こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は「重加算税」について、制度の概要から適用事例、計算方法、リスクと対処法までを実務的に解説します。
1 重加算税とは?制度の概要と役割
重加算税は、納税者が仮装や隠蔽を伴って不正な申告を行った場合に課される加算税です。意図的な不正行為への強い制裁措置として位置付けられており、税務コンプライアンスを促進する重要な役割を果たしています。
2 どんな場合に重加算税が課されるのか?
重加算税の適用には「隠蔽または仮装」が要件とされています。以下のようなケースが該当します:
二重帳簿の作成
売上の脱漏(いわゆる売上隠し)
架空経費の計上(水増しや虚偽請求)
帳簿・証憑の改ざん・破棄
申告義務のある収入の無申告
調査時の虚偽答弁
通謀による証憑の偽造 など
詳細には、次のとおりです。リンク 国税庁 法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)
(1) いわゆる二重帳簿を作成していること。
(2) 次に掲げる事実があること。
①帳簿、原始記録、証ひょう書類、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他決算に関係のある書類を、破棄又は隠匿していること。
②帳簿書類の改ざん、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていること。
③帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げその他の収入の脱ろう又は棚卸資産の除外をしていること。
(3) 特定の損金算入又は税額控除の要件とされる証明書その他の書類を改ざんし、又は虚偽の申請に基づき当該書類の交付を受けていること。
(4) 簿外資産に係る利息収入、賃貸料収入等の果実を計上していないこと。
(5) 簿外資金をもって役員賞与その他の費用を支出していること。
(6) 同族会社であるにもかかわらず、その判定の基礎となる株主等の所有株式等を架空の者又は単なる名義人に分割する等により非同族会社としていること。
3 重加算税の計算方法と税率
重加算税は、本来の課税額に対して課される附帯税です。
重加算税の金額 = 不正に納めなかった税額 × 上記の税率
他の加算税に比べて非常に高率な税率が設定されています。
重加算税は、過少申告加算税および不納付加算税の課税割合に代えて、35%と定められています。
重加算税は、無申告加算税の課税割合に代えて40%と定められています。
加算税の種類 | 通常税率 | 重加算税 |
---|---|---|
申告書を提出していて過少申告をした場合 過少申告加算税 | 10% or 15% | 35% |
申告書を提出していない場合 無申告加算税 | 15% or 20% | 40% |
納付をしていない場合 不納付加算税 | 10% | 35% |
・期限後申告等があった日前5年以内に同じ税目に対して重加算税を課された場合10%が加算されます。
つまり、これらの要件に該当する場合は、過少申告や不納付で45%、無申告で50%の重加算税が課されます。
具体的にみていきましょう。申告書を提出していて過少申告をした場合の重加算税について。
本来支払うべきだった税金が100万円だった場合、100万円×35%に当たる35万円の重加算税が課されます。
また、重加算税には延滞税等も加算されることが多いため、納税負担はさらに大きくなります。
4 重加算税のもたらす深刻なデメリット
重加算税が課されると、納税者には以下のような不利益が生じます:
税率が高く、追徴額が大きい
青色申告承認の取消リスク
延滞税の増加
今後の税務調査頻度の増加
財産の差押え、自己破産でも免責されない
加えて、通常の費用であれば損金算入ができ、法人税を軽減することができるのですが、重加算税等の附帯税は損金算入ができません。
5 重加算税における「故意」の判断基準
税務署は、重加算税を賦課する際に「客観的に仮装・隠蔽と判断される事実」があれば、納税者の主観的な故意の立証を不要とする立場です。
ただし、裁判では「故意」の立証が争点となり、納税者に有利な判決が出ることもあります。
このため、調査段階でのやり取りや説明が、重加算税の可否に大きく影響する可能性があります。
6 重加算税の対象となった場合の対処法
1修正申告を行う
税務調査で指摘があった場合、通常、修正申告を行います。
2更生処分を行う
会社が修正するのではなく、税務署が決定を行います。
3不服の申し立てを行う
税務調査の内容に納得できない場合、不服を申し立てることができます。