相続税対策としての養子縁組 効果と注意点

2025年5月8日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

相続税の申告と聞くと、多くの方が「複雑で大変そう」と感じるのではないでしょうか。実際、遺産が一定の基準を超えると課税されるため、効率的な相続税対策は多くの方の関心事となっています。

その中でも「養子縁組」は、相続税を軽減する有効な手段として注目されています。しかし、安易に行うとトラブルの原因にもなりかねません。今回は、養子縁組が相続税に与える影響と、その効果・注意点について解説します。

1 養子縁組の基本:2つの種類を知ろう

相続税対策として養子縁組を検討する前に、まず養子縁組には「普通養子」と「特別養子」の2種類があることを理解しましょう。

普通養子縁組

実親との法的関係を保ちながら、養親との間に親子関係が成立する養子縁組です。一般的に行われる養子縁組で、当事者同士の同意があれば市区町村への届出だけで成立します。

特徴:実親と養親の両方から相続を受けることが可能

特別養子縁組

実親との法的関係が完全に切れる形で、養親との親子関係が成立する養子縁組です。子どもの福祉を目的としており、原則として15歳未満の養子縁組に限られ、家庭裁判所の審判が必要です。

特徴:養親からのみ相続を受ける(実親からの相続権は喪失)

どちらの養子縁組も法定相続人として認められ、相続分・遺留分は実子と同じ扱いになります。

2 養子縁組による相続税軽減の仕組み

では、なぜ養子縁組が相続税対策に有効なのでしょうか。主な理由を見ていきましょう。

1. 基礎控除額の増加効果

相続税の基礎控除額は以下の計算式で算出されます:

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数

養子縁組によって法定相続人の数が増えることで、控除額が拡大し、課税対象となる遺産額を減らすことができます。

具体例で見てみましょう

相続財産が4,500万円の場合:

  • 養子縁組前:法定相続人が配偶者と子1人の計2名
    • 基礎控除額:4,200万円(3,000万円+600万円×2)
    • 課税対象:300万円
  • 養子縁組後:普通養子を1人迎えて法定相続人が3名
    • 基礎控除額:4,800万円(3,000万円+600万円×3)
    • 課税対象:0円(相続税負担なし)

このように、法定相続人が1人増えるだけで600万円の控除額増加となり、大きな節税効果が期待できます。

2. 累進課税による税率の低減

相続税は累進課税方式を採用しており、相続額が増えるほど税率が高くなります。養子縁組によって相続人が増え、一人当たりの相続額が減少することで、より低い税率が適用され、全体の相続税負担が軽減される傾向にあります。

3. 生命保険金・死亡退職金の非課税限度額拡大

生命保険金や死亡退職金にも非課税枠があり、「500万円 × 法定相続人の数」で計算されます。養子縁組で法定相続人が増えると、これらの非課税限度額も増加し、相続税負担をさらに軽減できます。

4. 世代スキップによる節税効果

孫を養子にすることで、本来二世代で2回発生する相続税を、一世代スキップして1回の納付で済ませられる可能性があります。ただし、これには後述する注意点があります。

3 養子縁組を行う上での重要な注意点

養子縁組は有効な相続税対策となり得ますが、安易な養子縁組はトラブルの元となります。以下の注意点を必ず理解しておきましょう。

1. 養子の数に制限がある

相続税の基礎控除額の計算において、法定相続人としてカウントできる養子の数には制限があります:

  • 被相続人に実子がいる場合:養子は1人まで
  • 被相続人に実子がいない場合:養子は2人まで

ただし、特別養子縁組の場合、配偶者の実子を養子にした場合(連れ子養子)、代襲相続人である孫等を養子縁組した場合は、この制限に含まれません。

2. 過剰な養子縁組による税務リスク

節税目的で過剰な養子縁組を行うと、税務調査で否認される可能性が高まります。税務署に不自然と判断された場合、ペナルティ課税や調査が行われるリスクがあるため、法の範囲内での節税が求められます。

養親と養子との関係が実質的であること(例:生活を共にしている、定期的に関わりがあるなど)が重要視されます。

3. 孫を養子にした場合の2割加算

被相続人の孫を養子にした場合、その養子(代襲相続人を除く)が相続する財産には、相続税が2割加算される制度があります。これにより、必ずしも節税につながるとは限りません。

4. 家族関係への影響とトラブルリスク

養子縁組は、既存の家族関係に大きな影響を与え、相続人が増えることで遺産分割の際に争いの原因となることがあります。特に、本来の相続人の法定相続分が減ることや、特定の子の配偶者や子を養子にすることによる不公平感がトラブルを招くことがあります。

養子縁組は一度すると解消が容易ではないため、将来的な家族関係の変化も考慮し、慎重な判断が必要です。

5. その他の注意点

  • 養子の氏の変更:養子縁組により、養子の氏(名字)が養親の氏に変更されることがあります
  • マイナスの財産も相続対象:借金などのマイナスの財産も相続の対象となります
  • 相続人が減るケース:特殊なケースとして、養子縁組によってかえって相続人の数が減り、相続税が増える可能性もあります

4 他の相続税対策との効果的な組み合わせ

養子縁組は、他の相続税対策と組み合わせることで、さらに効果を高めることができます。

遺言との組み合わせ

遺言を活用することで、財産の分割方法や養子への承継に関する明確な意思を示すことができ、相続トラブルを未然に防ぐことが可能です。養子縁組による基礎控除のメリットを享受しつつ、計画的な承継を進めるためにも、遺言書の作成が推奨されます。

民事信託(家族信託)との組み合わせ

民事信託は、相続財産の管理や承継をより柔軟に行うための手段です。養子縁組と民事信託を組み合わせることで、節税だけでなく、財産の承継と管理の一貫性を保ちながら、より効果的に相続税対策を行うことが可能です。

5 まとめ:専門家への相談が成功の鍵

養子縁組を用いた相続税対策は、法定相続人の数を増やし、基礎控除を拡大することで、相続税の負担を軽減する有効な手段です。特に、多額の財産を有する場合や相続人が少ない場合において、その効果が顕著に現れます。

しかし、過剰な養子縁組による税務リスクや、家族関係への影響など、法的な制約やリスクが伴う点には十分に注意が必要です。養子縁組を検討する際は、節税目的だけでなく、家族の承継計画の一環としてその意義を深く理解し、無理のない計画を立てることが大切です。

最適な相続対策は、ご家庭の状況や財産の内容によって異なります。相続税対策として養子縁組を検討する場合は、税制や家庭の状況に応じた最適な方法を選択するため、税理士、司法書士、弁護士などの専門家へ相談することをお勧めします

, , , , ,