社長所有のクルーザーを福利厚生用に法人が借り上げた場合、その賃料は損金になるか?

2025年5月26日
Posted in コラム
2025年5月26日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
社長が所有するクルーザーを、社員の福利厚生の一環として会社が借り上げたい。このときの賃料は経費(損金)になるのでしょうか?

福利厚生を重視する企業が増える中、本記事では、税務上のポイントや判断基準について解説します。


1 福利厚生としてのクルーザー借り上げは認められるのか?

法人が資産や設備を借りて、その賃料を支払うこと自体は、原則として法人の経費として処理可能です。
しかし、貸主が社長本人であり、その資産がクルーザーなど私的利用が疑われやすいものの場合は、より厳密な条件が求められます。

クルーザーのような高額な娯楽資産を福利厚生として認めてもらうことは、税務上極めて困難です。

現実的なリスク:
■税務調査で厳しく否認されるリスクが非常に高い
■社会通念上、クルーザーは「贅沢品」とみなされやすい
■福利厚生の相当性を立証することが極めて困難
■同業他社との比較で著しく異常と判断される可能性

社長とクルーザー


2 損金算入のために必要な3つの条件

損金算入のための必要条件(ただし、満たしても認められる保証はない):

形式的要件:

  • ■福利厚生施設としての社内規程の整備
  • ■全従業員への利用機会の平等な提供
  • ■詳細な利用記録の保存
  • ■適正な賃料の設定

実質的要件:

  • ■実際に多数の従業員が継続的に利用している事実
  • ■他の福利厚生費との比較で著しく高額でないこと
  • ■同業他社の福利厚生水準との整合性
  • ■社会通念上の相当性

重要:これらの要件を満たしても、クルーザーの場合は福利厚生として認められない可能性が高いのが実情です。

社員が楽しむクルーザー


3 注意!「招待」による利用は福利厚生にはならない

よくある誤解として、「社長が社員をクルーザーに乗せたから福利厚生になる」という考え方があります。

しかしこれは誤りで、社長が自分の趣味で社員を招いた場合には、法人の経費ではなく、社長への給与課税とされる可能性が高くなります。

税務上は、「社員が自由に利用できる」ことが前提です。社長が主導して特定社員を接待するような形では、福利厚生とはみなされません。

否認されやすい具体的なケース:

  • ■社長およびその家族の利用が大部分を占める
  • ■従業員の実際の利用頻度が極めて低い
  • ■維持費・運営費が福利厚生費として著しく高額
  • ■同業他社で類似の福利厚生制度が存在しない
  • ■クルーザー以外の代替手段を検討していない

給与課税されるリスク:
法人が支払った賃料が否認された場合:

  • ■社長への役員報酬として課税
  • ■源泉徴収漏れによる追徴税額
  • ■重加算税等のペナルティ
  • ■法人側では損金不算入

4 賃料の「相当性」も忘れずに

賃料の適正性判断は次の事項を検討することとなります。

市場価格の調査方法:

  • ■同種クルーザーのチャーター料金との比較
  • ■マリーナでの係留費用を含めた総合的な判断
  • ■不動産鑑定士等による客観的な評価

注意すべき点:

  • ■親族間取引のため、より厳格な価格設定が必要
  • ■市場価格より低すぎても高すぎても問題となる
  • ■継続的な価格の見直しと市場価格との整合性確認

実務上の課題:
クルーザーの適正賃料を客観的に算定することは極めて困難で、この点も税務リスクを高める要因となります。


5 まとめ:自由な利用・記録の整備・賃料の相当性がカギ

まとめ:極めて高いリスクを伴う取引

現実的な判断:
クルーザーを福利厚生施設として法人が借り上げることは、税務上極めて高いリスクを伴います。

推奨される対応:
1. 原則として避けることをお勧めします
2. どうしても実施する場合は事前に税理士に詳細相談
3. 万全の体制整備と記録保存
4. 税務調査での否認リスクを覚悟

安全な代替案:

  • ■一般的な保養所やリゾート施設の利用
  • ■健康増進施設(スポーツクラブ等)の利用
  • ■社員旅行や懇親会などの一般的な福利厚生

結論:
社長所有のクルーザーの法人借り上げは、税務上のリスクが極めて高く、慎重な検討が必要です。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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