1 電子帳簿保存法とは?その目的と基本構造
こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
電子帳簿保存法は、法人税法や所得税法に基づき保存が義務付けられている帳簿書類を、電子的に保存できるようにすることを認めた法律です。法令に準拠した電子保存を行うことで、税務調査時の確認も電子的に対応でき、業務効率化・ペーパーレス化の推進を目的としています。
なお、「すべての帳簿や書類を電子化しなければならない」という誤解がありますが、電子化が義務化されたのは一部(電子取引データ)に限られます。郵送で受け取った紙の請求書・領収書は、これまで通り紙での保存が可能です。
2 3つの保存形態とその適用範囲
電子帳簿保存法の保存形態は次の3つに分かれます。
1. 電子帳簿等保存(任意)
会計ソフトなどで作成した帳簿や決算関係書類を、データ形式のまま保存する方法。導入は任意で、事前承認は不要です。
2. スキャナ保存(任意)
紙で授受した請求書・領収書などをスキャンし、データで保存する方法です。スキャナ保存を行えば原本の紙は破棄できますが、改ざん防止措置(タイムスタンプや社内規程)などの要件が課されます。
3. 電子取引データ保存(義務)
電子メール、クラウド、Webダウンロード、EDIなどで受け取った請求書・領収書などの電子取引データは、原則として電子のまま保存が義務付けられています(令和6年1月1日より本格適用)。
3 電子取引データ保存の要件とは?
1. 真実性の確保
保存データが改ざん・削除されていないことを担保するため、以下のいずれかを満たす必要があります。
- ■タイムスタンプが付与された状態でデータを受領する。
- ■一定期間内(受領後概ね7営業日以内)に自社でタイムスタンプを付す。
- ■訂正・削除ができない、または履歴が記録されるシステムを使用する。
- ■事務処理規程(国税庁ひな形あり)を作成し、社内で運用する。
2. 可視性の確保
保存されたデータが閲覧・出力でき、検索可能な状態であること。
- ■パソコン・プリンタでの出力体制を整える。
- ■ファイル名に「取引年月日」「金額」「取引先名」などを含め、簡易な検索が可能な状態にする。
- ■原則として検索機能を確保する(範囲検索・項目の組合せ検索)。
4 中小企業向けの緩和措置と猶予措置
緩和措置:検索機能の要件免除
次のいずれかに該当する場合は、検索機能(範囲指定やand検索)の確保が不要になります。
- ■基準期間の売上高が5,000万円以下
- ■税務調査時にデータのダウンロードに応じ、かつプリントアウトの提示・提出ができる
この条件を満たす場合、ファイル名に検索項目を含める要件も免除されます。
猶予措置:「相当の理由」による特例
令和6年1月1日以降に行われた電子取引でも、以下の条件を満たせば保存要件が免除されます。
- ■人員不足、システム導入の遅れ、資金不足など「相当の理由」がある
- ■電子データは保存しつつ、紙に出力して時系列で整理し提示・提出できる
ただし、電子データ自体の保存は必須であり、印刷したからといってデータ削除はできません。
5 今やるべきこと:まずは取引書類の棚卸し
対応の第一歩は、自社にどのような電子取引があるかを把握することです。
- ■電子で受領する書類の種類(請求書、領収書など)
- ■授受の方法(メール、クラウド、EDIなど)
- ■現在の保存方法、保管場所
- ■年間の取引件数と傾向
この棚卸しによって、自社に必要な保存体制やルールの整備方針が明確になります。