こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
相続の際に「証券口座の相続手続き」が発生するケースも多く見られます。
しかし、証券口座の相続は不動産や預金とは異なる独自のルールが多く、注意を怠ると余計な手間や税負担が生じることもあります。
今回は、証券口座の相続手続きに関する注意点を、証券会社の実務や税務、法的観点から解説します。
1 まず確認したい:証券会社がわからない場合の対応
被相続人がどの証券会社で口座を保有していたかわからない場合、以下の方法で調査できます。
- ■郵送物の確認:取引報告書や配当通知など
- ■証券会社への照会:心当たりのある証券会社に直接連絡
- ■証券保管振替機構(ほふり)への照会:上場株式は「ほふり」に登録された情報から確認可能
■開示請求の費用
証券保管振替機構への開示請求には費用がかかります。
リンク 証券保管振替機構 開示請求の料金
2 相続人が新たに証券口座を開設する必要がある?
はい、原則として被相続人と同じ証券会社に新規口座を開設する必要があります。
たとえば、被相続人が大和証券に口座を持っていた場合、相続人が野村證券のみの利用者であっても、まず大和証券に新規口座を開設し、そこに資産を移管する必要があります。
その後、必要に応じて他証券会社への移管も可能です。
3 口座の種類別:移管のルールに要注意
特定口座・一般口座
- ■被相続人の特定口座・一般口座の銘柄は、相続人の特定または一般口座に移管可能
- ■ただし、特定口座に移管するには取得費情報の引継ぎができることが条件
NISA口座
- ■ 相続人のNISA口座に直接移管することはできません
- ■移管先は特定口座または一般口座となります
- ■ 売却時は「相続発生日時価」が取得費となり、被相続人のNISA口座での含み益は非課税
- ■ただし、死亡日以降の配当金や分配金は課税対象となります
- ■相続人は死亡を知った日以後遅滞なく「非課税口座開設者死亡届出書」を金融機関に提出する必要があります
4 残高証明書の取得は必須
証券口座の相続には、残高証明書の取得が必要です。これは:
■相続税申告における評価額の基礎
■遺産分割協議での証明資料
になります。証券会社へ依頼する際には、以下の書類が必要です:
■死亡診断書
■戸籍謄本
■印鑑証明書
■遺産分割協議書 など
■相続手続きの所要期間
証券口座の相続手続きは、必要書類に不備がなければ約3週間程度で完了します。ただし、以下の要因により期間が延びることがあります:
□必要書類の準備期間
□相続人が複数いる場合の調整期間
□ 証券会社による審査期間
5 非上場株式の相続は要注意
非上場株式
■証券会社では扱われず、発行会社との直接手続き
■株主名簿への変更登録が必要
■株式譲渡に制限があるケースも多い
6 配当金の取り扱いと注意点
被相続人が亡くなった後でも、株式の配当金は支払われ続けます。
■多くの場合、故人宛てに通知書が届き、郵便局等で現金受取が可能
■ただし、相続人が正式に手続きしないと、トラブルになる恐れも
信託銀行等への配当金の相続手続きを別途行うことが推奨されます。
7 まとめ 証券口座の相続は“複雑”。専門家への相談を
証券口座の相続には、以下のような注意点が伴います:
■証券会社ごとの対応ルール
■口座開設や移管手続きの煩雑さ
■非上場株・NISAなど特殊な状況