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自社のレストラン等で接待をした場合の交際費の額はどう決めるべきか?

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は「自社のレストラン等で接待をした場合の交際費の額はどう決めるべきか?」というテーマについて、税務上の取扱いと実務上の注意点を解説します。


1 自社施設で接待した費用も交際費になる?

社内で飲食店やクラブを運営している会社が、自社の顧客をその施設に招いて接待した場合、その費用も交際費として取り扱われるのかという疑問があります。

まず、税法上の定義では、交際費とは「法人がその得意先、仕入先その他事業に関係ある者に対して行う接待・贈答・慰安等の行為に要する費用」とされています。

原則としては、一般のお客様から徴収する金額が交際費となりますが、以下の場合のように、提供した料理等の原価を正しく計算し、その原価を交際費としている場合にはその計算も認めらるものと考えています。

  • 製造原価を適正に把握している場合
  • 継続的に原価ベースで処理している場合
  • 合理的な原価計算に基づいている場合

接待の対象や目的に関係なく、その行為のために実際に支出した費用が「交際費」となります。たとえ自社で料理を提供したとしても、それに要した材料費や人件費は交際費に含めてよいとされています。

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2 計上する交際費は「原価」

自社レストランで提供した飲食物のうち、顧客接待のために使用されたものについては、「その飲食物の原価」が交際費の対象になります。
ここで言う原価とは、主に以下のような費用です:

  • 材料費(食材等の仕入原価)

  • 人件費(調理・提供に携わる従業員の給与)

  • その他、料理の提供に直接必要な経費

これらを集計した金額が、交際費として損金算入される対象です。

なお、原価の算出が困難な場合には、一般顧客に提供している販売価格に「原価率」を掛けた金額を交際費とすることも認められます。たとえば、販売価格が5,000円で原価率が60%であれば、交際費相当額は3,000円となります。

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3 店舗建物の減価償却費や固定資産税はどう扱う?

次に問題となるのが、「自社建物の中で接待をした場合、建物の減価償却費や固定資産税等の維持費も交際費に含めるべきか?」という点です。

これについては、以下のような考え方になります:

  • ■建物の減価償却費や固定資産税は、間接的な費用とみなされるため、交際費としての直接性が認められず、原則として交際費には含めません

  • 一方、接待専用に使用される資産については、例外的に一部の費用が交際費に含められる可能性もありますが、明確に区分されていることが前提です。


4 経理処理のポイント:交際費は「製品」扱いで処理

自社施設での接待費用については、会計上、以下のように処理します。

  • 提供した料理の原価 → 交際費「製品」(または売上原価)として処理

つまり、自社で飲食物を調理・提供して接待した場合には、実際にかかった原価を交際費として計上し、税務処理を行う必要があります。販売価格ベースではなく、必ず原価ベースで集計することが重要です。


5 まとめ:自社で接待する場合も原価ベースで交際費を計上

自社施設を利用した接待であっても、税務上は「通常の交際費」として原価ベースでの計上が必要です。
建物などの間接費を除き、材料費や人件費などの直接費用を正確に把握し、合理的に交際費として処理することがポイントとなります。

顧客サービスの一環として自社レストラン等を活用する場合も、税務リスクを回避するためには「費用区分の正確な把握」と「根拠ある原価計算」が不可欠です。

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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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取引先を社長の自宅に招いた場合、その費用は経費にできるか?

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は、「取引先や社員を自宅に招いたときの費用を会社の経費にできるか?」というテーマを解説します。

1 自宅接待でも経費にできるケースとは?

「取引先を自宅に招いて会食をした場合、その食材費や飲み物代などを会社に請求してもいいのでしょうか?」

このようなケースでは、接待の目的や内容によって、経費にできるかどうかが判断されます。
法人の業務遂行の一環として行われたものであれば、たとえ自宅であっても、経費として処理できる可能性があります。

ただし、自宅での接待費用を会社経費とすることは、次のような税務上極めて高いリスクを伴います。

  • 役員報酬(経済的利益の供与)として課税される可能性
  • 交際費ではなく寄附金として認定されるリスク
  • 税務調査で厳しくチェックされやすい項目
  • 私的支出との区別が困難な場合が多い

2 経費として認められる条件

経費として認められるための厳格な条件:

必須要件:

  • 法人の業務遂行上真に必要であること
  • 他の手段では代替できない合理的理由があること
  • 支出金額が社会通念上相当であること
  • 明確な記録と証拠が保存されていること

立証責任:
法人側が業務関連性を客観的に立証する責任があります。単に「取引先との関係強化」だけでは不十分で、具体的な業務上の必要性を説明する必要があります。

3 認められないケース:私的な招待や慰労目的の場合

一方で、次のような場合は法人の経費とは認められません

  • 取引先との単なる私的交友を目的とした会食
  • 奥様同士の親睦を深める目的での家庭的な招待
  • 社員や役員を慰労するために社長の自宅で開いた食事会

このようなケースでは、法人の業務とは無関係な「社長個人の支出」と判断され、会社に請求することはできません。

自宅接待 (2)

4 例外的に認められるケース:自宅会議の場合

ただし、自宅であっても、業務上の会議を行い、明確な議題と会議記録が残っている場合には、「会議費」として処理できる可能性があります。

たとえば、社内役員を自宅に招き、定期的な事業報告や経営会議を行った場合は、その食事費用も一定範囲内で会議費として認められることがあります。
もちろんこの場合も、実態のある会議であること、形式を整えていることが前提です。

5 まとめ:判断基準は「業務目的」と「実態」

以上のように会議費等に認められる可能性があるとしても、極めて慎重な判断が必要とされます。

自宅での接待費用を法人経費とすることは、税務上高いリスクを伴います。

推奨される対応としては、次のとおりです。
1. 原則として外部施設の利用を検討
2. やむを得ず自宅を使用する場合は事前に税理士に相談
3. 詳細な記録と客観的な証拠の準備
4. 社内規程の整備と承認プロセスの確立

安全な代替案として、次のようなものが挙げられます。
・適切な外部会議室や飲食店の利用
・会社施設での会議・接待
・オンライン会議システムの活用

結論として、自宅での接待費用の法人負担は、極めて限定的な場合を除き、避けることをお勧めします。

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静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

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社長の出張費、どこまで経費にできる?

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
「社長の出張宿泊費や日当は、いくらまで経費として認められるの?」

というテーマについて、税務上の判断ポイントを整理します。


1 出張費の範囲と損金算入の基本ルール

まず、法人が経費として処理できる「出張費」には、次のようなものが含まれます。

  • ■交通費(航空運賃、鉄道運賃、タクシー代など)
  • ■宿泊費
  • ■日当(食費や雑費に充てる定額支給)

これらは原則として、「業務遂行に通常必要とされる金額の範囲」であれば、法人の損金として認められます。

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2 判断基準は「通常必要な支出」かどうか

税務上の判断では、次の観点を総合的に見て、出張費が妥当なものかどうかが検討されます。

  • ■出張の目的・内容・行先・日数
  • ■出張者の職務や地位
  • ■出張規程の有無とその内容
  • ■同業他社との比較における相場感

つまり、社長だからといって高額な費用が常に認められるわけではなく、業務に必要な支出かつ他社と比べて妥当な金額であることが重要です。

税務上の具体的な判断基準:

宿泊費の目安:

  • ■一般的なビジネスホテル:1泊1~2万円程度
  • ■中級ホテル:1泊2~5万円程度
  • ■高級ホテル:1泊5万円超

注意:これらは目安であり、以下の要素で変動します:

  • ■出張先の物価水準
  • ■出張の目的と重要性
  • ■出張者の職責と地位
  • ■宿泊施設の選択肢の有無

 

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3 1泊20万円のホテルは認められるのか?

1泊20万円のホテルのような極めて高額な宿泊費については、税務上認められる可能性は極めて低いのが実情です。

認められる可能性がある例外的なケース:

  • ■重要な商談で、相手方の指定により特定ホテルでの宿泊が必須
  • ■出張先に他に宿泊施設が存在しない特殊な地域
  • ■緊急事態により他に選択肢がなかった場合

しかし、これらの場合でも:

  • ■詳細な理由書と証拠書類の保存が必要
  • ■税務調査で厳しくチェックされるリスクが高い
  • ■社会通念上の相当性を超える部分は給与認定される可能性

4 日当の設定と注意点

「日当」についても注意が必要です。日当とは、出張時の食費や雑費などを補うための定額支給のことですが、これも常識的な金額の範囲内に収める必要があります。

仮に、日当が過大であったり、年額で定期支給されているような場合は、実質的には給与とみなされ、所得税課税の対象になる可能性があります。

日当の一般的な相場:

国内出張の場合:

  • ■管理職:1日2,000~5,000円
  • ■部長職:1日3,000~7,000円
  • ■役員:1日5,000~10,000円

海外出張の場合:

  • ■アジア:1日5,000~15,000円
  • ■欧米:1日10,000~20,000円

重要な注意点:

  • ■日当は実費精算ではなく定額支給のため、領収書は不要
  • ■ただし、社会通念上相当な金額を超える部分は給与課税のリスク
  • ■出張日数に応じた合理的な金額設定が必要

5 法人税・所得税両面から見た整備ポイント

出張費が経費として認められ、かつ給与課税されないためには、次の点を押さえましょう。

  1. 出張旅費規程を整備する
     → 社長・役員も含め、役職ごとの上限金額を設定する

  2. 実際の出張内容を記録・保存する
     → 出張報告書・旅費精算書を必ず作成

  3. 合理的な範囲の支出に留める
     → 高額な場合は理由を明記し、裏付け資料を添付

実務上のリスクと対応策:

高リスクなケース:

  • ■出張旅費規程がない、または形骸化している
  • ■社長・役員の出張費が従業員と比較して過大
  • ■出張の実態が不明確
  • ■私的な要素(観光、家族同伴等)が含まれる

リスク回避策:

  • ■適正な出張旅費規程の策定と厳格な運用
  • ■出張承認・報告手続きの徹底
  • ■社会保険労務士や税理士による規程の定期見直し
  • ■同業他社の水準との比較検討

6 まとめ:出張費の妥当性は“実態”と“整備”で決まる

出張旅費については、「社会通念上の相当性」が重要な判断基準となります。

安全な運用のポイント:

1. 保守的な金額設定:同業他社の平均的な水準を参考
2. 明文化された規程:恣意的な運用を避ける
3. 客観的な記録:出張の実態を証明できる書類の整備
4. 継続的な見直し:社会情勢の変化に応じた規程の更新

特に同族会社では、税務調査で厳しくチェックされる傾向があるため、より保守的な対応を心がけることをお勧めします。

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社長所有のクルーザーを福利厚生用に法人が借り上げた場合、その賃料は損金になるか?

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
社長が所有するクルーザーを、社員の福利厚生の一環として会社が借り上げたい。このときの賃料は経費(損金)になるのでしょうか?

福利厚生を重視する企業が増える中、本記事では、税務上のポイントや判断基準について解説します。


1 福利厚生としてのクルーザー借り上げは認められるのか?

法人が資産や設備を借りて、その賃料を支払うこと自体は、原則として法人の経費として処理可能です。
しかし、貸主が社長本人であり、その資産がクルーザーなど私的利用が疑われやすいものの場合は、より厳密な条件が求められます。

クルーザーのような高額な娯楽資産を福利厚生として認めてもらうことは、税務上極めて困難です。

現実的なリスク:
■税務調査で厳しく否認されるリスクが非常に高い
■社会通念上、クルーザーは「贅沢品」とみなされやすい
■福利厚生の相当性を立証することが極めて困難
■同業他社との比較で著しく異常と判断される可能性

社長とクルーザー


2 損金算入のために必要な3つの条件

損金算入のための必要条件(ただし、満たしても認められる保証はない):

形式的要件:

  • ■福利厚生施設としての社内規程の整備
  • ■全従業員への利用機会の平等な提供
  • ■詳細な利用記録の保存
  • ■適正な賃料の設定

実質的要件:

  • ■実際に多数の従業員が継続的に利用している事実
  • ■他の福利厚生費との比較で著しく高額でないこと
  • ■同業他社の福利厚生水準との整合性
  • ■社会通念上の相当性

重要:これらの要件を満たしても、クルーザーの場合は福利厚生として認められない可能性が高いのが実情です。

社員が楽しむクルーザー


3 注意!「招待」による利用は福利厚生にはならない

よくある誤解として、「社長が社員をクルーザーに乗せたから福利厚生になる」という考え方があります。

しかしこれは誤りで、社長が自分の趣味で社員を招いた場合には、法人の経費ではなく、社長への給与課税とされる可能性が高くなります。

税務上は、「社員が自由に利用できる」ことが前提です。社長が主導して特定社員を接待するような形では、福利厚生とはみなされません。

否認されやすい具体的なケース:

  • ■社長およびその家族の利用が大部分を占める
  • ■従業員の実際の利用頻度が極めて低い
  • ■維持費・運営費が福利厚生費として著しく高額
  • ■同業他社で類似の福利厚生制度が存在しない
  • ■クルーザー以外の代替手段を検討していない

給与課税されるリスク:
法人が支払った賃料が否認された場合:

  • ■社長への役員報酬として課税
  • ■源泉徴収漏れによる追徴税額
  • ■重加算税等のペナルティ
  • ■法人側では損金不算入

4 賃料の「相当性」も忘れずに

賃料の適正性判断は次の事項を検討することとなります。

市場価格の調査方法:

  • ■同種クルーザーのチャーター料金との比較
  • ■マリーナでの係留費用を含めた総合的な判断
  • ■不動産鑑定士等による客観的な評価

注意すべき点:

  • ■親族間取引のため、より厳格な価格設定が必要
  • ■市場価格より低すぎても高すぎても問題となる
  • ■継続的な価格の見直しと市場価格との整合性確認

実務上の課題:
クルーザーの適正賃料を客観的に算定することは極めて困難で、この点も税務リスクを高める要因となります。


5 まとめ:自由な利用・記録の整備・賃料の相当性がカギ

まとめ:極めて高いリスクを伴う取引

現実的な判断:
クルーザーを福利厚生施設として法人が借り上げることは、税務上極めて高いリスクを伴います。

推奨される対応:
1. 原則として避けることをお勧めします
2. どうしても実施する場合は事前に税理士に詳細相談
3. 万全の体制整備と記録保存
4. 税務調査での否認リスクを覚悟

安全な代替案:

  • ■一般的な保養所やリゾート施設の利用
  • ■健康増進施設(スポーツクラブ等)の利用
  • ■社員旅行や懇親会などの一般的な福利厚生

結論:
社長所有のクルーザーの法人借り上げは、税務上のリスクが極めて高く、慎重な検討が必要です。

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アパートを経営している会社が「社用車」を購入してもよいのか?

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。

不動産オーナーの方からよくいただくご相談の一つが、「法人で所有しているアパートの管理や新規物件の調査のために車を買いたい。社長である自分が使うけど、法人で買って問題ないですか?」というものです。

結論から申し上げると、事業に必要であれば法人での購入は可能です。ただし、使用目的と実態が非常に重要になります。

今回は、不動産賃貸業を営む法人における社用車購入の可否と、税務上の注意点について詳しく解説します。

賃貸物件と自動車

1  法人名義で乗用車を購入することは可能?基本的な考え方

基本原則:事業に必要なら購入可能

法人が資産を購入した場合、その資産が「法人の事業に必要」であれば、法人の経費として認められます。不動産賃貸業における車両の購入も、この原則に従って判断されます。

注意が必要なケース

次のような場合は、たとえ法人名義で購入していても税務上のリスクがあります:

リスクの高いケース

  • ■実際には社長が私用で使っている
  • ■賃貸物件がすべて社長の自宅のすぐ近くにあり、車を使う必要性が乏しい
  • ■業務での使用実績がほとんどない

こうしたケースでは、法人名義で購入していても、「社長個人に対する役員報酬」として課税されるリスクがあります。

私用使用時の課税リスク:

法人側のリスク:

  • ■車両関連費用の損金不算入
  • ■役員報酬として課税処理が必要

個人側のリスク:

  • ■現物給与として所得税課税
  • ■源泉徴収義務の発生
  • ■定期同額給与要件への影響

2 税務署が見るポイント:「誰が」「何のために」使うのか

税務署が社用車の適正性を判断する際に重視するのは、実際の使用実態です。

重要な判断基準

業務性の判断

  • ■本当に法人の業務のために使用しているか
  • ■私的使用との区別が明確になっているか
  • ■購入の必要性に合理的な理由があるか

使用実態の確認

  • ■誰が日常的に運転しているか
  • ■どのような目的で使用しているか
  • ■使用頻度や走行距離は適切か

車種選定における税務上の注意点:

適切な車種:

  • ■コンパクトカーや普通乗用車
  • ■商用車(バン、軽トラック等)
  • ■中古車による合理的な価格

問題となりやすい車種:

  • ■高級外車(ベンツ、BMW等)
  • ■スポーツカー
  • ■大型SUV(業務上の必要性が説明困難)

価格の目安:

  • ■新車:300万円以下が無難
  • ■中古車:200万円以下
  • ■業務用軽自動車:150万円以下

重要:車種選択も業務上の必要性と社会通念上の相当性で判断されます。

3 「不動産管理のために必要」と認められる条件

次のような条件を満たしていれば、法人名義の乗用車でも税務上問題となる可能性は低くなります。

具体的な条件

地理的な必要性

  • ■管理物件が自宅から離れた地域に点在している
  • ■公共交通機関でのアクセスが困難

業務での実使用

  • ■現地調査・建物点検・家賃回収などに実際に使用
  • ■入居者対応や業者との打ち合わせで使用
  • ■新規物件の調査・視察で使用

記録と証明

  • ■使用実態を業務日報や運転記録で説明できる
  • ■走行距離や訪問先の記録を保持
  • ■業務に関連する写真や資料を保存

私用との区別

  • ■プライベート使用禁止の社内規定を策定
  • ■業務用途以外での使用を制限
  • ■家族の使用を禁止するルールを明確化

要するに、「業務のために必要であり、実際にそう使っている」と証明できるかどうかが問われるのです。

客観的な判断基準:

地理的要件:

  • ■管理物件までの距離:片道5km以上が目安
  • ■公共交通機関:最寄駅から徒歩15分以上
  • ■複数物件の場合:点在している物件間の移動

使用頻度の一般的な目安:

  • ■月間走行距離:業務用として300km以上
  • ■物件訪問頻度:最低月2回以上
  • ■業務日数:月15日以上の使用実績

記録すべき事項:

  • ■訪問先の住所と訪問目的
  • ■走行距離と時間
  • ■業務内容の詳細記録
  • ■写真等の証拠資料

4 不動産売買事業への展開を予定している場合

将来的に、賃貸だけでなく不動産の売買まで事業を広げる予定がある場合、物件の仕入れや現地確認のために車を使うことは十分合理的です。

事業拡大計画がある場合のポイント

具体的な計画の存在

  • ■単なる「将来的な構想」ではなく、実際に活動が始まっている
  • ■営業活動や市場調査を実施している
  • ■仕入物件を定期的に訪問している

実績の蓄積

  • ■すでに売買に向けた準備を開始
  • ■不動産業者との連携を図っている
  • ■市場調査や物件視察の実績がある

このような拡大計画が具体的であれば、法人での購入も「事業用」として認められやすくなります。

5 税務調査で確認されるポイント

税務調査では、社用車の購入があった場合、以下の点が詳しく確認されます。

調査官がチェックする項目

使用実態の確認

  • ■誰が日常的に使っているか
  • ■使用目的が業務か私用か
  • ■走行距離や給油記録の確認

経理処理の適正性

  • ■経費として処理されている内容
  • ■減価償却の方法
  • ■維持費の処理方法

役員報酬との関係

  • ■社長の報酬とのバランス
  • ■現物給与に該当しないか
  • ■適正な金額設定か

証拠書類の整備

  • ■運転記録表や業務日報
  • ■物件管理に関する写真
  • ■契約書や請求書類

適切な経理処理方法:

車両本体:

  • ■固定資産として計上(減価償却対象)
  • ■法定耐用年数:乗用車6年、軽自動車4年
  • ■即時償却制度の活用も検討

ランニングコスト:

  • ■ガソリン代、保険料、車検費用等
  • ■すべて業務用であれば全額損金算入
  • ■私用分がある場合は按分計算

按分方法:

  • ■走行距離按分が一般的
  • ■業務用走行距離÷総走行距離×100
  • ■月次で按分計算を実施

6 まとめ:成功する社用車購入のために

成功する社用車購入のための実務的アドバイス:

購入前の検討事項:
1. 他の手段では代替できない必要性があるか
2. 車種・価格が業務内容に見合っているか
3. 私用使用を完全に排除できるか
4. 継続的な記録管理体制を構築できるか

購入後の管理体制:
1. 毎日の運転日報作成
2. 月次での使用実績集計
3. 年次での使用目的・効果の見直し
4. 税理士との定期的な相談

リスク管理:

  • ■私用使用は絶対に避ける
  • ■家族による使用も禁止
  • ■詳細な記録は最低7年間保存
  • ■疑問点は事前に税理士に相談

結論:
適切な準備と継続的な管理により、不動産賃貸業でも社用車を活用できますが、私用との区別を厳格に行うことが成功の鍵となります。

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家族への役員報酬はどう決める?メリットと注意点

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
今回は、家族を役員として迎え入れた際の「役員報酬」について、その決め方・税務上の留意点・節税の可能性を整理して解説します。家族経営をされている方、これから法人設立を検討されている方はぜひ最後までご覧ください。


1 家族に役員報酬を支払うことは可能か?

法人では、役員(取締役・監査役等)に対して「役員報酬」を支払うことが認められており、家族であっても、登記上の役員であれば支給可能です。
ただし、税務上は「実態に見合った報酬かどうか」に注意が必要です。

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2 税務上の「妥当な報酬額」の考え方

役員報酬には法律上の上限はありませんが、「業務内容・勤務時間・会社の業績・責任の重さ」等を総合的に勘案し、相当と認められる水準であることが求められます。

よく見られる評価基準

  • ■業務への関与度(常勤か非常勤か)
  • ■他の役員や従業員とのバランス
  • ■類似業種での報酬相場
  • ■勤務日報・議事録などの証拠

税務調査では、「勤務実態がなかった」などの理由で否認されることもあるため、報酬額と貢献度が見合っているかを常に意識する必要があります。

具体的な判断基準:

常勤役員の場合:
・月額20万円~50万円程度が一般的
・業務内容と責任に応じた設定
・同規模企業の役員報酬との比較

非常勤役員の場合:
・月額3万円~10万円程度が目安
・出席回数や貢献度に応じた設定
・年間103万円以下に抑えるケースが多い

判断要素:
・実際の勤務日数・時間
・担当業務の内容と重要性
・会社の規模・業績
・他の役員・従業員との均衡
・同業他社との比較

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3 役員報酬を支払う6つの節税メリット

役員報酬を支払う6つの節税メリット(ただし、適正な範囲内であることが前提)

① 所得分散による節税効果

家族に報酬を分配することで、所得税・住民税の累進課税を抑えられます。
※注意:報酬額は実際の貢献度に見合った水準であることが必要

② 贈与税・相続税対策

役員報酬として家族に分配することで、贈与や相続による課税を回避できます。

③ 社会保険加入による年金増額

社会保険に加入することで、厚生年金を受給できる可能性が高まります。
※注意:社会保険料負担も増加する

④ 退職金の節税メリット

役員退職金は法人側で損金処理可能で、個人側でも退職所得控除が活用可能です。
※注意:勤続年数と功労倍率に基づく適正額の範囲内

⑤ 倒産リスクに備えた資産分散

報酬を通じて資産を分散しておくことで、万一の事態でも生活資金を確保できます。

⑥ 高額報酬の設定が可能

勤務実態に応じた合理的な理由があれば、高額な報酬を設定することも可能です。
※注意:「不相当に高額」と判断されれば損金不算入となる


4 注意点:役員報酬に関する5つのリスク

家族に役員報酬を支給する際には、税務上のリスクや制約にも十分配慮する必要があります。ここでは、特に重要な3つの注意点を解説します。

① 定期同額給与の原則

法人税法では、役員報酬は毎月同額で支払うこと(定期同額給与)が損金算入の前提とされています。
決算期から3か月以内に報酬額を決定し、それ以降は期中に金額変更できないのが原則です。

ただし、業績悪化などの特別な事情がある場合には、一定の手続きと書面(株主総会議事録等)により減額が認められることもあります。

② みなし役員に注意

登記上の役員ではなくても、実質的に経営に関与している従業員や株主は「みなし役員」として税務上の役員とみなされる場合があります。

みなし役員と認定された場合、その報酬も定期同額給与や賞与制限の対象となり、自由な報酬設計が難しくなるため注意が必要です。

③ 非常勤役員の報酬は慎重に設定する

勤務実態の薄い非常勤役員への高額な報酬は、税務調査で否認されるリスクが高くなります。
特に、年間103万円(所得税の扶養)や130万円(社会保険の扶養)を超えないように報酬を設定するケースでも、実際にどのような業務を行っているのかの説明責任が生じます。

④ 社会保険料負担の増加

役員報酬を支給すると、社会保険料(厚生年金・健康保険)の負担が発生します。
・法人負担分も含めると、報酬額の約30%の負担
・年収130万円を超えると扶養から外れる
・トータルでの税負担軽減効果を慎重に検討する必要

⑤ 税務調査でのチェックポイント

・勤務実態の確認(タイムカード、日報等)
・業務内容の具体性
・役員会議への出席状況
・他の役員・従業員との報酬格差の合理性
・過去の経緯との整合性


5 まとめ 家族への役員報酬は、実態と根拠が重要

まとめ:家族への役員報酬は、適正性と継続性が成功の鍵

家族に役員報酬を支払うことは、適切に運用すれば節税効果の高い手法ですが、以下の点を必ず遵守する必要があります:

必須要件:

  • ■実際の業務遂行と勤務実態
  • ■報酬額の社会通念上の相当性
  • ■定期同額給与の原則遵守
  • ■適切な書面整備と記録保存

成功のポイント:
1. 段階的な報酬設定(いきなり高額にしない)
2. 業務内容の明確化と実績の蓄積
3. 継続的な勤務実態の構築
4. 税理士との定期的な相談

注意:
過度な節税を狙った不適切な報酬設定は、税務調査で否認されるリスクが高く、結果的に追徴課税や重加算税のペナルティを受ける可能性があります。適正な範囲内での活用を心がけましょう。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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