こんにちは。富士市・富士宮市の相続・税務専門、飯野明宏税理士事務所です。
相続が発生した際、財産の中に「外貨建て資産」や「外貨建て債務」が含まれていることがあります。たとえば、米ドル建ての預金、海外ETF、外国不動産、さらには外貨建てローンなどです。
これらの財産や債務は、日本円に換算して相続税申告を行う必要があります。この換算手続きは「邦貨換算(ほうかかんさん)」と呼ばれ、適切に処理しなければ申告漏れや過大納税の原因となりかねません。
本記事では、「邦貨換算」の基本と実務上の注意点を、専門家の視点からわかりやすく解説します。
1 邦貨換算とは?〜外貨を日本円に直す手続き
邦貨換算とは、外貨建ての資産・債務を日本円に換算することをいいます。
相続税法では、財産の評価は被相続人が亡くなった日(死亡日)時点の価額で行うこととされており、外貨建ての場合も同様に「死亡日の為替相場」を用いて日本円に換算する必要があります。
なお、外貨建て資産には、預金・株式・債券・投資信託・不動産のほか、近年増加している仮想通貨(暗号資産)なども含まれます。また、外貨建ての借入金や未払金などの債務についても同様に邦貨換算が必要となるため、相続財産の調査時には外貨建て取引の有無を十分に確認することが重要です。
2 邦貨換算の基本ルール【一覧表】
種類 | 換算レート | 補足 |
---|---|---|
外貨建て財産 | 死亡日のTTB(買相場) | 銀行が顧客から外貨を買う相場 |
外貨建て債務 | 死亡日のTTS(売相場) | 銀行が顧客に外貨を売る相場 |
相場のない日 | 前営業日の相場 | 土日祝日等 |
為替予約済み | 予約相場 | 契約により確定している場合 |
※TTB(Telegraphic Transfer Buying rate)対顧客直物電信買相場
※TTS(Telegraphic Transfer Selling rate)対顧客直物電信売相場
具体的な計算例で理解する邦貨換算
例:米ドル建て預金の評価
・死亡日:2025年4月15日
・保有外貨:米ドル50,000ドル
・死亡日のTTB:145.50円
・邦貨換算額:50,000ドル × 145.50円 = 7,275,000円
例:ユーロ建て借入金の評価
・死亡日:2025年4月15日
・借入残高:ユーロ30,000ユーロ
・死亡日のTTS:158.20円
・邦貨換算額:30,000ユーロ × 158.20円 = 4,746,000円
このように、財産はTTB(安いレート)、債務はTTS(高いレート)を使用するため、同じ金額でも債務の方が円換算額は大きくなります。
情報元:リンク 国税庁「No.4665 外貨(現金)の邦貨換算」
3 TTBとTTSの違いとは?
項目 | 内容 |
---|---|
TTB(買相場) | 銀行が顧客から外貨を買う際のレート。 日本円換算時に使用(財産)。 |
TTS(売相場) | 銀行が顧客に外貨を売る際のレート。 日本円換算時に使用(債務)。 |
TTM(仲値) | TTBとTTSの中間値。参考値として使われるが、 実際の相続税評価では使用しない。 |
【注意】TTS > TTM > TTB
つまり、債務の評価額は財産よりも高めになりがちです。
4 どの金融機関の為替レートを使うか?
為替レートは金融機関によって異なります。相続税評価額はこの換算レートで決まるため、どの金融機関のレートを用いるかは、納税額に直接影響を与える重要なポイントです。
パターン別選定ルール
ケース①:金融機関が特定されている場合
→ 預金や証券のあるその金融機関のレートを使用
例:
三井住友銀行の外貨預金 → 三井住友銀行のTTB
野村證券に保有する外国株式 → 野村證券のTTB
ケース②:金融機関が特定されていない場合
→ 相続人の取引金融機関等から選択可能
相続人が日常的に使っている銀行
相続人が引き継いだ金融機関
証券会社、信用金庫、農協なども含む
5 死亡日に相場がないときはどうする?
死亡日が土日祝日など為替相場が発表されていない日の場合、原則として、
死亡日「以前」の最も近い日の相場
を使います。
【例】
死亡日:2025年5月4日(日)
使用する相場:2025年5月2日(金)のTTBまたはTTS
これは上場株式評価のように「前後の最も近い日」ではなく、「死亡日前」に限定されるので注意が必要です。
情報元:国税庁「No.4665 外貨(現金)の邦貨換算」