事業承継の第一歩|自社を「見える化」する重要性と方法
―ガイドラインに基づく現状把握の実践ポイント―
はじめに|事業承継は「見える化」から始まる
事業承継を成功させるためには、まず何よりも自社の現状を正確に把握すること=見える化が不可欠です。
これは「ガイドラインにおけるステップ2」にあたり、承継の基礎となる重要なプロセスです。
自社を見える化する目的は、経営者自身が現状を理解するだけでなく、後継者や関係者に情報を開示し、共通認識を形成することにもあります。情報の開示は正直かつ標準化されている必要があり、信頼のもとで承継が進む土壌を作ります。
第1章|なぜ「見える化」が事業承継に必要なのか?
事業承継は、多くの「見えにくい問題」を含んでいます。
財務や資産の全体像が不明確
経営資源の強み・弱みが曖昧
後継者候補や関係者との認識のずれ
こうした曖昧さを解消し、“共通の土台”の上で承継プロセスを進めることが「見える化」の狙いです。
第2章|見える化①:会社の経営状況を可視化する
まず取り組むべきは、経営状況の見える化です。ここでは財務、事業、経営資源の3つの視点から整理していきます。
2-1. 財務状況の把握
経営者個人と会社の関係(不動産の名義・借入・連帯保証など)
決算の適正性
株式数の確認と株価評価
これらを明確にしておくことで、相続税や贈与税の試算、株式の移転手続きにも備えることができます。
2-2. 事業状況の分析
部門別の損益構造
製造・販売プロセスの工程分析
在庫の評価と棚卸精度の見直し
こうした分析により、自社の「稼ぎ頭」と課題を明確にし、今後の経営改善=磨き上げの方向性が見えてきます。
2-3. 経営資源の棚卸し(知的資産を含む)
財務諸表に表れない資産(ブランド力、社員のスキル、顧客ネットワークなど)
ツール活用例:
「事業価値を高める経営レポート」
「知的資産経営報告書」
「経営デザインシート」
特に、なぜ自社が選ばれているのか?という視点から、自社の「価値の源泉」を明確にすることが重要です。
第3章|見える化②:事業承継固有の課題を明らかにする
事業承継には、経営そのものとは別に独自の課題が存在します。
3-1. 後継者の検討
候補者の有無・意思・能力・適性・年齢
意欲やリーダーシップの有無
候補がいない場合には、社内外の人材探索やM&Aの検討が必要です。
3-2. 関係者の理解・合意の可能性
親族内の株主、従業員、取引先などからの異論可能性
トラブル回避のためのコミュニケーションと合意形成
3-3. 相続課題の整理(親族内承継の場合)
相続財産の棚卸し
相続税額の試算
納税資金の準備や納税方法の検討
これらの課題を初期段階で見える化しておくことで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。
まとめ|見える化は事業承継の土台
事業承継を“単なる社長交代”で終わらせないためには、企業の価値を可視化し、関係者と共有することが何より重要です。
経営状況・資産状況を客観的に把握する
後継者や関係者に対して誠実に情報を開示する
課題やリスクを明確にして、対策に着手する
この「見える化」こそが、次のステップである「磨き上げ」や「事業承継計画の策定」の実効性を高める起点となります。