親族?従業員?M&A?事業承継の3つの類型とそれぞれの特徴

2025年5月14日 管理人

はじめに|事業承継の選択肢は一つではない

事業承継というと、かつては「息子に継がせる」という親族内承継が主流でしたが、近年では従業員承継第三者承継(M&A)といった選択肢も一般化しています。

それぞれにメリット・デメリットがあり、経営者の意向会社の状況後継者の有無などにより、最適な類型は異なります。

本記事では、事業承継の3類型の特徴と注意点をわかりやすく解説します。


1 親族内承継:家族に引き継ぐ伝統的な形

特徴

  • 現経営者の子・兄弟姉妹・孫などに承継

  • ■所有と経営の一体化がしやすく、経営理念や価値観の継承にも適している

最近の傾向

  • 若年層の多様な価値観、業種への不安などから親族内承継は減少傾向

  • それでも地域密着型企業では今も有力な選択肢

主な課題と対策

課題対策
税負担(贈与税・相続税)事業承継税制の活用(納税猶予・免除制度)
株式の分散遺言・種類株式・信託の活用、民法特例による調整
後継者の同意・育成家族会議、計画的な育成プランの設計
親族間の調整早期に意向を共有し、協力体制を築く
債務・保証の問題債務整理、経営改善、保証解除交渉

事業承継 (5)


2 従業員承継:社内の人材に託す

特徴

  • 役員や従業員など、社内の信頼できる人材に承継

  • 経営方針の継続が可能で、現場をよく知る後継者によるスムーズな移行が期待される

最近の傾向

  • 親族内承継の減少を受けて増加傾向

  • 種類株式や持株会社の活用により、資金的ハードルも下がってきている

主な課題と対策

課題対策
他の従業員・役員の理解社内説明会、段階的なリーダーシップ移譲
親族株主の承認株主構成の調整、合意形成の支援
経営知識の不足外部研修、OJT、専門家との連携
個人保証の承継債務圧縮、金融機関との保証解除交渉
所有と経営の分離株式移転も含めた中長期の承継設計が必要

3 社外承継(M&A):第三者に売却・引継ぎ

特徴

  • 親族・従業員に後継者がいない場合の選択肢

  • ■会社の存続と従業員の雇用維持が可能で、引退後の資金確保にもつながる

最近の傾向

  • M&A市場が活性化。中小企業の「スモールM&A」も増加

  • 事業承継としてのM&Aは社会的にも注目されている

主な課題と対策

課題対策
手続きの煩雑さM&A仲介業者・FAの活用で効率的に進行
許認可の承継事業譲渡・合併のスキーム選択に注意
関係者への説明金融機関・取引先・従業員への丁寧なコミュニケーション
企業価値の適正把握バリュエーション・デューデリジェンスの実施
社風・文化の違い引継ぎ期間の確保、事前のマッチング精度向上

M&A


4 どの承継方法を選ぶか?判断のポイント

どの類型を選ぶかは、以下の要素をバランスよく判断することが大切です。

判断基準チェックポイント
後継者の有無家族に承継意思があるか?社内に適任者がいるか?
経営者の希望株を残したいか?引退後の資金を重視するか?
社員・取引先との関係承継方法によって信頼関係に影響が出ないか?
時間的余裕準備期間が十分にあるか?

まとめ 自社に合った承継形態を見極め、早めの準備を

事業承継は、企業の未来を左右する重大な経営課題です。以下の3つの類型にはそれぞれ異なる特徴とハードルがあり、最適解は企業ごとに異なります。

  • ■親族内承継:理念や文化の継承に強み。家族調整・税務対策がカギ

  • ■従業員承継:社内理解が得られればスムーズ。株式・保証の整理を要検討

  • ■M&A(第三者承継):後継者不在でも事業存続が可能。交渉力と専門支援が成功の鍵

事業承継は「ある日突然」できるものではありません。 健康なうちに、関係者と十分な話し合いを重ね、数年単位で計画的に準備を進めていくことが成功の秘訣です。

相続税の専門院

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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