1 相続発生後に発覚する「預金の使い込み」
こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
相続が発生した後、被相続人(亡くなった方)の預貯金が一部の相続人によって勝手に引き出されていたというケース。これは、他の相続人にとって法定相続分を侵害する重大な問題です。
2 不当利得返還請求とは?
不当利得返還請求とは、法律上の根拠なく利益を得た者に対し、その利益の返還を求める制度です。
たとえば、被相続人の同意なく預金を私的に使用した場合、それは「不当利得」とされ、他の相続人から返還請求の対象となり得ます。
3 どのような行為が対象となるのか
相続関連で不当利得の対象となる典型的な行為には以下のようなものがあります。
■故人の預金を生前に使い込む行為
■故人所有の不動産から得られる賃料を独占する行為 等
一方、病院代や介護費用などの正当な支出と見なされるケースでは、領収書等による証明が求められます。
4 証拠の重要性と集め方
請求を成立させるためには、「使い込み」の客観的な証拠が不可欠です。
有効な証拠例:
■預金通帳・取引明細(数年分の精査が有効)
■払戻請求書やATM利用記録(誰が引き出したかを示す)
■医療記録・介護記録(判断能力の欠如を証明)
■支払先と一致しない領収書(使い込みの疑いが強まる)
5 不当利得返還請求の時効に注意
不当利得返還請求権には消滅時効があります。
■「使い込みを知ったときから5年」
■「使い込みがあったときから10年」
いずれか早い方で時効が完成します(民法第166条〜)。
6 請求の方法は?裁判だけではない
請求方法には段階があります。
■直接交渉:証拠を提示して相手に返還を求める
■内容証明郵便:請求の意思を法的に明確に示す
■訴訟提起:話し合いで解決しない場合、家庭裁判所または民事裁判で請求する
7 税務上の取り扱い
1. 不当利得返還請求権が相続財産となる場合
被相続人が生前に無断で預貯金を引き出され、その返還を求める権利(不当利得返還請求権)を有していた場合、その請求権は相続財産に含まれます。
したがって、相続税の課税対象となります。
2. 不当利得返還請求権の放棄と贈与税
相続人が他の相続人に対して有する不当利得返還請求権を放棄した場合、その放棄が無償で行われたときは、贈与とみなされ、贈与税の課税対象となる可能性があります。