こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は、会社経営にとって最もショックな出来事のひとつ、「従業員による横領」が起きてしまった場合の法人税における所得計算のポイントを解説します。
横領行為はあってはならないものですが、発生してしまった場合には、損失の処理や損害賠償請求権の扱いなど、税務処理が非常に複雑です。事例を交えながら、どのような会計・税務対応が求められるかを見ていきましょう。
横領が発覚した場合の所得計算のポイント
横領が起きた場合、法人税の観点からは次の3つの項目が重要になります。
1. 売上の計上時期
従業員が横領したとしても、会社名義で商品が販売されていれば、販売時点で売上として計上しなければなりません。
代金が会社に入金されていないという事実は、売上の計上義務を免れる理由にはなりません。
2. 横領による損失(横領損失)の損金算入
横領された金額については、「横領損失」として損金算入が認められます。
この場合、損失を計上するのは「横領が発覚した事業年度」ではなく、実際に横領が行われた事業年度とされることが一般的です。
3. 損害賠償請求権の益金(雑収入)計上時期
会社は、横領した従業員に対して損害賠償請求権を有します。
この損害賠償請求権に相当する金額は、雑収入として益金に算入する必要がありますが、その計上時期にはいくつかの考え方があります。
通説:同時両建説(損失と益金を同年度に計上)
税務上は「損失が発生した事業年度に損害賠償請求権も同時に益金計上する」とする考え方が通例です。
これを「同時両建説」といいます。
まとめ|横領と所得の関係は「売上・損失・雑収入」を同じ期に揃えることが原則
従業員の横領があった場合には:
■商品販売による売上 → 発生時点で課税対象
■横領された損失 → 発生時点で損金算入
■損害賠償請求権 → 同時期に雑収入として益金計上(通例)
(借方)横領損失 10,000千円 / (貸方)売掛金 10,000千円
(借方)未収入金 10,000千円 / (貸方)損害賠償金収入 10,000千円
損害賠償請求権は実務上、未収入金とされ、回収不能だった場合は貸倒損失となりますが、これは貸倒損失の規定によります。
貸倒損失について >
この3つを同じ事業年度で処理するのが原則的な考え方です。
なお、「いつ知ったか」「請求権が確定したか」「回収可能かどうか」など、実態によって判断が分かれるため、慎重な検討が必要です。