こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
相続の手続きの中でよくいただくご質問のひとつに、「未支給年金に税金はかかるのか?」というものがあります。故人が亡くなった後でも、受け取れるはずだった年金(未支給年金)は遺族が受け取れる制度ですが、その課税関係は年金の種類によって異なります。
今回は、「未支給年金」の基本から、公的年金と私的年金の違い、所得税や相続税の扱い方まで、ケース別にわかりやすく解説します。
1 未支給年金とは?
未支給年金とは、年金受給者が亡くなった後、本来支給されるはずだったが未受給のまま残った年金のことを指します。遺族が所定の手続きを取ることで受け取ることが可能です。
ただし、この未支給年金はすべて「相続財産」として相続税がかかるわけではありません。ここが重要なポイントです。
2 公的年金の未支給年金は所得税の対象
国民年金・厚生年金などの公的年金については、未支給分は「遺族固有の権利」とされ、相続税の課税対象にはなりません。
代わりに、受け取った遺族の「一時所得」として所得税・住民税の対象になります。
所得税の計算方法
一時所得 = 総収入金額 − 特別控除(最大50万円)
例えば、未支給年金が80万円なら、特別控除50万円を差し引いた30万円が課税対象となります。
※申告義務があるかは、他の所得との合計や控除額との関係によります。
3 企業年金の未支給年金は相続税の対象にも
企業年金については、死亡時期や給付の種類によって税務上の取り扱いが異なります:
死亡月までの未支給分
- ■公的年金と同様に、遺族の「一時所得」として所得税の課税対象
- ■相続税の課税対象外
- ■相続放棄をしていても受け取り可能
死亡翌月以降の保証期間内の年金(遺族給付金)
- ■「定期金に関する権利」として相続税の課税対象
- ■死亡退職金の非課税枠は適用されない
- ■相続放棄をしている場合は受け取り不可
死亡一時金(遺族一時金)
- ■相続税の課税対象(みなし相続財産)
- ■相続人が受け取る場合は非課税枠「500万円×法定相続人の数」が適用可能
- ■相続人以外が受け取る場合は非課税枠の適用なし
4 相続放棄していても受け取れる?注意点とは
相続放棄と未支給年金の関係
受け取り可能なもの(相続放棄していても受け取れる)
- ■公的年金の未支給分
- ■企業年金の死亡月までの未支給分
→これらは「遺族固有の権利」のため相続財産ではない
受け取り不可能なもの(相続放棄をしていると受け取れない)
- ■企業年金の保証期間分(死亡翌月以降の遺族給付金)
- ■個人年金の未支給分
→これらは「相続財産」に該当するため
注意点
企業年金でも、死亡月までの未支給分と保証期間分では取り扱いが全く異なります。相続放棄をした場合でも、死亡月分までは請求可能です。
5 遺族年金とは別物!混同に注意
未支給年金と混同されやすい「遺族年金」は、配偶者や子の生活保障のために支給されるものであり、相続税も所得税も課されません。
6 まとめ:未支給年金の課税は専門家へ相談を
未支給年金の税務上の取り扱い
- ■公的年金の未支給分 → 所得税(遺族固有の一時所得)
- ■ 企業年金の死亡月までの未支給分 → 所得税(遺族固有の一時所得)
- ■ 企業年金の保証期間分(遺族給付金) → 相続税(定期金の権利)
- ■個人年金の未支給分 → 相続税または贈与税(契約者により異なる)相続放棄との関係
- ■公的年金・企業年金の死亡月分 → 相続放棄に関係なく受け取り可能
- ■企業年金の保証期間分・個人年金 → 相続放棄をしていると受け取り不可
重要ポイント
企業年金は「死亡月まで」と「死亡翌月以降の保証期間」で税務上の取り扱いが全く異なるため、必ず区別して考える必要があります。