こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、
仕入税額控除の適用には原則「帳簿+適格請求書等」の保存が必要です。
しかし、すべての取引に請求書を求めるのは現実的ではない場合もあります。
そのため、インボイス制度では一部の取引において、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例が設けられています。
本記事では、
■帳簿保存のみで控除可能な取引の一覧
■帳簿に記載すべき内容
■電子請求書を保存する場合のルール
について、実務に役立つよう解説します。
1 インボイスなしでも帳簿保存のみで控除できる取引一覧
次のような特定の取引は、適格請求書等の保存が不要で、帳簿のみで仕入税額控除が可能とされています。
区分 | 内容 |
---|---|
公共交通機関特例 | 船舶・バス・鉄道による1回3万円未満の旅客運送(切符単位で判定) |
卸売市場特例 | 生鮮食料品等の卸売市場での販売(委託販売に限る) |
農協特例 | 農協等が行う農林水産物の販売(共同計算方式) |
古物商等特例 | 古物商・質屋・宅建業者・再資源業者による棚卸資産の取得(非インボイス事業者から) |
自動販売機特例 | 自販機や自動サービス機からの3万円未満の購入 |
郵便ポスト特例 | 郵便ポストに差し出す切手類のみを対価とする郵便サービス |
従業員等の旅費特例 | 出張旅費・通勤手当・宿泊費・日当など通常必要と認められる支給 |
2 帳簿のみで控除を受けるための記載事項とは?
帳簿保存のみで控除を受けるには、次の事項を帳簿に正確に記載する必要があります。
記載すべき帳簿の内容(すべて必須)
■課税仕入れの相手方の氏名または名称
※古物商特例・交通機関特例などは住所不要■課税仕入れを行った年月日
■資産・サービスの内容(軽減税率対象の有無も)
■「帳簿のみで控除対象」の理由明記
(例:「自販機」「従業員旅費」「3万円未満の鉄道」など)■支払対価の額
該当特例の内容を明示しておくことで、税務署からの確認にも対応しやすくなります。
3 少額特例(1万円未満)も帳簿のみでOK【経過措置】
インボイス制度開始後の経過措置として、
1万円未満の課税仕入れについては、一定の事業者に限り帳簿保存のみで仕入税額控除が可能です。
少額特例の対象事業者
■基準期間の課税売上高が1億円以下
■または特定期間の売上が5千万円以下
この場合も、帳簿には「少額特例対象仕入である旨」の記載が必要です。
4 電子データでインボイスを受け取った場合の保存方法は?
紙の請求書だけでなく、PDFやシステム上の画面など電子データで受領したインボイスは、以下の要件を満たして保存する必要があります。
電帳法に準じた保存要件(抜粋)
■タイムスタンプが付された電子データ
■または、訂正削除ができない・履歴が残るシステムでの保存
■電子データ管理の事務処理規程の整備・運用
Webサイト上の「マイページ」にログインしてインボイスを確認できる形も、保存要件を満たすものとして扱われます(一定の条件あり)。