こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
不動産オーナーの方からよくいただくご相談の一つが、「法人で所有しているアパートの管理や新規物件の調査のために車を買いたい。社長である自分が使うけど、法人で買って問題ないですか?」というものです。
結論から申し上げると、事業に必要であれば法人での購入は可能です。ただし、使用目的と実態が非常に重要になります。
今回は、不動産賃貸業を営む法人における社用車購入の可否と、税務上の注意点について詳しく解説します。
1 法人名義で乗用車を購入することは可能?基本的な考え方
基本原則:事業に必要なら購入可能
法人が資産を購入した場合、その資産が「法人の事業に必要」であれば、法人の経費として認められます。不動産賃貸業における車両の購入も、この原則に従って判断されます。
注意が必要なケース
次のような場合は、たとえ法人名義で購入していても税務上のリスクがあります:
リスクの高いケース:
- ■実際には社長が私用で使っている
- ■賃貸物件がすべて社長の自宅のすぐ近くにあり、車を使う必要性が乏しい
- ■業務での使用実績がほとんどない
こうしたケースでは、法人名義で購入していても、「社長個人に対する役員報酬」として課税されるリスクがあります。
私用使用時の課税リスク:
法人側のリスク:
- ■車両関連費用の損金不算入
- ■役員報酬として課税処理が必要
個人側のリスク:
- ■現物給与として所得税課税
- ■源泉徴収義務の発生
- ■定期同額給与要件への影響
2 税務署が見るポイント:「誰が」「何のために」使うのか
税務署が社用車の適正性を判断する際に重視するのは、実際の使用実態です。
重要な判断基準
業務性の判断:
- ■本当に法人の業務のために使用しているか
- ■私的使用との区別が明確になっているか
- ■購入の必要性に合理的な理由があるか
使用実態の確認:
- ■誰が日常的に運転しているか
- ■どのような目的で使用しているか
- ■使用頻度や走行距離は適切か
車種選定における税務上の注意点:
適切な車種:
- ■コンパクトカーや普通乗用車
- ■商用車(バン、軽トラック等)
- ■中古車による合理的な価格
問題となりやすい車種:
- ■高級外車(ベンツ、BMW等)
- ■スポーツカー
- ■大型SUV(業務上の必要性が説明困難)
価格の目安:
- ■新車:300万円以下が無難
- ■中古車:200万円以下
- ■業務用軽自動車:150万円以下
重要:車種選択も業務上の必要性と社会通念上の相当性で判断されます。
3 「不動産管理のために必要」と認められる条件
次のような条件を満たしていれば、法人名義の乗用車でも税務上問題となる可能性は低くなります。
具体的な条件
地理的な必要性:
- ■管理物件が自宅から離れた地域に点在している
- ■公共交通機関でのアクセスが困難
業務での実使用:
- ■現地調査・建物点検・家賃回収などに実際に使用
- ■入居者対応や業者との打ち合わせで使用
- ■新規物件の調査・視察で使用
記録と証明:
- ■使用実態を業務日報や運転記録で説明できる
- ■走行距離や訪問先の記録を保持
- ■業務に関連する写真や資料を保存
私用との区別:
- ■プライベート使用禁止の社内規定を策定
- ■業務用途以外での使用を制限
- ■家族の使用を禁止するルールを明確化
要するに、「業務のために必要であり、実際にそう使っている」と証明できるかどうかが問われるのです。
客観的な判断基準:
地理的要件:
- ■管理物件までの距離:片道5km以上が目安
- ■公共交通機関:最寄駅から徒歩15分以上
- ■複数物件の場合:点在している物件間の移動
使用頻度の一般的な目安:
- ■月間走行距離:業務用として300km以上
- ■物件訪問頻度:最低月2回以上
- ■業務日数:月15日以上の使用実績
記録すべき事項:
- ■訪問先の住所と訪問目的
- ■走行距離と時間
- ■業務内容の詳細記録
- ■写真等の証拠資料
4 不動産売買事業への展開を予定している場合
将来的に、賃貸だけでなく不動産の売買まで事業を広げる予定がある場合、物件の仕入れや現地確認のために車を使うことは十分合理的です。
事業拡大計画がある場合のポイント
具体的な計画の存在:
- ■単なる「将来的な構想」ではなく、実際に活動が始まっている
- ■営業活動や市場調査を実施している
- ■仕入物件を定期的に訪問している
実績の蓄積:
- ■すでに売買に向けた準備を開始
- ■不動産業者との連携を図っている
- ■市場調査や物件視察の実績がある
このような拡大計画が具体的であれば、法人での購入も「事業用」として認められやすくなります。
5 税務調査で確認されるポイント
税務調査では、社用車の購入があった場合、以下の点が詳しく確認されます。
調査官がチェックする項目
使用実態の確認:
- ■誰が日常的に使っているか
- ■使用目的が業務か私用か
- ■走行距離や給油記録の確認
経理処理の適正性:
- ■経費として処理されている内容
- ■減価償却の方法
- ■維持費の処理方法
役員報酬との関係:
- ■社長の報酬とのバランス
- ■現物給与に該当しないか
- ■適正な金額設定か
証拠書類の整備:
- ■運転記録表や業務日報
- ■物件管理に関する写真
- ■契約書や請求書類
適切な経理処理方法:
車両本体:
- ■固定資産として計上(減価償却対象)
- ■法定耐用年数:乗用車6年、軽自動車4年
- ■即時償却制度の活用も検討
ランニングコスト:
- ■ガソリン代、保険料、車検費用等
- ■すべて業務用であれば全額損金算入
- ■私用分がある場合は按分計算
按分方法:
- ■走行距離按分が一般的
- ■業務用走行距離÷総走行距離×100
- ■月次で按分計算を実施
6 まとめ:成功する社用車購入のために
成功する社用車購入のための実務的アドバイス:
購入前の検討事項:
1. 他の手段では代替できない必要性があるか
2. 車種・価格が業務内容に見合っているか
3. 私用使用を完全に排除できるか
4. 継続的な記録管理体制を構築できるか
購入後の管理体制:
1. 毎日の運転日報作成
2. 月次での使用実績集計
3. 年次での使用目的・効果の見直し
4. 税理士との定期的な相談
リスク管理:
- ■私用使用は絶対に避ける
- ■家族による使用も禁止
- ■詳細な記録は最低7年間保存
- ■疑問点は事前に税理士に相談
結論:
適切な準備と継続的な管理により、不動産賃貸業でも社用車を活用できますが、私用との区別を厳格に行うことが成功の鍵となります。