こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。
投資信託は、身近な資産運用手段として広く普及しています。ネットで手軽に購入でき、商品種類も多いため、金融資産の一部を投資信託で保有している方も多いのではないでしょうか。
しかし、購入者が亡くなった場合、その投資信託は相続財産となり、相続税の計算のために正確に評価する必要があります。投資信託は種類によって評価方法が異なるため、注意が必要です。
今回は、投資信託の中でも、特にMRF(マネー・リザーブ・ファンド)とMMF(マネー・マネジメント・ファンド)といった日々決算型の投資信託の相続税評価方法について、解説します。
1 投資信託の相続税評価の基本
1-1 投資信託の相続における位置づけ
投資信託は、亡くなった方の受益証券が相続財産になります。投資信託の相続税評価方法は、その種類に応じて国税庁によって定められています。
1-2 投資信託の分類
投資信託の相続税評価は、大きく分けて以下の3つに分類されます:
- 日々決算型の証券投資信託受益証券(非上場)
- 上記1以外の証券投資信託受益証券(非上場)
- 金融商品取引所に上場されている証券投資信託受益証券(ETFやREITなどがこれにあたります)
今回のテーマであるMRFや外貨建MMFは、上記の「1.日々決算型の証券投資信託受益証券(非上場)」に該当します。
2 日々決算型投資信託(MRF・外貨建MMF)とは?
2-1 日々決算型投資信託の特徴
日々決算型投資信託は、名前の通り毎日決算(損益計算)が行われるタイプの投資信託です。現在流通している日々決算型投資信託の代表は、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)と外貨建MMF(マネー・マーケット・ファンド)の2種類です。
2-2 MRF(マネー・リザーブ・ファンド)
特徴:
- 安全性の高い公社債(国債や社債など)で運用される投資信託です
- 証券口座を開設すると、預けた資金が自動的にMRFで運用されることが一般的です
- そのため、株式投資などをしている方は、意識していなくてもMRFを保有していることが多いです
- 毎日決算が行われ、生じた分配金は月末にまとめて再投資(MRF購入)されます
2-3 外貨建MMF(マネー・マーケット・ファンド)
特徴:
- 海外の債券を外貨で運用する投資信託です
- 「MMF」(円貨建てで国内債券を運用するタイプ)は現在販売されていません
- 外貨建MMFはこれとは別の商品です
3 MRFの相続税評価方法
3-1 基本的な計算式
日々決算型の証券投資信託であるMRFの相続税評価額は、以下の計算式で求められます。
【MRFの相続税評価額の計算式】
3-2 計算式の各項目の説明
1口あたりの基準価格:
- 取引残高報告書などで確認できます
- 基本的に1口1円です
口数:相続発生日時点での保有口数です
再投資されていない未収分配金:
- 相続発生時点で支払いが確定しているものの、まだ再投資されていない分配金です
- ここから源泉所得税などを差し引いて計算します
- MRFは毎日決算なので、相続発生日までの分配金がこれにあたります
信託財産留保額および解約手数料:
- 投資信託を解約する際に発生する費用です
- 消費税を含めて計算します
3-3 現在のMRF評価における注意点
上記の計算式は日々決算型投資信託一般に適用されますが、現在発売されているMRFでは、「信託財産留保額および解約手数料」はゼロです。
また、現在の低金利環境下では、MRFの運用利回りもほぼゼロに近い状態が続いています。そのため、「再投資されていない未収分配金」や、そこから源泉徴収される税金相当額も、計算上はゼロとみなせる場合がほとんどです。
結果: ほとんどの場合、MRFの相続税評価額は「口数」がそのまま円で評価されます。
計算例: 相続発生時の口数が300万口であれば、相続税評価額は300万円となります(1円×300万口 + 0円 – 0円)。
注意点: MRFの分配金がゼロとみなせるのは現在の低金利だからであり、将来国内の金利が上昇すれば状況が変わる可能性がある点には注意が必要です。
4 外貨建MMFの相続税評価方法
4-1 基本的な計算式
外貨建MMFも日々決算型の投資信託であり、基本的にMRFと同様の計算式で評価します。しかし、外貨で運用されているため、日本円に換算する必要があります。
【外貨建MMFの相続税評価額の計算式】
4-2 為替レートの取り扱い
換算レート:
- 換算に用いる為替レートは、相続発生日(被相続人の死亡日)の電信買相場(TTB)です
- これは、外貨を円に換算する場合のレートです
レート取得の注意点:
- 相続発生日に為替レートがない場合(証券取引所の休場日など)は、相続発生日にもっとも近い日の為替レートを使用します
その他の項目: その他の項目(1口あたりの基準価格、口数、未収分配金、信託財産留保額、解約手数料)はMRFと同様に考えます。
5 投資信託の相続税評価におけるその他の注意点
5-1 残高証明書の時価評価額をそのまま使わない
注意が必要な理由:
- 金融機関から発行される残高証明書には、相続発生日時点の時価評価額が記載されていることがあります
- これは解約時に受け取れる金額に近いものですが、相続税評価額とは異なります
リスク:
- 時価評価額をそのまま相続税評価額としてしまうと、解約手数料や源泉徴収税などの控除を漏らしてしまう可能性があります
- 上記で解説した計算式に従って評価額を算出しましょう
5-2 未収分配金の計上漏れに注意
時間差の存在:
- 投資信託には、決算日から分配金が支払われるまでに数日から1週間程度の時間差があります
重要なポイント:
- 決算日の直後に相続が発生した場合、まだ分配金を受け取っていなくても、その分配金は未収分配金として相続財産に含めて評価する必要があります
- 日々決算型投資信託の場合は毎日決算ですが、一般的な投資信託の場合は決算日が月ごと、数か月ごとなど様々なため、確認が必要です
5-3 投資信託の種類による評価方法の違い
確認すべき点:
- 保有している投資信託がどの分類に該当するかを正確に把握する
- 毎月分配型や年1回決算型など、決算頻度の確認
- 上場投資信託(ETF、REIT)の場合は株式と同様の評価方法になる
6 実務上の対応方法
・必要な書類の収集
基本的な書類:
- 取引残高報告書
- 運用報告書
- 分配金支払い通知書
- 為替レート資料(外貨建の場合)
7 まとめ
MRFや外貨建MMFといった日々決算型の投資信託の相続税評価は、基準価格に口数を乗じるという基本的な考え方に基づいています。
重要なポイント:
- MRFの評価
- 現在の低金利環境下では口数がそのまま評価額となるケースが多い
- 基本的に1口1円で計算
- 外貨建MMFの評価
- 為替レートによる円換算が必要
- 相続発生日の電信買相場(TTB)を使用
- 注意事項
- 残高証明書の時価評価額をそのまま使用しない
- 未収分配金の計上漏れに注意
- 投資信託の種類による評価方法の違いを理解
- 実務対応
- 必要書類の適切な収集
- 計算過程の記録保持
- 必要に応じた専門家への相談
正確な評価は、相続税の過少申告を防ぐためにも重要です。投資信託の相続税評価に関して不明な点がある場合は、早めに税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
適切な評価により、適正な相続税申告を行い、将来的なトラブルを回避しましょう。