【相続対策】住宅取得等資金の非課税制度

2025年5月31日 飯野悠美子

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

マイホームの購入を検討している方にとって、資金調達は大きな課題の一つです。父母や祖父母からの資金援助を検討されている方もいらっしゃることでしょう。

u8922936522_httpss.mj.runo_U9s_y-jo8_modern_Japanese_house_ex_b46162ca-86ee-49be-93cf-f458d27f72fb_3直系尊属から住宅取得資金として贈与を受けた場合、一定の条件を満たすことで最大1,000万円まで非課税となる制度があることをご存知でしょうか。

今回は、住宅取得等資金の非課税制度について、適用要件から注意点までを解説します。

リンク 国税庁 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税


1 住宅取得等資金の非課税制度とは

1-1 制度の概要

住宅取得等資金の非課税制度とは、直系尊属である父母、祖父母などから住宅取得資金として金銭の贈与を受けた場合に、一定の金額が非課税となる制度です。

この制度は国の政策により、住宅取得を促進し経済活性化を図ることを目的として設けられています。

1-2 2024年の非課税枠

2024年(令和6年)中の贈与については、以下の非課税枠が設定されています:

住宅の種類非課税限度額
質の高い住宅1,000万円
左記以外の住宅用家屋500万円

注意: 適用される非課税限度額は、贈与年により異なります。

1-3 相続時精算課税制度との併用

この制度は相続時精算課税制度と併用することが可能です(令和8年12月31日までに住宅取得資金の贈与を受けた場合)。

併用時の計算式:

住宅取得等資金の非課税枠(500万円または1,000万円)
+ 相続時精算課税の非課税限度額(2,500万円)
+ 相続時精算課税の基礎控除額(110万円)

重要な注意点: 非課税限度額の適用を受けた金額は、相続時には相続税の課税価格に加算されます。

相続時精算課税制度とは?メリット・デメリット


2 適用要件の詳細解説

住宅取得等資金の非課税制度を利用するためには、以下の11の要件をすべて満たす必要があります。

2-1 贈与者・資金使途に関する要件

① 直系尊属からの住宅取得等資金としての贈与

  • ■直系尊属(父母・祖父母など)から住宅取得等資金として金銭の贈与を受けること
  • ■実際にその金銭を住宅の取得資金にあてていること
  • ■実の父母だけでなく祖父母からの贈与も適用可能です

2-2 受贈者の年齢・所得に関する要件

② 年齢要件

  • ■贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であること

③ 所得要件

  • ■贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること
  • ■合計所得金額が2,000万円を超える場合には適用が受けられません

2-3 申告・居住に関する要件

④ 申告要件

  • ■贈与を受けた年の翌年の3月15日までに贈与の申告をすること

⑤ 居住要件

  • ■贈与を受けた年の翌年の3月15日までに居住しているか、同年12月31日までに居住することが確実であると見込まれること

⑥ 申告書提出期限

  • ■贈与の翌年の2月1日から3月15日までに贈与の申告書を提出していること

2-4 住宅の要件

⑦ 家屋の面積要件

  • ■家屋の登記面積が50㎡以上240㎡以下であること
  • ■受贈者の所得金額が1,000万円以下の場合には40㎡以上の家屋も対象になります

⑧ 中古住宅の場合の耐震基準

 中古住宅の場合は建築後一定期間を経過しているものでも、耐震基準に適合しているものとみなします。次のいずれかに該当する必要があります:

  • (イ) 昭和57年以後に建築されたもの
  • (ロ) 建築士等による耐震基準適合証明書を取得しているもの
  • (ハ) 既存住宅売買瑕疵保険に加入しているもの

2-5 取得相手に関する要件

⑨ 同居者からの取得の禁止

  • ■取得の日までに配偶者、親族などの同居者からその住宅を取得していないこと

⑩ 特別関係者との取引の禁止

  • ■不動産の購入や請負工事等の相手が贈与者の特別関係者でないこと
  • ■不動産の売買契約書の相手方の名義等に注意が必要です

2-6 過去の利用履歴

⑪ 過去の制度利用

  • ■2009年(平成21年)から2023年(令和5年)までの贈与申告でこの制度を利用していないこと
  • ■この制度を以前に利用していた場合には適用されません

3 質の高い住宅とは

3-1 質の高い住宅の定義

「質の高い住宅」として1,000万円の非課税枠を適用するためには、以下のいずれかの基準を満たす必要があります:

1 床面積要件:

  • ■登記簿面積50㎡以上240㎡以下(合計所得金額が1,000万円以下の受贈者に限り、40㎡以上50㎡未満も対象)

2 新築住宅

省エネルギー性能:

  • ■断熱等性能等級5以上
  • かつ ■一次エネルギー消費量等級6以上

耐震性能:

  • ■耐震等級2以上
  • または ■免震建築物

バリアフリー性能:

  • ■高齢者等配慮対策等級3以上

3 既存住宅増改築

省エネルギー性能:

  • ■断熱等性能等級4以上
  • または ■一次エネルギー消費量等級4以上

耐震性能:

  • ■耐震等級2以上
  • または ■免震建築物

バリアフリー性能:

  • ■高齢者等配慮対策等級3以上

3-2 証明書類

以上を証明するために、各種証明書が必要となります。


4 手続きの流れと必要書類

4-1 手続きの流れ

  • ■贈与の実行(贈与年中)
  • ■住宅の取得・居住(贈与年の翌年3月15日まで、または12月31日まで)
  • ■贈与税の申告(贈与年の翌年2月1日~3月15日)

4-2 必要書類

基本的な書類:

  • ■贈与税の申告書
  • ■住宅取得等資金の非課税の計算明細書
  • ■戸籍謄本(贈与者と受贈者の関係を証明)
  • ■住民票の写し
  • ■登記事項証明書
  • ■売買契約書または請負契約書の写し 等

質の高い住宅の場合:

  • ■住宅性能証明書等の写し

5 注意点とよくある間違い

5-1 よくある間違い

申告漏れ:

  • ■非課税制度を利用する場合でも贈与税の申告は必要です
  • ■申告を忘れると制度の適用が受けられません

居住要件の見落とし:

  • ■取得しただけでは不十分で、実際に居住する必要があります
  • ■居住予定の場合は確実に居住できる見込みが必要です

5-2 相続時の影響

相続時精算課税制度との併用時:

  • ■住宅取得等資金の非課税分は相続時に加算されないが、相続時精算課税分の贈与額は相続時に精算される点に注意
  • ■将来の相続税への影響を考慮して利用を検討することが重要

5-3 税制改正への対応

この制度は時限的な制度であり、適用期限や非課税枠は税制改正により変更される可能性があります。最新の情報を確認することが重要です。


6 実際の活用例

6-1 ケーススタディ1:質の高い住宅を取得する場合

設定:

  • ■受贈者:30歳、年収600万円
  • ■贈与額:1,500万円
  • ■住宅:認定長期優良住宅(質の高い住宅)

税務上の取り扱い:

  • ■住宅取得等資金の非課税:1,000万円
  • ■課税対象:500万円
  • ■基礎控除110万円を差し引いて390万円に贈与税が課税

6-2 ケーススタディ2:相続時精算課税制度と併用する場合

設定:

  • ■受贈者:25歳、年収500万円
  • ■贈与額:3,000万円
  • ■住宅:一般的な新築住宅

税務上の取り扱い:

  • ■住宅取得等資金の非課税:500万円
  • ■相続時精算課税の適用:2,500万円
  • ■合計3,000万円が非課税(2500万円は相続時に精算)

7 まとめ

住宅取得等資金の非課税制度は、マイホーム取得を検討している方にとって非常に有効な制度です。

重要なポイント:

  • ■非課税枠の確認
    • □質の高い住宅:1,000万円
    • □一般的な住宅:500万円
  • ■要件の厳格な確認
    • □11の適用要件をすべて満たす必要
    • □特に年齢、所得、面積、居住要件に注意
  • ■適切な手続き
    • □必ず贈与税の申告が必要
    • □期限内の申告と居住が必須
  • ■将来への影響考慮
    • □相続時精算課税制度との併用時の相続税への影響
    • □税制改正の可能性
  • ■専門家への相談
    • □複雑な要件や計算が多いため、税理士への相談を推奨

この制度を適切に活用することで、住宅取得時の資金負担を大幅に軽減できます。ただし、要件が厳格で手続きも複雑なため、事前に十分な検討と準備を行うことが重要です。

法人のお客様のページ

相続税の専門サイト

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

相続辞典ボタン

会社の経営辞典

 

, , , ,