はじめに
相続財産に上場株式が含まれている場合、その評価は相続税申告において重要な要素となります。株式の評価を誤ると過大申告や過少申告につながる可能性があるため、正確な評価方法を理解することが必要です。
1 上場株式の相続税評価方法と注意点
相続財産の中に上場株式が含まれている場合、相続税の申告にあたって適切な評価が求められます。上場株式の株価は短期間で大きく変動する可能性があるため、相続税法上は、相続開始日だけでなく、一定の期間の株価の中から最も低い価格を選ぶことが認められています。
2 上場株式の相続税評価額の基本計算式
評価額 = 1株あたりの株価 × 株数
この「1株あたりの株価」と「株数」を正確に把握することが評価のポイントです。
上場株式の評価は「時価主義」が原則ですが、株価変動リスクを考慮し、相続人に有利な価格選択が認められています。これは、相続開始日がたまたま株価の高値の日だった場合の不利益を避けるためです。
3 株数の確認方法
- ■証券会社の「残高証明書」で確認。
- ■取引証券会社が不明な場合は「証券保管振替機構(ほふり)」で開示請求。
- ■単元未満株(端株)の見落としに注意:配当計算書などで確認し、株主名簿管理人から証明書を取得する必要があります。
4 1株あたりの株価の決定方法(4つの中から最も低い額を選択)
- ■相続開始日の終値
- ■相続開始月の終値の平均額
- ■前月の終値の平均額
- ■前々月の終値の平均額
原則として、上場株式の相続税評価額は、相続開始日の終値によって計算されます。しかし、相続開始日の3か月以内において、終値の平均が相続開始日の終値を下回る場合は、その中で最も低い額を選択することになります。
計算例
A社株式 1,000株を相続した場合
– 相続開始日(3月15日)の終値:1,200円
– 3月の平均終値:1,150円
– 2月の平均終値:1,180円
– 1月の平均終値:1,100円
→ 最も低い1月の平均終値1,100円を採用
評価額 = 1,100円 × 1,000株 = 1,100,000円
5 評価に関する注意点
1. 相続開始日に株価がない場合
休日などで終値が存在しない場合:原則、相続開始日に近い日付の終値を採用します。近い日付が複数ある場合、近い前営業日と後営業日の終値平均を使用して評価します。
2. 権利落ち日と基準日
- ■権利落ち日とは、配当等の権利を得られる日である権利確定日の3営業日前の次の日のことをいいます。権利落ち日の前後は、株価が大きく変動することが多いため、通常とは異なる計算となります。
リンク 国税庁 株式及び出資
3. 配当期待権・未収配当金
- ■配当基準日から決議日前:配当期待権として評価
- ■決議日から支払日前:未収配当金として評価
4. 株式分割・株式併合の影響
相続開始日前後に株式分割や株式併合が行われた場合、株価と株数の調整が必要になります。証券会社に確認し、正確な株数で計算することが重要です。
5. 外国株式の評価
外国の証券取引所に上場している株式は、原則として外国の取引所の価格を円換算して評価します。為替レートは相続開始日のTTM(仲値)を使用します。
6. 評価明細書の作成
相続税申告書には「上場株式の評価明細書」の添付が必要です。各銘柄ごとに4つの価格を記載し、選択した価格とその理由を明確にしましょう。
6 まとめ
上場株式の相続税評価は、正確な株数の把握と適切な株価の選択が重要です。特に以下の点にご注意ください:
– 証券会社の残高証明書で正確な株数を確認
– 4つの価格から最も低い価格を選択
– 権利落ち日前後の特殊な計算に注意
– 配当期待権・未収配当金の別途評価