相続税が払えないときの最終手段?「物納制度」
こんにちは。富士市・富士宮市の相続税専門、飯野明宏税理士事務所です。
相続税の納税では、多額の税金がかかるにもかかわらず、現金や預貯金が少なく納税資金に困るケースが少なくありません。前回のブログでは、相続税の分割納付を可能にする「延納制度」について解説しましたが、今回はそれでもなお納税が困難な場合の「物納制度」について詳しくご紹介します。
📚 目次
第1章|相続税の物納とは?現物で納めるという選択肢
物納とは、相続税を延納でも支払えない場合に限り、相続財産そのものを現物で納付する制度です。原則として相続税は金銭での一括納付が求められますが、相続財産が不動産や株式ばかりで現金が乏しい場合、金銭での納付が現実的でないことがあります。そうした状況を考慮して設けられたのが、この「物納制度」です。
第2章|物納の適用要件とは?税務署に認められる条件
物納の適用を受けるには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
延納によっても納付困難であること
相続税の申告期限内(10ヶ月以内)に物納申請書を提出すること
対象財産が「物納適格財産」であること
第3章|物納に充てられる財産とその優先順位
物納に使える財産には順位があり、基本的には以下の優先順で納付することが求められます。
さらに、これらの財産の中でも「物納劣後財産」などが定められており、原則として評価が安定しており管理が容易な財産が優先されます。
第4章|物納できない財産の具体例(管理処分不適格財産)
以下のような財産は、物納には使えません。
- 抵当権などが設定された土地
- 境界が不明な土地
- 相続人間で争いがある不動産
- 譲渡制限のある株式
- 遺産分割協議が済んでいない財産
物納を検討する際は、早めに分割協議を済ませ、財産の法的整理を行っておく必要があります。
第5章|物納と売却、どちらが有利か?検討ポイント
物納財産の評価額は、原則として「相続税評価額」が用いられます。これは一般的な時価よりも低くなることが多いです。
物納にするか、財産を売却して金銭で納税するかはケースバイケースです。判断基準は以下の通りです。
比較項目 | 物納 | 売却納税 |
---|---|---|
評価方法 | 相続税評価額(低め) | 時価(高め) |
納税資金確保 | 現物で対応 | 現金化が必要 |
税金の種類 | 譲渡所得税なし | 売却益に譲渡所得税が課税 |
手間・コスト | 実測・登記・書類整備などの要件を満たす必要あり | 仲介手数料・登記変更・譲渡税の申告などが発生 |
「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」が使えるかどうかも、売却納税を選ぶ際の大きなポイントです。
第6章|物納の注意点とスケジュール
提出期限は「申告期限(10ヶ月)」内
許可後の収納までの間に利子税が発生する場合あり
第7章|まとめ 物納は「最後の手段」?専門家のアドバイスを受けて判断を
物納は、現金納付や延納が難しい場合の「最後の手段」として認められる制度ですが、その要件は厳格であり、提出書類や財産の整備も求められます。また、相続税評価額での納付となるため、納税額と実質的な損得を冷静に判断する必要があります。