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法人税の繰越欠損金とは?赤字を将来に活かす

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

会社を経営していると、どんなに頑張っても赤字になってしまう年度があるかもしれません。税金の計算上、その「赤字」は無駄にはなりません。法人税には、赤字を将来に活かして税金を軽減できる「繰越欠損金」という仕組みがあります。

この制度を正しく理解して活用することで、将来利益が出たときの法人税負担を軽減することが可能となります。

今回は、この繰越欠損金の基本的な仕組みから、具体的な活用方法、メリット、注意点までを、解説します。

繰越欠損金 (2)

1 繰越欠損金とは?基本的な仕組みを理解しよう

繰越欠損金の基本概念


情報元:国税庁 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

繰越欠損金とは、法人税法上の課税所得がマイナス(赤字)のときの金額を「欠損金」といい、この欠損金を翌期以降に繰り越し、将来発生する黒字(課税所得)と相殺することで、その事業年度の課税所得を低く抑えることができる仕組みです。

この相殺することを「繰越控除」と呼びます。

なぜこの制度があるのか?

この制度は、事業年度単位で変動する法人の税負担を均一にするために導入されました。例えば、1年目に100万円の赤字、2年目に100万円の黒字があった場合、2年間合計では損益がプラスマイナスゼロなのに、2年目だけで税金を払うのは不公平という考えに基づいています。

繰越欠損金制度があることで、将来黒字になった際に、過去の赤字分だけ税金のかかる所得を減らせるため、長期的な税負担の軽減につながります。

2 繰越欠損金を活用するメリット

繰越欠損金を活用することには、企業にとって大きなメリットがあります。

税負担の軽減

メリットは、法人税の支払額を削減できることです。

具体例:

  • ■200万円の繰越欠損金がある年度に150万円の課税所得があった場合
  • ■繰越欠損金から150万円を差し引いて課税所得を0円にできます
  • ■制度を使えなければ、この150万円に対して法人税がかかってしまいます

キャッシュフローの改善

法人税の支払いが抑えられることで、手元資金の流出を抑え、運転資金を確保しやすくなります。特に中小企業にとって資金繰りの安定は生命線ともいえる重要な要素です。

経営の安定化

業績が悪化した場合でも、過去の赤字を活用して税負担を軽減できるため、事業継続がしやすくなります。企業は長期的な視点で利益計画を立てやすくなります。

3 繰越欠損金の適用条件

繰越欠損金制度を適用するためには、いくつかの重要な条件を満たす必要があります。

必須条件

■欠損金が発生した事業年度の確定申告を青色申告で行っていること

■その欠損金を繰り越す間の各事業年度においても、法人税の確定申告を連続して行っていること

  • □欠損金発生年度が青色申告であれば、その後の確定申告が白色申告であっても繰越控除は可能です

■欠損金が発生した事業年度の帳簿書類を10年間保存すること

  • □税法上の帳簿書類の保存期間は一般的に7年ですが、繰越欠損金が発生した年度のものは10年間(平成30年4月1日より前に開始した事業年度に発生した欠損金の場合は9年間)となります

青色申告制度について >

4 繰越期間と控除限度額

繰越欠損金には繰越できる期間に上限があります。(金額の上限については、本コラムでは扱いません。)

繰越期間

繰越欠損金は、発生した事業年度から原則として10年間繰り越すことができます

  • ■平成30年4月1日より前に開始する事業年度に生じた欠損金の繰越期間は9年間
  • ■繰越欠損金が複数年度にわたる場合、最も古い年度に発生したものから順番に控除する必要があります

控除限度額

繰越欠損金の控除限度額は、企業の資本金の額によって大きく異なります。このコラムでは資本金1憶円以下の中小企業について説明します。

資本金1億円以下の中小企業

  • ■欠損金の全額を繰越控除できます
  • ■所得が黒字であれば、場合によっては黒字所得の全額を繰越欠損金によって控除し、所得を0円にすることも可能

繰越欠損金

5 欠損金の繰戻しによる還付という選択肢

企業が赤字を計上した場合、繰越控除の他に、前期に納付した法人税から還付を受ける「欠損金の繰戻しによる還付」という制度もあります。

欠損金の繰り戻し還付 >

繰戻し還付の概要

  • ■対象:主として中小企業者等に限り適用
  • ■還付の対象:前期に納付した法人税(国税)のみ(地方税は対象外)
  • ■対象期間:直前の1事業年度分のみ

繰戻し還付のメリット・デメリット

メリット:

  • ■赤字の年度に法人税の還付を受けられるため、早期にキャッシュフローを改善できる
  • ■資金繰りが厳しい企業にとっては有効な手段

デメリット:

  • ■制度を適用すると翌期以降に赤字を繰り越すことができない
  • ■税務調査が実施される可能性が高くなる

選択の判断基準

翌年度以降に黒字転換が見込まれる場合は、繰越控除を選択した方が長期的な税務メリットが大きい可能性があります。どちらを選択するかは、企業の財務状況や将来の利益計画を考慮して慎重に判断することが重要です。

6 まとめ:繰越欠損金を効果的に活用するために

繰越欠損金制度は、企業が赤字となった場合に、その損失を将来の黒字と相殺し、法人税の負担を軽減できる非常に有用な仕組みです。税負担の軽減だけでなく、キャッシュフローの改善や経営の安定化にもつながります。

活用のポイント

必須条件を満たす:

  • ■青色申告の適用
  • ■確定申告の継続
  • ■帳簿書類の10年間保存

制度の理解:

  • ■繰越期間(原則10年)
  • ■企業の規模による控除限度額の違い(中小企業は全額、大企業は50%など)
  • ■最も古い年度から順次控除するというルール

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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相続税の専門家の見分け方

富士市・富士宮市を中心に

相続税申告や生前対策のサポートを行っている、税理士・公認会計士の飯野明宏です。

このたび、私が代表を務める「飯野明宏税理士公認会計士事務所」は、新たに【新富士駅前 相続税の専門院】というサービスを立ち上げました。

より専門性の高い支援を提供することで、「相続」という一大イベントに直面する地域の皆さまに、安心と信頼をお届けするための体制強化です。

本記事では、サービス立ち上げの背景や、相続税の専門家とはどんな存在か、そして「相続」とは何かをわかりやすくお話ししながら、相続税のプロを見分けるための視点についてもご紹介します。
税理士の選び方について >

幸せな相続

1 なぜ「相続税の専門院」を始めたのか?

相続税や譲渡所得といった「資産税」に強みを持つ私ですが、これまで地元・富士市や富士宮市において、その専門性を十分に提供できていない現実がありました。都会の一流事務所で培った知識と経験を、地元の皆さまに活かしきれていなかったのです。

「もっと皆様のお役に立ちたい!」

そう強く感じたことが、今回のサービス立ち上げの原点です。

相続税は、単なる数字合わせの税務ではありません。故人の想いを受け継ぎ、遺されたご家族の将来を守るための“人生に関わる”税務です。高度な法的知識、複雑な財産評価、そして人間関係への配慮が求められる非常に繊細な領域です。

この相続税業務に本気で取り組むためには、「専門院」として、地域に根差した中にも、専門性とスピードを両立する組織が必要でした。それが【新富士駅前 相続税の専門院】なのです。

2 そもそも「相続」とは何か?

相続とは、一言でいえば「亡くなった方の財産を、遺された方が引き継ぐ」ことです。

法律的には、民法に定められています。民法第5編「相続」(第882条以降)において、誰が相続人になれるのか、どのように財産を分けるのか、遺言がある場合はどう取り扱うのか、といったルールが細かく規定されています。

しかし、一般の方が相続を経験するのは、一生に2〜3回がせいぜいです。そのたびに一から学び直すことになり、精神的・経済的な負担も大きいものです。

だからこそ、「専門家の支援」が必要なのです。

幸せな相続 (2)

3 相続税の専門家とは?

相続税を扱う税理士の中でも、真に専門性を有する人材はごく一部です。

税理士試験には「相続税法」という科目がありますが、それはあくまで税務上の論点に過ぎません。相続の全体像を理解するには、民法や不動産評価、判例知識など、幅広い分野の学習が必要です。

税理士として、そして相続を扱う専門家として、法的思考力は不可欠です。なぜなら、相続では税法だけでなく、民法や登記法、不動産の実務まで絡む場面が多いからです。机上の知識だけでは、真の相続対策はできません。

4 実務で磨いた「相続税の専門性」

私は以前、東京にある資産税専門の「東京シティ税理士事務所」で実務を積みました。ここで私は、相続に関する複雑な申告業務や調査対応を数多く経験しました。

特に印象的だったのは、隣に座っていた先輩税理士の存在です。彼は司法試験に挫折したものの、その思考力を武器に、税理士試験を軽々と突破。まさに「法と税の両輪」を持つプロフェッショナルでした。

そんな中で、「お前は、そんなことも分からないのか?」と何度も叱咤されながら、悔しさをバネに学び続けました。あの厳しい環境があったからこそ、今の自分の基礎があると確信しています。

厳しい先輩

5 相続税のプロの見分け方

では、どうすれば本物の相続税の専門家を見分けられるのでしょうか?

1. 税法六法を使いこなしているか?

相続税のプロは、「税法六法(法令・通達集)」を頻繁に引いています。インターネットで調べるだけの対応ではなく、法令そのものを素早く引けることが重要です。

2. 有名判例に通じているか?

税法は「前例主義」の世界です。つまり、最高裁判例などの解釈を理解していなければ、正しいアドバイスはできません。プロは、判例を暗記してはいませんが、常に最新の裁判例とその影響を把握し、判断根拠として引用できる状態にあります。

3. 毎年、最新の書籍や資料を更新しているか?

相続税の実務は、年々変化しています。税制改正、通達の変更、評価基準の見直しなど、キャッチアップが欠かせません。「数年前の知識」で仕事をしている税理士では、最新の対策や正確な申告はできません。

よく調べる人

6相続の不安を安心に変えるために

相続は、人生の中でも大きな出来事です。そして、多くの人にとって「突然やってくるもの」でもあります。

そのとき、あなたの隣にいる税理士が、本当に信頼できる専門家かどうかは、その後の家族の未来を左右するほど重要です。

私たちは、「相続という大切な時間」に、誠実かつ専門的に寄り添う存在でありたいと思っています。

おわりに|新富士駅前から、安心の相続を

「新富士駅前 相続税の専門院」は、富士市・富士宮市の皆さまが安心して相談できる場所を目指して、今日も全力でサポートを行っています。

  • 初めての相続税申告で不安な方
  • 将来に向けて生前対策を検討されている方
  • 他の事務所で不安を感じたことがある方

どんなご相談でも歓迎です。まずは一度、お話を聞かせてください。

新富士駅

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飯野明宏税理士
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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

【債務控除】相続財産から差し引けるもの・差し引けないもの

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

相続が発生したとき、故人の財産を引き継ぐことになりますが、この「財産」にはプラスのものだけでなく、借金や未払いの税金などのマイナスの財産も含まれています。

相続税を計算するときには、このマイナスの財産を差し引いて計算できる「債務控除」という制度があります。この制度を正しく理解して活用することで、相続税を適正に軽減することができます。

今回は、債務控除の仕組みと、どのような債務が控除の対象となるのか、逆に対象とならないものは何なのかについて、具体例を交えて解説します。

1 債務控除とは何か?

債務控除の基本的な仕組み


情報元:国税庁 相続財産から控除できる債務

相続が発生すると、故人の財産は相続人が引き継ぎます。この「財産」には、預金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借入金や未払いになっている税金などのマイナスの財産も含まれます。

相続税はプラスの財産に対して課税されますが、亡くなった時点に借入金などの債務がある場合には、プラスの財産からこれらのマイナスの財産を差し引いて税額を計算することができます。この仕組みを「債務控除」といいます。

債務控除の金額が大きいほど、相続税の課税対象額が減り、結果として相続税が軽減されます。

相続税の全体像について >

債務控除が認められる要件

ただし、借金などの債務であればどんなものでも相続財産から差し引けるわけではありません。債務控除が認められる債務には要件があり、「被相続人の債務で相続開始の際に、現に存するもの」かつ「確実と認められるもの」である必要があります。

故人が亡くなった日の時点で現実に存在し、確実に支払う必要があると認められる債務が対象となります。

債務控除の要件

2 債務控除の対象となる主な債務

実際に債務控除の対象となる債務には、以下のようなものがあります。

金融機関からの借入金

金融機関など第三者からの借入金は、相続開始時の確実な債務と認められるため、亡くなった日の借入金の残高や未払利息が債務控除の対象となります。

未払い医療費

故人の治療費や入院費などで、亡くなった時点に未払いのもの(故人が入院中に亡くなった場合など)を相続人が支払った場合、債務控除の対象となります。

注意点: 債務控除できるのは故人にかかる医療費のみで、所得税法の医療費控除のように生計を一つにしていた親族の分は対象になりません。

未払いの税金

  • 未払い固定資産税:故人が固定資産税を納付する前に死亡した場合、その不動産を相続した人が支払うことになるもの
  • 準確定申告に係る所得税・消費税:相続開始の日から4か月以内に行う故人の所得税の確定申告で発生する税金
  • 未払い住民税:故人が亡くなる時期に関わらず、未払いの住民税を相続人が代わりに支払う場合

預り敷金・保証金

故人が賃貸不動産を所有していた場合、借主から預かっていた敷金や保証金は、将来返還する義務がある「債務」とみなされ、債務控除の対象となります。

その他の未払金

  • 公共料金:電気や水道料金など、故人が亡くなるまでにかかった費用
  • クレジットカードの未決済分:生前に使用していたクレジットカードの未払い分
  • 商品代金の未払い:生前に購入した商品の代金で未払いとなっている部分

クレジットカード

3 税務上問題となる可能性がある債務

一部の債務については、税務上問題となる可能性があり、債務控除が認められるかどうか個別の判断が必要になる場合があります。

連帯債務

複数の債務者が同一内容の債務について各自全部の給付を負担するものです。故人が連帯債務者である場合、故人の負担すべき金額が明らかであれば、その部分の金額が債務控除の対象となります。

保証債務

主たる債務者が返済できない場合に、その債務を肩代わりするものです。保証債務は将来の支払いが未確定なため、原則として債務控除の対象とはなりません。

ただし、主たる債務者が弁済不能な状態にあり、かつその者に請求できないような状況であれば、その弁済不能部分について債務控除の対象となる場合があります。

4 債務控除ができる人

相続税の債務控除は、誰でもできるわけではなく、「相続人」と「包括受遺者」に限定されています。

債務控除の対象

包括受遺者とは

遺言により「財産の〇分の〇を遺贈する」というように、財産の全部または一部の割合を指定されて財産を取得した人を指します。

5 債務控除を利用する際の注意点

証拠書類の準備

債務控除を利用するには、債務が実際に存在することを証明する金銭消費貸借契約書などを証拠として添付する必要があります。

相続時点での状況確認

債務控除の対象となる債務は、故人が亡くなった時点で支払いが確実と認められる借入金などに限られます。相続時点で相続人が既に支払いを済ませている債務などは控除対象外となる場合があるので、自身のケースが対象となるか正確に把握することが重要です。

また、債務控除と同様に、葬儀費用も相続財産から控除できる項目です。葬儀費用については次のコラムをご覧ください。
葬儀費用について >

6 まとめ:専門家への相談をおすすめします

債務控除は、相続税の課税対象額を軽減するための重要な制度です。プラスの財産だけでなく、故人が残したマイナスの財産にも着目して計算を行うことで、相続税の負担を適正にすることができます。

債務控除の対象となるものとならないもの、また債務控除ができる人は法律で定められており、その判断は専門的です。債務控除以外にも、相続税の負担を軽減するための特例や控除は多数存在します。

これらの制度を知らずに申告してしまうと、相続税を多く納めてしまう可能性もあります。正確な手続きや計算を行い、効果的な節税対策を実施するためにも、相続税に強い税理士などの専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めします。

適切な債務控除の活用により、相続税の負担を軽減し、円滑な相続手続きを進めていきましょう。

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相続税で控除できる葬儀費用

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

葬儀費用については「相続税から控除できる」ということをご存知の方も多いと思います。

葬儀にかかった費用の多くは、相続税の計算で相続財産から差し引くことができるのです。ただし、全ての葬儀関連費用が対象になるわけではありません。

今回は、どのような費用が控除の対象となるのか、逆に対象とならない費用は何なのかについて、解説します。

葬儀

1 そもそも葬儀費用が控除できる理由とは?

次のコラムで、基本的な相続税の計算について解説しています。ご確認ください。
相続税の全体像について >

葬儀費用は、厳密には故人の債務ではありませんが、故人の遺産から支払うのが一般的であるため、相続税法では特別に控除の対象とされています。これを「債務控除」と呼びます。

つまり、相続税を計算するときは、相続した財産の金額から葬儀費用を差し引いた金額に対して課税されるということです。葬儀費用が控除できれば、その分だけ相続税を節税できることになります。

次のコラムで、葬儀費用以外の債務控除について解説しています。ご確認ください。
債務控除について >

2 控除の対象となる葬儀費用


情報元:国税庁 相続財産から控除できる葬式費用

相続税の計算において控除できる葬儀費用は、以下のようなものです。

火葬・埋葬・納骨にかかった費用

基本的な葬儀の流れで必要な費用はすべて対象です。仮葬式と本葬式を両方行った場合は、その両方の費用が認められます。

納骨に関する費用も控除対象です。

遺体や遺骨の回送にかかった費用

故人を病院から自宅や葬儀場に搬送する費用火葬場への搬送費用などが該当します。

通夜・告別式など「通常葬式にかかせない費用」

お通夜や告別式にかかった費用は、一般的に葬式に欠かせないものとして控除対象になります。

具体的には:

  • ■会場費
  • ■式場装飾費
  • ■音響設備費
  • ■受付用品費 など

お寺さんや牧師さんなどへのお礼

読経料、お布施、などが含まれます。

通夜・告別式での飲食代

参列者にふるまう食事代はすべて対象です。仕出し業者に依頼した分だけでなく、自分でスーパーやコンビニで買い出しした軽食や飲み物代も含まれます。

会葬御礼品の購入代金

葬儀当日に弔問客全員にお渡しするタオルやハンカチなどの会葬御礼品も、「通常葬儀にかかせない費用」として控除可能です。ただし、金銭でのお礼は対象外です。

その他認められる費用

  • ■死亡診断書や死体検案書の発行費用:ご遺体の埋葬までの処置に直接必要なもの
  • ■お車代・交通費:喪主の帰省費用、僧侶へのタクシー代など(常識的な額の範囲内)
  • ■お花代:通夜や告別式に要した生花代やお供え物
  • ■死体の捜索・運搬費用:事故などで必要になった場合

3 控除の対象とならない葬儀費用

葬儀に関連する費用であっても、以下のものは相続税の控除対象になりません。

香典返しにかかった費用

香典は参列者から喪主への贈与であり、税務上非課税の収入とされています。そのため、非課税の収入に対する香典返しを控除対象とするとバランスが取れないため、債務控除はできません。

注意点: 香典返しをせず、会葬御礼のみを渡した場合、その会葬御礼が香典返し扱いとなり、控除の対象から外れる可能性があります。

墓石や墓地に関する費用

  • ■墓石の購入費用
  • ■墓地の購入費用
  • ■墓地を借りるための費用
  • ■墓石への戒名彫刻費用(文字彫り代)

これらは葬儀には直接関係しないため、控除対象になりません。

初七日以降の法事費用

初七日以降の法要は、一般的に葬儀(通夜・葬儀式・告別式・火葬まで)とは区別され、控除対象には含まれません。

対象外となるもの:

  • ■初七日以降の法事の食事代
  • ■花代
  • ■僧侶へのお布施
  • ■お車代

その他の対象外費用

  • ■永年供養料:遺骨の管理や今後の供養依頼のための費用
  • ■仏壇や位牌:葬儀後の仏具で、葬儀に直接関係しないもの
  • ■親族や参列者へのお車代:葬儀にかかせない費用とはいえないため

霊柩車みおくり

4 証拠書類の保管が重要

葬儀費用の控除を受けるためには、その費用を証明する書類が必要です。

領収書がある場合

仕出し業者への支払いなど、請求書や領収書がある場合は必ず保管しておきましょう。

領収書がもらえない場合

お寺さんへのお布施や心付け、戒名料など、領収書がもらえないこともあります。その場合でも、内容と金額をメモに残しておけば、証拠書類として認められます。

ただし、金額を偽ることはできませんので、正確な記録を心がけましょう。

5 注意すべきポイント

相続開始直前に引き出した現金

故人が亡くなる直前に、葬儀費用に充てるために預金口座から現金を引き出すことがあります。その場合、引き出された現金は「手許現金」として、相続税の計算上、プラスの財産に含めなければなりません。

これは税務調査で問題になりやすい点の一つですので、注意が必要です。

相続人以外が負担した費用

お花代などで、相続人以外の人が負担した金額は控除対象になりません。弔問客が負担したお花代が一括請求書に記載される場合もありますので、誰が負担したかを明確にしておくことが大切です。

判断が難しいケース

どの費用が控除対象となるかの判断は、個別の状況によって変わることもあります。特に、会葬御礼が香典返しとみなされるケースなど、微妙な判断が必要な場合もあります。

6 まとめ:専門家への相談をおすすめします

葬儀費用の控除は、相続税を適正に計算するために重要な制度です。しかし、どの費用が対象となるかの判断は複雑な場合もあります。

適切に葬儀費用を控除し、税務署に指摘されない相続税申告を行うためには、専門家である税理士にご相談いただくのが安心です。 関連しそうな領収書等はすべて保存しておくことをお勧めします。

大切な家族を亡くした悲しみの中でも、税務上の取り扱いを正しく理解することで、適切な相続手続きを進めることができます。不明な点がある場合は、遠慮なく専門家にご相談ください。

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相続専門メディア『相続の教科書』に当事務所が掲載されました。

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口頭での生前贈与

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

生前贈与「口約束でも大丈夫」と聞いたことがある方もいるかもしれませんが、大きな問題がひそんでいます。

今回は、口頭での生前贈与の有効性とそのリスク、そして安全に進めるための対策についてお話します。

1 生前贈与の基本:口約束でも成立するって本当?

結論から言うと、生前贈与は口約束でも法的には有効です。

民法では、贈与契約は当事者の合意の意思表示のみによって成立する契約とされており、書面がなくても成立します。つまり、「○○をあげる」という贈与者の意思と、「○○をもらう」という受贈者の合意があれば、契約として成立するのです。

でも、ここに大きな問題があります

口約束だけの贈与には、致命的な弱点があります。それは「いつでも撤回できる」ということです。

民法では、書面によらない贈与は、まだ財産を渡していない部分については、どちらからでも一方的に解除できると定められています。つまり、「やっぱりやめた」と言われてしまえば、それで終わりなのです。

さらに深刻なのは、贈与者が亡くなった場合です。解除権は相続人に引き継がれるため、たとえ口約束があったとしても、相続人が「この贈与は認めない」と言えば、契約は無効になってしまいます。

贈与税においても、贈与による財産の取得の時期は、原則として、口頭による贈与の場合は、贈与の履行があった時とされています。


情報元:国税庁 贈与税がかかる場合

暦年贈与について >

生前贈与

2 ケース別対処法:あなたの状況はどれに当てはまる?

口頭で生前贈与の約束をしてしまった場合、状況によって取るべき対応が変わってきます。以下の4つのパターンで確認してみましょう。

パターン1:贈与者が亡くなったが、生前に財産を受け取った場合

やるべきこと:贈与の事実を証明する証拠を探す

この場合、贈与契約は財産の引き渡しによって完了しているので、基本的には問題ありません。ただし、税務署などに贈与があったことを証明する必要があります。

証拠として使えるもの:

  • ■贈与を受けたことがわかる通帳
  • ■贈与税の申告書
  • ■亡くなった人から渡された証書(通帳や定期証書)
  • ■受贈者が贈与された財産を管理していることがわかるもの

パターン2:贈与者が亡くなったが、まだ財産を受け取っていない場合

やるべきこと:相続人に対して履行を請求する(ただし、解除リスクあり)

贈与契約自体は相続人に引き継がれるため、財産の引き渡しを請求することはできます。しかし、相続人が解除を主張する可能性が高く、受贈者の立場は弱くなります。

贈与者が生前に贈与の意思を示した手紙やメールなどの証拠を集めて、相続人を説得する必要があります。

パターン3:贈与者が存命で、すでに財産を受け取った場合

やるべきこと:贈与の確認書を作成する

後々のトラブル防止のために、「贈与の確認書」を作成しましょう。これは、過去に受け取った財産について贈与として合意したことを確認するための書類です。

重要な注意点: 日付を遡って贈与契約書を作成することは絶対に避けてください。重加算税が課されます。

パターン4:贈与者が存命で、まだ財産を受け取っていない場合

やるべきこと:正式な贈与契約書を作成する

この状況が最も対応しやすく、理想的なタイミングです。口頭での約束はまだ解除できる状態なので、内容を見直して正式な契約書を作成しましょう。

生前贈与

3 なぜ贈与契約書を作成すべきなのか?

口約束でも成立するとはいえ、贈与契約書を作成すべき理由は明確です。

受贈者の権利を守るため

口約束では内容が曖昧になりやすく、「言った」「言わない」の水掛け論に発展する可能性があります。贈与契約書があれば、贈与の事実と内容を客観的に証明できます。

税務上の証明のため

税務調査が入った際に、財産が正当な贈与であることを証明する有力な証拠となります。特に高額な贈与や繰り返し行われる贈与については、税務署は厳しくチェックする可能性があります。

法的な安定性のため

書面による贈与契約は、履行の完了前に一方的に解除されることがなくなります。これは、贈与を受ける側にとって、確実に財産を受け取れるという大きなメリットです。

4 贈与契約書の正しい書き方

贈与契約書に特定の形式はありませんが、以下の内容は必ず記載しましょう。

必須記載事項

  • ■いつ贈与するか(贈与の時期)
  • ■誰から誰に贈与するか(贈与者と受贈者の氏名、住所)
  • ■何を贈与するか(贈与の対象となる財産、金額、内容)
  • ■贈与する方法
  • ■契約日および当事者双方の署名・捺印

(出典:千葉銀行ウェブサイト)

公正証書での作成も検討を

より確実性を求める場合は、公証役場で「公正証書」として作成することを強く推奨します。公正証書は公証人が作成する公文書であり、契約書の不備による無効のリスクを回避できます。

5 生前贈与と税金の注意点

生前贈与は相続税対策になりますが、贈与税がかかる可能性があります。計画的に行うことが重要です。

暦年贈与の活用と注意点

年間110万円まで贈与税がかからない「基礎控除」があります。これを利用して毎年110万円以下の贈与を繰り返すことで、贈与税をかけずに財産を移転できます。

ただし、「定期贈与」とみなされないよう注意が必要です。毎年同じ金額を同じ日に贈与すると、最初から一定期間・一定金額の贈与が決まっている契約とみなされ、合計額に贈与税がかかってしまいます。

定期贈与を避けるためのポイント

  • ■贈与の都度、必ず贈与契約書を作成する
  • ■毎年同じ金額を同じ人に贈与しない
  • ■毎年同じ日付で贈与しない

現金手渡しは避ける

現金を贈与する場合は、手渡しではなく銀行振込を利用しましょう。振込記録は贈与の事実を示す強力な証拠となります。

6 生前贈与で注意すべきその他のポイント

他の相続人からのクレーム

多額の生前贈与を特定の相続人にだけ行った場合、他の相続人から不公平だとクレームになる可能性があります。「遺留分侵害額請求」という手続きで金銭の清算を求められることもあります。

生前贈与を行う際は、他の相続人に与える影響も考慮し、可能であれば事前に話し合っておくことが望ましいでしょう。

生前贈与加算

生前贈与から3年以内(将来的には7年以内)に贈与者が亡くなった場合、その贈与財産は相続税の計算対象となる「生前贈与加算」という仕組みがあります。これは、相続税逃れのための駆け込み贈与を防ぐ目的です。

生前贈与加算について >

まとめ

口頭での生前贈与は法的には有効ですが、多くのリスクを伴います。大切な財産を確実に次の世代に引き継ぐためには、適切な手続きと書面での契約が不可欠です。

「口約束だから大丈夫」と安易に考えず、しっかりとした準備を行い、後悔のない生前贈与を実現しましょう。

生前贈与は単なる財産移転ではなく、家族の未来を守る大切な手続きです。正しい知識と適切な対策で、安心できる相続対策を進めていってください。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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