【相続税】配偶者控除のメリット・デメリット 二次相続に注意

2025年6月3日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

「配偶者には相続税がかからないって本当?」「1億6千万円までは非課税って聞いたけど、うちは大丈夫?」このような疑問があるかと思います。

一定の条件を満たすと、配偶者は相続税を最大1億6,000万円まで、または法定相続分まで非課税にできる制度があります。「配偶者控除」と呼ばれる制度です。

この制度をうまく活用すれば相続税の負担を大幅に軽減できる一方で、使い方を間違えると、かえって家族全体の税負担が重くなってしまうこともあります。今回は、この配偶者控除について、基本的な仕組みから注意点までを解説します。


情報元:国税庁 配偶者の税額の軽減

1. 配偶者の相続税は最大1億6,000万円まで非課税

相続税の配偶者控除は、配偶者が相続した財産に対する相続税を大幅に軽減してくれる制度です。これは、残された配偶者の生活を守るために設けられている優遇制度です。

よく混同されがちですが、これは所得税の配偶者控除とは全く別の制度です。所得税の配偶者控除は毎年の所得に関するものですが、相続税の配偶者控除は相続時の一回限りの制度となります。

配偶者が受け取る財産のうち、次のいずれか多い金額までは相続税がかかりません

  • ■1億6,000万円
  • ■配偶者の法定相続分

つまり、配偶者は「最低でも1億6,000万円まで」は相続税がかからないということです。

法定相続分について >

具体例で見てみましょう

例1:夫の財産3億円、妻と子供2人の場合

  • ■妻の法定相続分:1億5,000万円(3億円の2分の1)
  • ■1億6,000万円 > 1億5,000万円なので、妻の相続分1億5,000万円は全額非課税

例2:夫の財産5億円、妻と子供1人の場合

  • ■妻の法定相続分:2億5,000万円(5億円の2分の1)
  • ■法定相続分の方が大きいので、2億5,000万円まで非課税

例3:遺産が6億円あって相続人が配偶者1人だけの場合

  • ■法定相続分は100%ですので、6億円すべてに相続税がかかりません

例4:夫の財産3億円で、妻が2億円を相続する場合

  • ■妻の法定相続分:1億5,000万円
  • ■実際の相続分:2億円
  • ■1億6,000万円まで非課税、残り4,000万円が課税対象

2. 配偶者控除を受けるための3つの条件

配偶者控除を適用するには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

2-1. 法律上の配偶者であること

対象となるのは法律上の婚姻関係にある配偶者のみです。いわゆる「内縁の妻(夫)」や、事実婚の相手は対象になりません。

逆に、婚姻届を出してから日が浅くても、法律上の配偶者であれば対象になります。婚姻期間の長さは問われません。

2-2. 遺産分割が完了していること

税額軽減を適用するには、相続税申告の時点で遺産分割が完了していることが求められます。原則として、相続税の申告期限(相続開始を知った日から10か月以内)までに、遺産分割が確定している必要があります。

万が一間に合わない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、一時的に申告期限の延長が認められますが、配偶者控除は当初申告では適用せずに、いったん税金は納付しなければなりません。後から遺産分割が完了した際に更正の請求を行うことで、配偶者控除を適用して納めすぎた相続税の還付を受けることができます。

2-3. 相続税申告書の提出が必要

これが最も重要なポイントです相続税の申告自体は必要です申告書を提出しないと、この制度は適用できません

配偶者控除は自動的に適用されるものではありません。たとえ相続税額が0円になる場合でも、必ず申告書を提出する必要があります。期限を過ぎると原則として配偶者控除が使えなくなり、延滞税などのペナルティも発生する可能性があります。

申告書には、戸籍謄本や遺産分割協議書、遺言書のコピーなどの必要書類を添付する必要があります。また、税務調査で意図的に隠されていた財産については、配偶者控除の対象外となります。

3. 二次相続を見据えた相続税対策が重要

配偶者控除制度を活用すれば、一次相続(最初の相続)において配偶者が財産を多く相続しても、相続税がほぼかからないことがあります。

しかし、ここで注意すべきなのが、二次相続の発生です。

二次相続とは?

  • ■一次相続:夫婦の一方が亡くなったときの相続
  • ■二次相続:残された配偶者が亡くなったときの相続

一次相続で配偶者が財産をすべて引き継いだ場合、その配偶者が亡くなったとき、今度は子どもたちがすべての財産を相続することになります

このとき、一次相続時には適用できた配偶者の控除がもう使えないため、結果的に高額な相続税を支払うことになるケースもあるのです。

つまり、「配偶者が全部もらえば安心」と思っても、長期的に見れば損をすることもあるということです。

配偶者控除

4. まとめ:配偶者控除は”バランス”がカギ

このように、配偶者控除制度は、相続税対策として強力ですが、諸刃の剣でもあります。配偶者の生活保障と、将来の相続(いわゆる二次相続)まで見越したバランスが重要です。

特に、富士市や富士宮市のように不動産資産を多く持つご家庭では、資産の分け方次第で大きく税額が変わることがあります。

大切なのは以下の3点です:

  • ■配偶者の生活に必要な金額を確保する
  • ■一次相続と二次相続を合わせた家族全体の税負担を考える
  • ■専門家のアドバイスを受けながら最適な遺産分割を検討する

一次相続と二次相続の相続税の合計額が最小になるようにシミュレーションをしましょう。ふたつの相続間に相当の時間の経過がある場合がありますが、その場合は、別に相続対策ができますので、まずは、今二次相続が生じたと仮定して相続税を最小化するように考えてみましょう。

相続の状況は家庭によって様々で、最適な判断には専門的な知識が必要です。相続が発生した際や生前対策を検討される場合は、相続税に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

配偶者控除を上手に活用して、家族全体にとって最良の相続対策を立てていきましょう。

コラム最下署名

相続税の専門院

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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