相続が発生した際、相続人の中に障害のある方がいらっしゃる場合に適用できる「障害者控除」は、相続税の負担を軽減できる制度です。本記事では、障害者控除の目的や要件、計算方法、注意点までを税理士の視点でわかりやすく解説します。
📚 目次
第1章|障害者控除の基本とその目的
障害者控除は、85歳未満の障害者である相続人が相続または遺贈により財産を取得した場合に、相続税額から一定額を控除できる制度です。障害のある相続人の生活保障を目的としています。
控除額が相続税額を上回る場合は、扶養義務者の相続税からも差し引くことができます。
第2章|障害者控除の適用4要件
障害者控除の適用には、次のすべての要件を満たす必要があります。
- 相続や遺贈によって財産を取得していること
- 取得者が法定相続人であること
- 相続開始日に日本国内に住所があること
- 相続開始日に税法上の障害者であること
第3章|障害の区分と該当例
障害者控除には「一般障害者」と「特別障害者」の2区分があります。
● 一般障害者:
- 療育手帳において重度に該当しない知的障害者
- 身体障害者手帳 3級〜6級
- 精神障害者手帳 2級〜3級
● 特別障害者:
- 重度知的障害者、身体障害1級・2級、精神障害1級
- 成年被後見人
- 寝たきり高齢者(要医師判断)
第4章|障害者控除額の計算方法
計算式は以下のとおりです:
(85歳 − 障害者の満年齢) × 控除単価(10万円 or 20万円)
- 一般障害者:10万円/年
- 特別障害者:20万円/年
※年数の端数は1年に切り上げます。
第5章|控除しきれない場合の対応
控除額が相続税額を超える場合、その超過分は扶養義務者(配偶者・子・親・兄弟姉妹など)の相続税額から控除可能です。
例:
障害者Aさん(40歳・特別障害者)控除額:900万円。相続税:500万円。 → Aさんの税額は0円、残り400万円は兄Bさんの税額(500万円)から控除可能 → Bさんは100万円納税。
第6章|二次相続での取り扱い
二次相続では、以下の少ない方の金額が控除上限となります:
- 通常の計算による控除額
- 一次相続の残額
例:
一次:控除900万円中、300万円を使用 → 残600万円。 二次:60歳時 → 通常控除額 25年×20万=500万円 → 控除上限は500万円。
第7章|よくある質問と実務上の注意点
- 要介護認定だけでは不可。「障害者控除対象者認定書」が必要
- 療育手帳での適用可
- 修正申告・更正の請求でも可
- 控除で相続税0円なら申告不要(ただし把握のため申告推奨)
- 相続放棄者でも取得財産(例:保険金)があれば適用可能
- 受遺者(例:孫)は原則適用外(代襲相続や養子は除く)
まとめ
障害者控除は、障害のある相続人やその家族にとって重要な節税手段です。適切に要件を確認し、計算方法を理解することで、無理なく活用できます。制度の運用は複雑なため、相続税に詳しい税理士への相談を強くおすすめします。