こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
相続や共同購入などで複数人が不動産を所有する場面は少なくありません。その際に問題となるのが「共有持分」。本記事では、不動産の共有持分について、定義から決め方、売却・放棄時の注意点や税金までを解説します。
1 不動産の「共有持分」とは?
共有持分とは、一つの不動産に対して複数の人が所有権を持つ場合の、各人の所有割合のことです。登記簿には「持分〇分の〇」といった形で記載され、物理的に土地を分けているわけではありません。
共有者は、持分割合にかかわらず、不動産の全体を使用する権利があります。ただし、売却や大規模改修など重要な行為には、共有者全員の合意が必要となるため、共有持分の理解は非常に重要です。
2 持分の決め方と計算式
不動産の共有持分は、原則として購入に要した費用の負担割合に基づいて決めます。
持分割合の計算式:
持分割合 = (その人の出した資金) ÷ その不動産の購入代金
たとえば、夫婦で土地5,000万円を購入し、夫が3,000万円、妻が2,000万円を負担した場合、夫婦の持分はそれぞれ3/5、2/5になります。
なお、実際の負担割合と異なる登記をした場合、負担を上回る持分については「贈与」とみなされ、贈与税が課税される可能性があります。
贈与税課税の具体例:
実際の資金負担割合と異なる持分割合で登記をすると、負担額よりも多く持分を取得した人に対して贈与税が課税されることがあります。例えば、夫が多く資金を負担したのに夫婦で等しい持分で登記した場合、妻は本来の負担割合を超えて持分を取得したとみなされ、その超えた部分に対して贈与税がかかる可能性があります。
夫婦で土地5,000万円を購入し、夫が3,000万円、妻が2,000万円を負担したにも関わらず、夫婦で1/2ずつの持分で登記した場合を考えます。
適正な持分:夫3/5(3,000万円÷5,000万円)、妻2/5(2,000万円÷5,000万円)
実際の登記:夫1/2、妻1/2
この場合、妻は本来2,000万円分(2/5)の権利しかないのに、2,500万円分(1/2)の権利を取得することになります。
妻への贈与額:2,500万円 – 2,000万円 = 500万円
贈与税額:(500万円 – 110万円)× 15% – 10万円 = 48.5万円
このように、わずかな持分の違いでも高額な贈与税が発生する可能性があります。
3 共有名義のよくあるケース
- ■夫婦での住宅購入:住宅ローンの組み方や自己資金の出資比率に基づいて持分を決定。
- ■親子での購入:親が資金を出す場合には、持分比率を明確にしておかないと贈与とみなされるおそれ。
- ■相続:遺産分割協議で決めます。
4 共有名義のメリットとデメリット
メリットもありますが、デメリットが多いため、明確な理由がない限り、共有は避けることをオススメします。
メリット
- ■ローンを組みやすくなる:複数人で借入できることで融資額が増える。
- ■住宅ローン控除が拡大:持分に応じて各自が控除を受けられる。
住宅ローン控除は、各自の借入額と持分割合に応じて適用されます。たとえば、4,000万円の住宅を夫が3,000万円、妻が1,000万円のローンで購入した場合、持分も3:1にする必要があります。持分と借入額が一致しないと、控除を十分に受けられない場合があります。
デメリット
- ■贈与税リスク:実態と異なる登記や返済があると贈与扱いになることも。
- ■売却に全員の合意が必要:共有者の一人でも反対すると売却できない。
- ■相続時に権利が複雑化:次世代でさらに共有者が増えると権利関係が煩雑に。
共有者の一人が亡くなると、その持分は相続人に引き継がれます。例えば、兄弟2人の共有だったものが、一方の死亡により「生存している兄弟」と「亡くなった兄弟の配偶者・子供たち」の共有となり、共有者が一気に増加します。世代を重ねるごとに共有者はねずみ算式に増え、最終的には数十人の共有となるケースも珍しくありません。