法人税における「損金の額」とは?会計との違い・損金不算入の代表例
法人税は、益金から損金を差し引いた所得金額に課税されますが、この「損金」とは、単なる会計上の費用や損失とは限りません。
この記事では、法人税法における損金の定義と計算方法、会計との違い、そして実務で頻出する損金不算入項目について解説します。
第1章|損金の額とは?法人税法の基本定義
法人税法第22条第3項では、損金の額を次の3つに分類しています。
① 売上原価・完成工事原価などの原価の額
② 販売費や一般管理費などの費用(償却費を含む)
③ 損失の額
このうち「費用」や「損失」は、企業会計上の費用認識と一致するものもあれば、法人税法上の独自ルール(=「別段の定め」)によって損金に含まれないものもあります。
第2章|企業会計と法人税法の目的の違い
企業会計の目的は、企業の財政状態や業績を投資家などに正しく伝えることです。一方で、法人税法の目的は「課税の公平性」を実現し、適正な税負担を確保することです。
そのため、以下のような違いが生じます。
観点 | 企業会計 | 法人税法 |
---|---|---|
目的 | 経営成績の開示 | 公平な課税 |
処理基準 | 会計基準 | 税法の別段の定め |
費用の扱い | 実質的に発生した費用は計上 | 一部は損金不算入になることも |
第3章|損金算入・不算入に関する代表的な税務処理項目
法人税法では、実務でよく問題になる処理項目に対し、個別にルールを定めています。ここでは代表的なものを紹介します。
3-1. 棚卸資産の評価
評価方法(先入先出法・総平均法等)に基づいて計算される原価部分は損金に算入されます。
3-2. 減価償却費
法定耐用年数と償却方法に基づく償却限度額までが損金算入可能。限度超過額は損金不算入です。
3-3. 繰延資産の償却
開業費や開発費は、償却限度額までの損金経理した額のみ損金に算入されます。
3-4. 役員給与
損金算入されるのは、次の3つのいずれかに該当するものに限られます。
定期同額給与
事前確定届出給与
業績連動給与(一定要件あり)
さらに「不相当に高額」な部分は損金不算入となります。
3-5. 寄附金
損金算入には限度額があり、それを超える部分は損金不算入です。
3-6. 租税公課
法人税・住民税は損金不算入。ただし、印紙税や事業税などは損金に算入可能。
3-7. 納税充当金
法人税等の見積額(引当金)は損金不算入。
3-8. 不正行為等の費用
賄賂や仮装行為に伴う費用は、原則損金不算入です。
3-9. 貸倒損失
「法律上」「事実上」「形式上」の3つの基準で、損金算入の可否が判断されます。
3-10. 海外渡航費
業務上の目的で必要性と相当性が認められる場合のみ損金算入されます。
3-11. 会費・入会金
実態により、交際費、寄附金、繰延資産などとして分類されます。
3-12. 損害賠償金
支払い義務が確定した時点で損金算入。
3-13. 消耗品
原則として使用年度の損金に算入。取得年度計上も継続適用で認められます。
3-14. 資産の評価損
帳簿価額>時価の場合、原則として損金不算入。災害時などは例外的に認められます。
3-15. 圧縮記帳
補助金や保険金で取得した資産については、取得価額の一部を損金算入することで課税繰延べが可能です。
第4章|税務調整と申告書別表四の活用
法人税申告では、企業会計上の当期純利益を出発点に、税法上の調整を加えて「所得金額」を算出します。これを行うのが申告書別表四です。
4-1. 加算項目と減算項目
種類 | 内容 | 例 |
---|---|---|
加算項目 | 会計上費用でも税法上損金不算入 | 寄附金超過額、償却超過額など |
減算項目 | 会計上費用でなくても税法上損金算入 | 圧縮記帳の損金部分など |
この別表四による税務調整によって、法人税法上の「正しい所得金額」が導かれます。