アパートを経営している会社が「社用車」を購入してもよいのか?

2025年5月26日
Posted in コラム
2025年5月26日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。

不動産オーナーの方からよくいただくご相談の一つが、「法人で所有しているアパートの管理や新規物件の調査のために車を買いたい。社長である自分が使うけど、法人で買って問題ないですか?」というものです。

結論から申し上げると、事業に必要であれば法人での購入は可能です。ただし、使用目的と実態が非常に重要になります。

今回は、不動産賃貸業を営む法人における社用車購入の可否と、税務上の注意点について詳しく解説します。

賃貸物件と自動車

1  法人名義で乗用車を購入することは可能?基本的な考え方

基本原則:事業に必要なら購入可能

法人が資産を購入した場合、その資産が「法人の事業に必要」であれば、法人の経費として認められます。不動産賃貸業における車両の購入も、この原則に従って判断されます。

注意が必要なケース

次のような場合は、たとえ法人名義で購入していても税務上のリスクがあります:

リスクの高いケース

  • ■実際には社長が私用で使っている
  • ■賃貸物件がすべて社長の自宅のすぐ近くにあり、車を使う必要性が乏しい
  • ■業務での使用実績がほとんどない

こうしたケースでは、法人名義で購入していても、「社長個人に対する役員報酬」として課税されるリスクがあります。

私用使用時の課税リスク:

法人側のリスク:

  • ■車両関連費用の損金不算入
  • ■役員報酬として課税処理が必要

個人側のリスク:

  • ■現物給与として所得税課税
  • ■源泉徴収義務の発生
  • ■定期同額給与要件への影響

2 税務署が見るポイント:「誰が」「何のために」使うのか

税務署が社用車の適正性を判断する際に重視するのは、実際の使用実態です。

重要な判断基準

業務性の判断

  • ■本当に法人の業務のために使用しているか
  • ■私的使用との区別が明確になっているか
  • ■購入の必要性に合理的な理由があるか

使用実態の確認

  • ■誰が日常的に運転しているか
  • ■どのような目的で使用しているか
  • ■使用頻度や走行距離は適切か

車種選定における税務上の注意点:

適切な車種:

  • ■コンパクトカーや普通乗用車
  • ■商用車(バン、軽トラック等)
  • ■中古車による合理的な価格

問題となりやすい車種:

  • ■高級外車(ベンツ、BMW等)
  • ■スポーツカー
  • ■大型SUV(業務上の必要性が説明困難)

価格の目安:

  • ■新車:300万円以下が無難
  • ■中古車:200万円以下
  • ■業務用軽自動車:150万円以下

重要:車種選択も業務上の必要性と社会通念上の相当性で判断されます。

3 「不動産管理のために必要」と認められる条件

次のような条件を満たしていれば、法人名義の乗用車でも税務上問題となる可能性は低くなります。

具体的な条件

地理的な必要性

  • ■管理物件が自宅から離れた地域に点在している
  • ■公共交通機関でのアクセスが困難

業務での実使用

  • ■現地調査・建物点検・家賃回収などに実際に使用
  • ■入居者対応や業者との打ち合わせで使用
  • ■新規物件の調査・視察で使用

記録と証明

  • ■使用実態を業務日報や運転記録で説明できる
  • ■走行距離や訪問先の記録を保持
  • ■業務に関連する写真や資料を保存

私用との区別

  • ■プライベート使用禁止の社内規定を策定
  • ■業務用途以外での使用を制限
  • ■家族の使用を禁止するルールを明確化

要するに、「業務のために必要であり、実際にそう使っている」と証明できるかどうかが問われるのです。

客観的な判断基準:

地理的要件:

  • ■管理物件までの距離:片道5km以上が目安
  • ■公共交通機関:最寄駅から徒歩15分以上
  • ■複数物件の場合:点在している物件間の移動

使用頻度の一般的な目安:

  • ■月間走行距離:業務用として300km以上
  • ■物件訪問頻度:最低月2回以上
  • ■業務日数:月15日以上の使用実績

記録すべき事項:

  • ■訪問先の住所と訪問目的
  • ■走行距離と時間
  • ■業務内容の詳細記録
  • ■写真等の証拠資料

4 不動産売買事業への展開を予定している場合

将来的に、賃貸だけでなく不動産の売買まで事業を広げる予定がある場合、物件の仕入れや現地確認のために車を使うことは十分合理的です。

事業拡大計画がある場合のポイント

具体的な計画の存在

  • ■単なる「将来的な構想」ではなく、実際に活動が始まっている
  • ■営業活動や市場調査を実施している
  • ■仕入物件を定期的に訪問している

実績の蓄積

  • ■すでに売買に向けた準備を開始
  • ■不動産業者との連携を図っている
  • ■市場調査や物件視察の実績がある

このような拡大計画が具体的であれば、法人での購入も「事業用」として認められやすくなります。

5 税務調査で確認されるポイント

税務調査では、社用車の購入があった場合、以下の点が詳しく確認されます。

調査官がチェックする項目

使用実態の確認

  • ■誰が日常的に使っているか
  • ■使用目的が業務か私用か
  • ■走行距離や給油記録の確認

経理処理の適正性

  • ■経費として処理されている内容
  • ■減価償却の方法
  • ■維持費の処理方法

役員報酬との関係

  • ■社長の報酬とのバランス
  • ■現物給与に該当しないか
  • ■適正な金額設定か

証拠書類の整備

  • ■運転記録表や業務日報
  • ■物件管理に関する写真
  • ■契約書や請求書類

適切な経理処理方法:

車両本体:

  • ■固定資産として計上(減価償却対象)
  • ■法定耐用年数:乗用車6年、軽自動車4年
  • ■即時償却制度の活用も検討

ランニングコスト:

  • ■ガソリン代、保険料、車検費用等
  • ■すべて業務用であれば全額損金算入
  • ■私用分がある場合は按分計算

按分方法:

  • ■走行距離按分が一般的
  • ■業務用走行距離÷総走行距離×100
  • ■月次で按分計算を実施

6 まとめ:成功する社用車購入のために

成功する社用車購入のための実務的アドバイス:

購入前の検討事項:
1. 他の手段では代替できない必要性があるか
2. 車種・価格が業務内容に見合っているか
3. 私用使用を完全に排除できるか
4. 継続的な記録管理体制を構築できるか

購入後の管理体制:
1. 毎日の運転日報作成
2. 月次での使用実績集計
3. 年次での使用目的・効果の見直し
4. 税理士との定期的な相談

リスク管理:

  • ■私用使用は絶対に避ける
  • ■家族による使用も禁止
  • ■詳細な記録は最低7年間保存
  • ■疑問点は事前に税理士に相談

結論:
適切な準備と継続的な管理により、不動産賃貸業でも社用車を活用できますが、私用との区別を厳格に行うことが成功の鍵となります。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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