1 おしどり贈与とは?制度の概要
こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
「おしどり贈与」とは、正式には「贈与税の配偶者控除の特例」と呼ばれる制度で、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産またはその購入資金を贈与した場合、最大2,000万円まで贈与税が非課税になるという制度です。
この特例は贈与税の基礎控除(110万円)と併用できるため、最大2,110万円まで贈与税がかからずに配偶者に資産を移転できます。
2 適用要件
次の4つの要件をすべて満たす必要があります:
- 1 婚姻期間が20年以上であること
- 2 贈与財産が居住用不動産またはその取得資金であること
- 3 贈与翌年の3月15日までに居住し、引き続き居住する見込みがあること
- 4 同じ配偶者との間でこの特例を過去に受けていないこと
- 5 申告が必要(贈与税が発生しない場合でも、贈与税の申告が必要)
※離婚後の再婚は通算不可。内縁関係は対象外です。
3 メリット
- ■将来の相続税対策が可能
- ■生前贈与加算の対象外(相続前3年以内の贈与でも加算不要)
- ■具体的な節税効果
おしどり贈与を使わない場合の贈与税額は大きくなります。例えば、2,000万円の不動産を贈与する場合、通常の贈与では約695万円の贈与税がかかりますが、おしどり贈与を適用すれば贈与税は0円になります。この大きな節税効果が制度活用の最大のメリットです。
4 デメリット・注意点
- ■配偶者の税額軽減との比較が必要(相続時の方が得な可能性も検討)
- ■2024年からの生前贈与加算期間延長の影響
2024年1月1日から、一般的な生前贈与の加算期間が3年から7年に段階的に延長されましたが、おしどり贈与で適用を受けた贈与財産は引き続き生前贈与加算の対象外です。この改正により、おしどり贈与のメリットがより際立つようになりました。 - ■不動産取得税、登録免許税などの費用が発生
5 申告の流れと必要書類
- ■申告期間:贈与翌年2月1日〜3月15日
- ■必要書類:
- □贈与税申告書
- □戸籍謄本(婚姻期間の確認)
- □登記事項証明書(不動産の所有者が変更された証明)
- □居住の事実を確認できる書類(住民票等)
- ■注意すべき期限と手続き
- □戸籍謄本等は贈与を受けた日から10日経過後に作成されたものが必要
- □居住の事実確認は贈与翌年3月15日までに実際に住んでいることが条件
- □申告を忘れると特例が適用されず、多額の贈与税が課税される可能性があります
- ■費用の目安
不動産の贈与では以下の費用が発生します:- □ 登録免許税:不動産評価額の2%
- □ 不動産取得税:土地1.5%、建物3%(特例あり)
- □ 相続時は登録免許税0.4%、不動産取得税0円のため、贈与時の方が費用負担が大きくなります
6 まとめ
おしどり贈与は、婚姻期間が長い夫婦にとって有効な生前贈与制度であり、相続税対策や配偶者への生活保障の観点からも大きなメリットがあります。ただし、申告義務や費用、制度の一回限りという性質を十分に理解して、相続時の他の特例との比較検討を行う必要があります。
特に2024年の税制改正により一般的な生前贈与の加算期間が延長される中、おしどり贈与は引き続き生前贈与加算の対象外となっており、相続税対策としての価値がより高まっています。
ただし、相続時の配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで相続税非課税)や小規模宅地等の特例との比較検討は必須です。総合的な相続税シミュレーションを行い、最適な選択をすることをお勧めします。