近年、NISAなどの非課税制度の普及により、一般の方でも「投資信託」への投資が身近になりました。もし投資信託を保有している方に相続が発生した場合、投資信託は相続税の対象となり、適切に評価して申告する必要があります。
この記事では、投資信託の種類ごとに相続税評価方法を解説し、申告時に注意すべき点を整理します。
1 投資信託の相続税評価における区分
投資信託の相続における基本的な考え方
投資信託は「受益権」という権利を相続することになります。この受益権の価値は日々変動するため、相続開始日時点での正確な評価が重要です。また、投資信託には運用会社への信託報酬や販売会社への手数料など、各種コストが発生することも評価に影響します。
1 日々決算型(MRF・外貨建てMMFなど)
日々決算型とは、毎営業日に運用損益の計算(決算)を行い、利息等を日次で再投資する投資信託です。主に安全性の高い短期金融資産(公社債等)に投資する。
■MRF(マネー・リザーブ・ファンド):普通預金の代替商品として、証券会社の買付余力に利用されるファンド。
■外貨建てMMF:外貨建てで運用されるマネー・マーケット・ファンド。利子は日々発生し、再投資される。
一般的に元本割れリスクが低く、短期運用や資金の待機場所として利用される。
2 上場投資信託
(ETF・J-REITなど)
上場投資信託とは、証券取引所に上場している投資信託であり、株式と同様に市場でリアルタイムに売買可能な金融商品です。
■ETF(Exchange Traded Fund):株価指数等に連動するように設計されたファンド。
■J-REIT(Japan Real Estate Investment Trust):複数の不動産に投資し、賃貸収入や売却益を投資家に分配するファンド。
価格は需給により変動するが、透明性が高く、流動性も高いのが特徴。
3 一般投資信託(上記以外)
一般投資信託とは、証券取引所に上場していない投資信託で、証券会社や銀行を通じて購入・解約する非上場型のファンドを指します。
■インデックスファンド:日経平均やTOPIXなどに連動するファンド。
■アクティブファンド:運用者が独自の戦略で収益を目指すファンド。
原則として1日1回、基準価額(NAV)が算出され、その価格で売買される。長期運用に適した設計が多い。
2 種類別の相続税評価方法
日々決算型投資信託
評価額 = 基準価格×口数+未収分配金-源泉税-信託財産留保額・解約手数料
※再投資未済の分配金、外貨建てMMFは邦貨換算(TTB)に注意。
計算例(MRF)
– 基準価格:10,000円
– 保有口数:100万口
– 未収分配金:1,000円
– 源泉税:200円
– 解約手数料:なし
評価額 = 10,000円 × 100万口 ÷ 10,000 + 1,000円 – 200円 = 100,800円
上場投資信託
評価額 = 「最も低い価格」× 口数
- 相続開始日の終値
- 当月平均終値
- 前月平均終値
- 前々月平均終値
上場株式と同様に、相続開始日が休日なら前後の取引日の平均を使用します。
計算例(ETF)
A投資法人(J-REIT)10口を相続した場合
– 相続開始日の終値:50,000円
– 当月平均終値:48,000円
– 前月平均終値:52,000円
– 前々月平均終値:49,000円
→ 最も低い当月平均終値48,000円を採用
評価額 = 48,000円 × 10口 = 480,000円
一般投資信託(私募も含む)
評価額 = 基準価格×口数-源泉税(※私募のみ控除可)-信託財産留保額・解約手数料
計算例(一般投資信託)
– 基準価格:15,000円
– 保有口数:50万口
– 信託財産留保額:0.3%
– 解約手数料:なし
評価額 = 15,000円 × 50万口 ÷ 10,000 – (750,000円 × 0.3%) = 747,750円
3 投資信託を相続する手続きと実務上の注意点
手続きの流れ
- ■証券会社へ死亡連絡 → 口座凍結
– 被相続人の死亡診断書または除籍謄本が必要
– 口座凍結後は売買・解約ができなくなるため、タイミングに注意 - ■残高証明書を取得
– 相続開始日時点の残高証明書を取得
– 基準価格、口数、評価額、未収分配金の詳細を確認
– 複数の証券会社に口座がある場合は全て取得 - ■遺言書の確認・提出(自筆は検認必要)
- ■遺産分割協議書を作成
- ■相続人名義で証券口座開設 → 相続移管
- ■名義変更完了後の税務処理**
– 相続人が売却する場合、被相続人の取得価格を引き継ぐ
– 相続時の評価額が新たな取得価格ではない点に注意
注意点
- ■残高証明書は評価額とは異なる → 評価益・税・手数料を控除し再計算
- ■含み益・含み損も相続対象(譲渡益課税の可能性)
- ■日々変動のある資産であることを認識 → 遺産分割トラブル防止策も必要
- ■未収分配金・配当期待権の取り扱いも忘れずに
■ NISA・つみたてNISA口座の取り扱い
– NISA口座は相続できないため、一般口座への移管が必要
– 移管時の時価が相続人の新たな取得価格となる
– 被相続人のNISA枠は消滅し、相続人の新規NISA枠を使用
■ 分配金の取り扱い
– 決算日から支払日までの期間に相続が発生した場合
– 未払い分配金として相続財産に含める
– 源泉徴収された税額も考慮した評価が必要
■ 遺産分割における注意点
– 投資信託は現物分割が困難な場合が多い
– 売却して現金化する場合は市場環境を考慮
– 運用損失が発生している場合の取り扱いを事前に協議
4 まとめ
投資信託の相続税評価は、投資信託の種類により異なる計算方法が適用されます。特に重要なポイントは以下の通りです:
評価のポイント
– 投資信託の種類(日々決算型・上場・一般)を正確に把握
– 各種手数料・税金の控除を忘れずに実施
– 外貨建ての場合は適切な為替レートを使用
– 未収分配金・配当期待権の別途評価
手続きのポイント
– 早期の証券会社への連絡と口座凍結
– 複数口座の存在確認と残高証明書の取得
– NISA口座の特殊な取り扱いに注意
– 遺産分割における現物分割の困難性を考慮