1 中小企業倒産防止共済とは?制度の目的と基本概要
こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
中小企業倒産防止共済(通称:経営セーフティ共済)は、取引先事業者の倒産によって自社が連鎖倒産したり、深刻な経営難に陥ったりすることを防ぐ目的で設けられた、政府系の共済制度です。
この制度は中小企業者同士の相互扶助を基本理念としており、経営の安定を支援することを目的に、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。すでに多くの法人・個人事業主が活用しており、倒産リスクに備えた有効な手段として広く認知されています。
2 制度の主な特徴とメリット
経営セーフティ共済には以下のようなメリットがあります。
- 無担保・無保証人での借入が可能
- 取引先の倒産によって売掛金等が回収不能になった際、納付した掛金の最大10倍(最高8,000万円)までの貸付が受けられます。
- 掛金を損金(法人)または必要経費(個人事業)に算入できる
- 月額5,000円から20万円の範囲で自由に設定でき、掛金総額は800万円まで。全額を損金・経費算入できることから、節税効果があります。
- 解約手当金の支給がある
- 自己都合で解約しても、12ヶ月以上の納付で8割以上、40ヶ月以上で全額が戻る仕組みです。
- 再加入が可能(※改正前の条件)
- 解約後も再加入が可能で、再び掛金を積み立てることができる点も魅力でした。
3 「課税の繰り延べ」としての活用と出口戦略
多くの事業者が、この制度を「節税」ではなく「課税の繰り延べ」として活用してきました。たとえば、利益が出た年に掛金を上限まで支払い、その年の所得を圧縮して法人税・所得税を軽減する一方、将来的に解約時に解約手当金を受け取って益金として計上するという運用です。
出口戦略としては、役員退職金の支払いや大規模な設備投資、赤字補填のタイミングに合わせて解約するのが効果的とされてきました。
4 令和6年10月1日からの制度改正とは?
令和6年度税制改正大綱により、2024年10月1日以降、以下の新たな制限が導入されます。
解約後2年以内に再加入した場合、その再加入期間中に支払った掛金については、損金または必要経費に算入できない。
つまり、再加入そのものは可能ですが、税務上のメリット(損金・経費算入)が制限されることになります。
5 2年間の損金不算入ルールが与える影響
この改正の背景には、課税繰り延べを目的とした短期の解約・再加入が制度の趣旨と乖離しているという問題意識があります。
従来のように「40ヶ月積み立て → 解約 → すぐ再加入」を繰り返す方法は、 今後は掛金の税務上の優遇を受けられない2年間が生じるため、事実上のメリットが半減することになります。
この変更により、特に「利益調整目的で解約と再加入を繰り返していた企業」は、節税効果の減少を考慮し、計画的な資金繰り・損益管理が求められるようになります。
改正前の節税効果
年間節税額:240万円 × 30% = 72万円 40ヶ月後解約 → 即再加入で継続的な節税が可能でした。
改正後の影響
解約後2年間:掛金480万円(240万円×2年)が損金不算入となります。 失われる節税効果:480万円 × 30% = 144万円 実質的に節税メリットが大幅に減少することになります。
年間240万円の掛金を5年間継続した場合の比較
■改正前の運用パターン
- 1-3年目:掛金720万円(全額損金算入)→ 節税効果216万円
- 4年目:解約(800万円受取)→ 同年再加入開始
- 5年目:掛金240万円(損金算入)→ 節税効果72万円
- 合計節税効果:288万円
■改正後の運用パターン
- 1-3年目:掛金720万円(全額損金算入)→ 節税効果216万円
- 4年目:解約(800万円受取)→ 同年再加入開始
- 5-6年目:掛金480万円(損金不算入)→ 節税効果0円
- 合計節税効果:216万円(改正前より72万円減少)
この例からも分かるように、従来の「短期解約・即再加入」戦略は、改正により経済的合理性を大きく失うことになります。