剰額:(年間収入-年間生活費)×延納可能期間
③臨時的な資力:1年以内に見込まれる臨時収入から臨時支出を控除した額

この計算により算出された金額を超える部分については物納が認められません。


3 物納に充てられる財産とその優先順位

物納に使える財産には順位があり、基本的には以下の優先順で納付することが求められます。

物納

さらに、これらの財産の中でも「物納劣後財産」などが定められており、原則として評価が安定しており管理が容易な財産が優先されます。

物納劣後財産とは
同一順位内でも、以下の財産は「物納劣後財産」として、他に適当な財産がない場合のみ物納可能です:

– 現に納税義務者が居住または事業用に利用している建物・敷地
– 市街化区域以外にある宅地以外の土地
– 森林法により保安林指定された土地
– 過去の事件・事故等により正常な取引が困難な不動産

平成29年改正による順位の詳細化
改正により、上表のとおり、従来の3順位から5段階の詳細な順位付けに変更されました:
第1順位① 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
第1順位② 上記のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位③ 非上場株式等
第2順位④ 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位⑤ 動産


4 物納できない財産の具体例(管理処分不適格財産)

以下のような財産は、物納には使えません。

  • ■抵当権などが設定された土地
  • ■境界が不明な土地
  • ■相続人間で争いがある不動産
  • ■譲渡制限のある株式
  • ■遺産分割協議が済んでいない財産

物納を検討する際は、早めに分割協議を済ませ、財産の法的整理を行っておく必要があります。

その他の管理処分不適格財産
– 法令の規定に違反して建築された建物およびその敷地
– 他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)
– 地上権、永小作権等の用益物権が設定されている土地
– 暴力団事務所等として使用されている疑いがある建物・敷地
– 共有持分の割合が2分の1未満の土地・建物

境界不明土地の対処法
境界が不明な土地でも、以下の対応により物納可能となる場合があります:
1. 隣接地所有者との境界確認協議
2. 測量の実施と境界標の設置
3. 境界確認書の締結


5 物納と売却、どちらが有利か?検討ポイント

物納財産の評価額は、原則として「相続税評価額」が用いられます。これは一般的な時価よりも低くなることが多いです。

物納にするか、財産を売却して金銭で納税するかはケースバイケースです。判断基準は以下の通りです。

物納と売却納税の比較
比較項目物納売却納税
評価方法相続税評価額(低め)時価(高め)
納税資金確保現物で対応現金化が必要
税金の種類譲渡所得税なし売却益に譲渡所得税が課税
手間・コスト実測・登記・書類整備などの要件を満たす必要あり仲介手数料・登記変更・譲渡税の申告などが発生

「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」が使えるかどうかも、売却納税を選ぶ際の大きなポイントです。


6 物納の注意点とスケジュール

  • 提出期限は「申告期限(10ヶ月)」内

  • 許可後の収納までの間に利子税が発生する場合あり


7 まとめ 物納は「最後の手段」?専門家のアドバイスを受けて判断を

物納は、現金納付や延納が難しい場合の「最後の手段」として認められる制度ですが、その要件は厳格であり、提出書類や財産の整備も求められます。また、相続税評価額での納付となるため、納税額と実質的な損得を冷静に判断する必要があります。

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【相続税の延納】一括納付が難しいときの救済制度とは?

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

相続税は、相続や贈与によって財産を取得した人に課される税金ですが、現金一括で支払うのが難しいケースも少なくありません。今回は、そんなときに使える「延納」制度について、税理士の視点から丁寧に解説します。


1 延納とは?現金一括納付が困難な人のための制度

相続税や贈与税は原則として「金銭一括納付」が求められます。しかし、税額が大きく現金で支払うのが難しい場合、一定の条件のもとで「年賦払い」が認められる制度が延納です。

延納は税務署に申請し、許可を受ける必要があり、原則として担保を提供し、分割払いの期間中は利子税を支払います。

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2 延納の適用要件|4つの条件をすべて満たす必要あり

延納を利用するためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

  • ■相続税(贈与税)額が10万円を超えていること
  • ■金銭での一括納付が困難であること
  • ■申告期限までに延納申請書と担保関係書類を提出すること
  • ■担保を提供すること

    ※重要:担保不要の基準について
    担保が不要となる具体的な金額基準については、申請前に必ず所轄税務署で最新の正確な基準をご確認ください。


3 延納の期間と利子税|不動産の割合で最大20年

延納が認められた場合、延納期間と利子税率は、相続財産のうち不動産等が占める割合によって以下のように決まります。


情報元:国税庁 相続税の延納

利子税

(出典:国税庁ホームページ)

※特例税率は令和5年1月1日現在の「延納特例基準割合」0.9パーセントで計算しています。実際には毎年変動します。

延納申請の審査期間と手続きの注意点

延納申請書が提出された場合、税務署長は、その延納申請に係る要件の調査結果に基づいて、延納申請期限から3か月以内に許可または却下を行います。なお、延納担保などの状況によっては、許可または却下までの期間を最長で6か月まで延長する場合があります。

また、延納申請期限までに担保提供関係書類を提供することができない場合は、担保提供関係書類提出期限延長届出書を提出することにより、1回につき3か月を限度として、最長6か月まで担保提供関係書類の提出期限を延長することができます


4 延納する際のメリットと注意点

メリット

  • ■一括納付しなくてもよくなる
  • ■財産の売却や借入の必要がなくなる
  • ■一部条件を満たせば物納への切替も可能

デメリット

  • ■利子税の負担が発生する
  • ■延納許可後でも条件違反があれば許可取消しのリスクあり
  • ■審査期間が長期化するリスク:申請から許可まで最大6か月かかる場合があり、却下の可能性もある
  • ■担保要件の厳格性:提供した担保が不適当と判断された場合、変更を求められることがある
  • ■利子税は経費扱いできない:相続税延納の利息は収益物件の借入のように経費扱いできず、税引後の手取り金額から支払っていかなければなりません

5 許可の取消しと代替策

延納許可後に滞納や担保の変更命令に従わなかった場合は、許可が取り消され、残額を即納しなければならなくなります。

また、延納でも納付が困難な場合は以下の方法も検討可能です。

  • ■物納(不動産や株式などを現物納付)

  • ■財産売却(不動産、有価証券等)

  • ■金融機関からの借入

金融機関からの借入れとの比較検討

実際のところは、そもそも相続税を支払うための貸し出しをしていない金融機関も多く存在しますので、借り入れること自体難しい場合もありますが、延納の利率と金融機関の融資利率を比較検討することも重要です。まだ残りの年数、未納付残高が多く利払い額が多額にのぼる場合には、金融機関での借り換えも検討するとよいでしょう。

物納について >


6 まとめ:延納制度は「最後の砦」。早めの相談がカギ

延納制度は、相続税の納税に困ったときの有力な救済措置ですが、適用には厳格な条件があります。また、申請期限を過ぎると利用できなくなるため、早めの準備・相談が重要です。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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