こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
「社長が所有するクルーザーを、社員の福利厚生の一環として会社が借り上げたい。このときの賃料は経費(損金)になるのでしょうか?」
福利厚生を重視する企業が増える中、本記事では、税務上のポイントや判断基準について解説します。
1 福利厚生としてのクルーザー借り上げは認められるのか?
法人が資産や設備を借りて、その賃料を支払うこと自体は、原則として法人の経費として処理可能です。
しかし、貸主が社長本人であり、その資産がクルーザーなど私的利用が疑われやすいものの場合は、より厳密な条件が求められます。
クルーザーのような高額な娯楽資産を福利厚生として認めてもらうことは、税務上極めて困難です。
現実的なリスク:
■税務調査で厳しく否認されるリスクが非常に高い
■社会通念上、クルーザーは「贅沢品」とみなされやすい
■福利厚生の相当性を立証することが極めて困難
■同業他社との比較で著しく異常と判断される可能性
2 損金算入のために必要な3つの条件
損金算入のための必要条件(ただし、満たしても認められる保証はない):
形式的要件:
- ■福利厚生施設としての社内規程の整備
- ■全従業員への利用機会の平等な提供
- ■詳細な利用記録の保存
- ■適正な賃料の設定
実質的要件:
- ■実際に多数の従業員が継続的に利用している事実
- ■他の福利厚生費との比較で著しく高額でないこと
- ■同業他社の福利厚生水準との整合性
- ■社会通念上の相当性
重要:これらの要件を満たしても、クルーザーの場合は福利厚生として認められない可能性が高いのが実情です。
3 注意!「招待」による利用は福利厚生にはならない
よくある誤解として、「社長が社員をクルーザーに乗せたから福利厚生になる」という考え方があります。
しかしこれは誤りで、社長が自分の趣味で社員を招いた場合には、法人の経費ではなく、社長への給与課税とされる可能性が高くなります。
税務上は、「社員が自由に利用できる」ことが前提です。社長が主導して特定社員を接待するような形では、福利厚生とはみなされません。
否認されやすい具体的なケース:
- ■社長およびその家族の利用が大部分を占める
- ■従業員の実際の利用頻度が極めて低い
- ■維持費・運営費が福利厚生費として著しく高額
- ■同業他社で類似の福利厚生制度が存在しない
- ■クルーザー以外の代替手段を検討していない
給与課税されるリスク:
法人が支払った賃料が否認された場合:
- ■社長への役員報酬として課税
- ■源泉徴収漏れによる追徴税額
- ■重加算税等のペナルティ
- ■法人側では損金不算入
4 賃料の「相当性」も忘れずに
賃料の適正性判断は次の事項を検討することとなります。
市場価格の調査方法:
- ■同種クルーザーのチャーター料金との比較
- ■マリーナでの係留費用を含めた総合的な判断
- ■不動産鑑定士等による客観的な評価
注意すべき点:
- ■親族間取引のため、より厳格な価格設定が必要
- ■市場価格より低すぎても高すぎても問題となる
- ■継続的な価格の見直しと市場価格との整合性確認
実務上の課題:
クルーザーの適正賃料を客観的に算定することは極めて困難で、この点も税務リスクを高める要因となります。
5 まとめ:自由な利用・記録の整備・賃料の相当性がカギ
まとめ:極めて高いリスクを伴う取引
現実的な判断:
クルーザーを福利厚生施設として法人が借り上げることは、税務上極めて高いリスクを伴います。
推奨される対応:
1. 原則として避けることをお勧めします
2. どうしても実施する場合は事前に税理士に詳細相談
3. 万全の体制整備と記録保存
4. 税務調査での否認リスクを覚悟
安全な代替案:
- ■一般的な保養所やリゾート施設の利用
- ■健康増進施設(スポーツクラブ等)の利用
- ■社員旅行や懇親会などの一般的な福利厚生
結論:
社長所有のクルーザーの法人借り上げは、税務上のリスクが極めて高く、慎重な検討が必要です。