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もしも相続人がいなかったら?遺産の行方と相続手続き

こんにちは。富士市・富士宮市の相続・税務専門、飯野明宏税理士事務所です。

近年、少子高齢化や未婚化の進行により、「相続人がいない」というケースが少しずつ増えています。いわゆる「おひとりさま」の増加により、亡くなられた方に法定相続人が存在しない、または全員が相続を放棄してしまうといった事例が現実に起こっています。

今回は「相続人がいない場合の遺産の行方」や「必要な手続き」、さらには「特別縁故者」「国庫帰属」「相続税の課税」など、知っておきたい重要なポイントを富士市・富士宮市の税理士がわかりやすく解説します。


1 相続人不存在とは?

相続人がいない状態を、法律上「相続人不存在」といいます。以下のような場合に該当します。

ケース①:法定相続人が誰もいない場合

法定相続人とは、配偶者・子・直系尊属(父母など)・兄弟姉妹です。これらすべてがいない、またはすでに亡くなっている場合、相続人不存在となります。

ケース②:全員が相続権を失っている場合

法定相続人がいても、「相続欠格」「相続廃除」「相続放棄」などで、全員が相続権を失っている場合も同様です。

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2 相続人がいない場合の手続きと流れ

相続人がいないからといって、財産が自動的に国のものになるわけではありません。まずは「相続財産法人」として法的な処理が行われます。

相続財産法人の成立

民法第951条により、被相続人の財産は一時的に「法人」として扱われ、「相続財産清算人」が管理を行います(※2023年改正により「相続財産管理人」から名称変更)。

相続財産清算人の選任

家庭裁判所が清算人を選任します。利害関係者や検察官の申立てにより、通常は弁護士・司法書士などの専門職が選ばれます。

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3 相続手続きの流れ(タイムライン)

特別縁故者に関する手続きの流れと期間の目安
手続き段階内容期間の目安
① 清算人の申立て家庭裁判所へ申立て約1ヶ月
② 相続人公告相続人を探すための公告6ヶ月以上
③ 債権者公告債権者・受遺者への請求呼びかけ2ヶ月以上
④ 相続人不存在確定相続人が名乗り出なければ確定公告後
⑤ 特別縁故者への分与申立て財産を分けてほしい人が申請確定後3ヶ月以内
⑥ 国庫帰属縁故者に分与されなければ最終的に国へ

4 特別縁故者とは?誰がなれる?

特別縁故者とは、以下のような被相続人と「特別な関係」があった人です。

  • ■内縁の配偶者

  • ■同居していた親族

  • ■療養看護に努めた人

  • ■事実上の養子

※単なる知人・友人は対象外になることが多いです。

家庭裁判所が個別に判断し、財産の全部または一部の分与が認められる場合があります。

特別縁故者について >


5 遺産の行方:国庫帰属とは?

特別縁故者への分与が認められなかった場合や、分与後に残った財産は、最終的に国庫へ帰属します(民法第959条)。

実際に国庫に引き継がれた金額は年々増加傾向にあります。


6 生前の備えが大切です

相続人がいないと、遺産は最終的に国に渡ってしまうことがあります。そうならないためにも、遺言書の作成が有効です。

有効な生前対策

被相続人の想いを託せる方法として、遺言や委任契約は非常に強力な手段です。


まとめ|「相続人がいない」は他人事ではない

遺産は国庫に帰属する前に、相続財産法人→特別縁故者への分与→国庫帰属という長いプロセスをたどります。

相続手続きや税務上の対応には専門的な知識が不可欠です。富士市・富士宮市で相続についてお悩みの方は、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。

 

相続税の専門院

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

【特別縁故者】相続人がいない場合の遺産は誰のもの?

こんにちは。富士市・富士宮市の相続・税務専門、飯野明宏税理士事務所です。

相続人がいない場合でも、故人と特別な関係があった方が遺産を受け取れる可能性がある「特別縁故者制度」。しかし、その制度には通常の相続とは異なる数多くの手続きや税務上の注意点があります。

今回は、特別縁故者として遺産を受け取るための条件や手続き、相続税の計算方法や注意点まで、専門家の視点で分かりやすくご紹介します。


1 特別縁故者とは?~相続人がいない場合の救済制度~

特別縁故者とは、法定相続人がいない場合に、家庭裁判所の審判を経て遺産を受け取る可能性がある人物のことです。

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特別縁故者とは、故人と特別な関係性がある個人または法人を指します。具体的には:

  • 被相続人と生計を同じくしていた者

  • 療養看護に努めた者

  • その他特別の縁故があった者


リンク 家庭裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与」

1-2. 法人が認められるケース

公益法人や介護施設などが、被相続人と深い関係を持っていた場合にも認定されることがあります。

認定の判断基準について
特別縁故者として認められるかどうかは、故人との関係の密接性や継続性、献身性などが総合的に判断されます。単に同居していただけでは不十分で、実質的な家族同様の関係性や、長期間にわたる介護・看護の実績などが重要な要素となります。

1-3. 特別寄与者との違い

「特別寄与者」は相続人がいる場合の制度であり、特別縁故者とは異なります。


リンク 家庭裁判所「特別の寄与に関する処分調停」

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2 特別縁故者が遺産を受け取るまでの5ステップ

特別縁故者として認められ、実際に財産を取得するまでには、家庭裁判所での複雑な手続きが必要です。


リンク 家庭裁判所「「相続財産管理人選任」の手続とは・・・ 」

2-1. 相続財産管理人選任の申立

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。

2-2. 相続財産管理人の選任と公告(2ヶ月)

家庭裁判所が管理人を選任し、官報で公告を行います。

2-3. 債権者・受遺者への公告(2ヶ月以上)

債権者や受遺者がいれば、管理人が清算を行います。

2-4. 相続人捜索の公告(6ヶ月以上)

法定相続人がいないことが確定するまで、追加の公告が実施されます。

2-5. 特別縁故者への財産分与の申立(3ヶ月以内)

相続人不存在確定後、家庭裁判所に申立てを行い、認められれば財産の分与が決定されます。


3 特別縁故者が負担する相続税とは?

特別縁故者も財産を取得した場合は「相続税」がかかりますが、通常の相続とは異なるポイントが多数あります。

3-1. 基礎控除額は3,000万円のみ

法定相続人がいないため、人数に応じた加算はありません。

3-2. 2割加算の適用

配偶者や直系血族でないため、税額が1.2倍になります。

3-3. 申告期限と評価基準日の違い

  • 申告期限:分与を知った日から10ヶ月以内

  • 評価基準日:審判確定日(通常、相続税の評価基準日は被相続人の死亡を知った日ですが、特別縁故者は被相続人の死亡直後に法定相続人として認められているわけではなく、家庭裁判所の審判で初めて分与が確定するため、評価基準日は審判確定日となっています。)

  • 適用法令:被相続人の死亡日時点のもの

3-4. 適用できない控除・特例

小規模宅地、配偶者の税額軽減、相次相続控除などは一切使えません。

3-5. 不動産取得税・登録免許税も課税

不動産を取得した場合、法定相続人でないため税負担が増加します。


4 相続税の計算方法と具体例

4-1. 計算式の基本

{(取得財産 − 基礎控除3,000万円)×税率 − 控除額 }× 1.2(2割加算)

4-2. 税率と速算表

課税遺産総額税率控除額
1,000万円以下10%0円
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

4-3. 計算例:5,000万円の財産を取得した場合

  • 課税遺産:5,000万円 − 3,000万円 = 2,000万円

  • 税額(2割加算前):2,000万円×15% − 50万円 = 250万円

  • 最終税額:250万円×1.2=300万円


5 まとめ:特別縁故者制度は“特別”だからこそ要注意!

  • 法定相続人がいないとき、特別縁故者として遺産を受け取れる可能性あり

  • 財産を取得するには家庭裁判所での厳格な手続きが必要

  • 相続税は2割加算、特例・控除の多くは適用不可

  • 財産評価や申告期限の扱いも通常相続と異なる

  • 少しでも不安があれば専門家への相談を検討しましょう

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飯野明宏税理士
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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

 

中小会計要領のポイント解説:具体的な会計処理の特徴

はじめに|中小企業向けの「各論」とは?

中小企業の会計に関する基本要領」(本要領)は、中小企業の実態に配慮した簡便な会計処理方法を「各論」として具体的に示しています。

今回は、その中でも中小企業にとって特に知っておくと役立つ会計処理のポイントをいくつかご紹介します。


1 収益と費用の基本的な処理

まず、収益の計上については、原則として製品・商品の販売やサービスの提供を行い、現金等を取得した時(または売掛金の発生時)に計上します。これは一般に「実現主義」と呼ばれます。実務上は、出荷時点で収益を計上する方法が多く見られますが、取引の実態に応じて決定することになります。

次に、費用の計上は、原則として費用の原因となる取引が発生した時点やサービスの提供を受けた時点で計上するというもので、これは「発生主義」といいます。

また、収益と関連費用を対応させて計上する「期間損益計算」の考え方も重要です。たとえば、販売した製品の売上原価を売上高に対応させて費用計上するような形がこれにあたります。

さらに、損益計算書では収益と費用は総額で表示する「総額表示」が原則です。たとえば、賃借した建物を転貸している場合には、受取家賃と支払家賃の両方を計上する必要があります。


2 資産と負債の基本的な処理

資産の計上については、原則として取得価額で計上する(取得原価主義)とされています。取得価額とは、資産の取得または製造に要した費用の合計であり、購入金額に付随費用を加えた金額です。

一方、負債の計上は、債務額で行うのが原則です。これは、将来支払うべき金額として認識する必要があります。


3 具体的な処理例とそのポイント

貸倒引当金

回収不能の見込みがある債権については、貸倒引当金を計上します。特に、法人税法上の中小法人に認められた法定繰入率による算定方法が例示されており、中小企業の実務に即した配慮がなされています。

有価証券

有価証券は原則として取得原価で計上しますが、売買目的のものは時価で評価されます。また、取得原価で評価しているものが時価より著しく下落し、回復が見込めない場合は評価損を計上します。なお、売買目的以外の有価証券は取得原価での計上を原則とし、これは法人税法と一致する考え方です。

棚卸資産

棚卸資産も原則として取得原価で計上します。評価方法としては、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法などがあり、最終仕入原価法も利用可能です。この点は、法人税法でこの方法を採用する企業が多いという実態を踏まえた配慮です。また、時価が著しく下落し回復が見込めない場合は、評価損の計上が必要です。

引当金

将来発生が見込まれる特定の費用や損失について、発生の可能性が高く、合理的な見積りが可能なものは、引当金として計上します。特に退職給付引当金については、退職金規程等が整備されていれば、自己都合要支給額を基に計上することが明記されています。一方で、中小企業退職金共済など外部制度を利用している場合は、掛金を費用処理し、引当金を計上しないとされています。

リース取引

リース取引は、賃貸借取引または売買取引に準じた方法で処理されます。賃貸借方式では支払リース料を費用処理し、売買取引に準じる場合にはリース資産およびリース債務を計上し、リース資産は減価償却します。また、簡便な処理方法(賃貸借方式)を選択可能とする点も中小企業に配慮した特徴です。重要なリース取引では、未経過リース料を注記することが望ましいとされています。


まとめ|会計処理における中小企業への実務的配慮

中小会計要領は、収益・費用に関する「発生主義」や「実現主義」、資産に関する「取得原価主義」といった基本原則をベースとしつつ、中小企業の実務や税制との調和に配慮した会計処理を示しています。

具体的には、貸倒引当金の計算方法、有価証券や棚卸資産の評価、退職給付引当金の計上方法、リース取引の処理方法など、中小企業が現実に直面する場面で活用しやすい内容が多数盛り込まれています。

これらの特徴を理解することで、中小企業はより的確で負担の少ない会計処理を行うことが可能になります。

コラム最下署名

飯野明宏税理士
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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

中小企業のための会計ルール:中小会計要領の基本的な考え方

はじめに|本要領の目的と学び方

中小企業の会計に関する基本要領」(本要領)は、中小企業が計算書類等を作成する際に参照するための会計処理や注記等を示すものです。本要領を利用するにあたっては、単に個別の処理方法を知るだけでなく、その根底にある基本的な考え方を理解することが重要です。

今回は、本要領の「総論」で示されている、会計の基本的な考え方や利用上の留意事項をご紹介します。

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1 適切な記帳の重要性

本要領を利用するにあたっては、適切な記帳が前提とされています。経営者が自社の経営状況を適切に把握するためにも、記帳は非常に重要です。

記帳はすべての取引について、次の原則に従って行う必要があります。

  • 正規の簿記の原則に則ること。

  • 適時に、整然かつ明瞭に、正確かつ網羅的に会計帳簿を作成すること。


2 企業会計原則との関係と留意点

本要領は、企業会計原則で示されている一般的な会計の考え方にも留意する必要があるとして、次の6つの原則を挙げています。

  • 真実性の原則:企業会計は、企業の財政状態および経営成績について真実な報告を提供するものでなければなりません。

  • 資本取引と損益取引の区分の原則:両者を明瞭に区別しなければなりません。

  • 明瞭性の原則財務諸表を通じて必要な会計事実を明確に示し、利害関係者に誤解を与えないようにする必要があります。

  • 保守主義の原則財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合は、健全な会計処理で備えることが求められます。

  • 単一性の原則:たとえ異なる目的で複数の財務諸表を作成する場合でも、信頼できる会計記録に基づいて一貫性を保つことが必要です。

  • 重要性の原則重要性が乏しいものについては、簡便な方法で処理することも許容されます。

これらの原則は、会計情報の信頼性と有用性を支える基本的な考え方であり、すべての処理の根底にあるべきものです。

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3 継続性の原則:処理方法は一貫して

本要領では、複数の会計処理方法が認められている場合、企業の実態に応じて適切な方法を選択して適用することが求められています。

選択した会計処理方法は、毎期継続して同じ方法を適用する必要があり、これを変更する際には合理的な理由が必要です。さらに、変更した旨とその理由、影響内容を注記する義務があります。

この一連の対応は、「継続性の原則」として特に重視されています。


4 本要領で扱われていない処理への対応

本要領で明示されていない会計処理が必要となる場合は、次のような基準から適切な処理方法を選択して適用します。

  • 企業会計基準

  • 中小指針

  • 法人税法で定める処理のうち会計上適当と認められる処理

  • その他一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行

企業の実態を踏まえたうえで、最も信頼性が高く、妥当性のある会計処理方法を選択することが求められます。


まとめ|本要領を活用するための基本姿勢

中小会計要領は、簡便な会計処理を提供するガイドラインですが、その利用にあたっては、適切な記帳が前提であり、また真実性の原則をはじめとする基本的な会計原則を遵守する姿勢が求められます。

さらに、選択した会計処理方法を継続して適用することも重要です。

これらの基本的な考え方を理解することで、本要領に基づいた会計処理をより正確かつ適切に実施することができるでしょう。

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飯野明宏税理士
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中小企業の会計、もっとシンプルに!中小会計要領とは?

はじめに|中小企業のための会計ルール

中小企業経営者の皆さん、日々の業務で会計処理に難しさを感じていませんか?日本の会計基準は国際的な流れを受けて複雑化する傾向がありますが、中小企業にはその実態に即した会計ルールとして「中小企業の会計に関する基本要領」(以下「本要領」)があります。今回は、この本要領がなぜ作られ、どのような会社を対象としているのか、その概要をご紹介します。

1 本要領が作られた背景と目的

本要領が策定された背景には、主に中小企業の次のような実態への配慮があります。

まず、資金調達の方法についてです。中小企業は新株発行や社債発行といった資本市場からの調達はほとんど行っておらず地域金融機関やメガバンクからの借入れが中心となっています。

また、利害関係者が限定されていることも特徴です。所有と経営が一致しているケースが多く、株式に譲渡制限が付されているため、利害関係者は主に取引金融機関、主要取引先、既存株主などに限られます。

さらに、多くの企業では税務申告が計算書類等を作成する主な目的となっており、法人税法で定める処理を意識した会計が行われています。

そして、経理体制も限られており経理担当者の人数が少ない企業が多いという点も挙げられます。

このような実態を踏まえ、本要領は次のような考え方に立って作成されました。

まず、経営者が自社の経営状況を把握しやすいように、理解しやすく、経営に役立つ会計であることが求められています。

また、金融機関や取引先、株主などの利害関係者への情報提供にも資する内容となっています。

さらに、実務で定着している会計慣行を十分に考慮し、会計と税制の調和を図ったうえで、会社計算規則に準拠する形式とされています。

そして、計算書類等の作成にかかる負担を最小限にとどめ、中小企業に過度な負担をかけないよう配慮された会計です。

一言でいえば、中小企業の実態に配慮し、より簡便な会計処理を行うことが適当とされる中小企業を対象に、その実態に即した会計処理のあり方を取りまとめたものです。

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第2章|本2 要領の利用が想定される会社

本要領の利用が想定されるのは、原則として次の株式会社を除く会社です。

ひとつは、金融商品取引法の規制の適用対象となっている会社です。もうひとつは、会社法上の会計監査人設置会社です。

これらに該当しない株式会社に加え、特例有限会社、合名会社、合資会社、合同会社についても本要領を利用することができます。

なお、本要領は法令によってその利用が強制されるものではないため、「利用が想定される会社」という表現が用いられています。

3  他の会計基準との関係

本要領は、金融商品取引法に基づく企業会計基準や、日本公認会計士協会などが策定した「中小企業の会計に関する指針」(以下「中小指針」)とは異なる位置づけにあります。

そのため、本要領の利用が想定される会社であっても、企業会計基準や中小指針に基づいて計算書類等を作成することは妨げられていません。本要領は、中小指針と比べてより簡便な会計処理が適当と考えられる中小企業を対象としています。

また、本要領は国際会計基準(IFRS)の影響を受けない内容とすることで、安定的に継続利用できるものとして設計されています。

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インボイスがなくても控除できる?免税事業者からの仕入れの経過措置

こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。

インボイス制度の開始により、仕入税額控除を受けるには原則として「帳簿+インボイス(適格請求書)」の保存が必要となりました。

しかし、免税事業者(インボイスを発行できない事業者)との取引については、
「控除がゼロになるのでは?」「80%は控除できると聞いたけど?」
といった不安や誤解の声がよく寄せられます。

今回は、免税事業者からの仕入れに対する仕入税額控除の可否と、正しい経過措置の内容について整理してご説明します。


1 原則ルール:インボイスがなければ仕入税額控除はできない

まず大前提として、令和5年10月1日以降、適格請求書発行事業者でない者(=免税事業者等)からの仕入れについては、原則として仕入税額控除はできません。

なぜなら、適格請求書(インボイス)を発行できないため、控除要件を満たさないからです。

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2 ただし、経過措置がある!【6年間限定】

インボイス制度開始にあたって、いきなり控除ゼロでは事業に大きな影響が出ることから、
次のような6年間の経過措置(段階的控除)が設けられました。

経過措置の概要(免税事業者からの仕入れ)

適用期間控除可能割合(※)
令和5年10月1日〜令和8年9月30日80%控除可能
令和8年10月1日〜令和11年9月30日50%控除可能
令和11年10月1日以降控除不可(原則どおり)

※支払対価のうち、消費税相当額の80%または50%を仕入税額として控除できます。


3 この制度の名前は「経過措置(段階的控除)」!誤解されがちな制度名に注意

この制度は、あくまで免税事業者との取引における特例的な控除制度です。

一部では「80%控除制度」「簡易控除制度」などと呼ばれることもありますが、正式には「段階的控除の経過措置」です。

 よくある誤解:

  • ■「レシートだけあれば80%控除できる」→ ❌間違い

  • ■「免税事業者との全取引が対象」→ ❌間違い(課税仕入れに限る)

  • ■「この制度はソースに明記されていない」→ ❌一部資料には記載がある(が、網羅的ではない)


4 これとは別の「少額特例」とは何が違うの?

令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間、一定規模以下の事業者(課税売上1億円以下など)については、
1万円未満の仕入れであれば帳簿保存のみで仕入税額控除が可能という、別の経過措置が設けられています。

少額特例の主なポイント

項目内容
対象者基準期間の課税売上高1億円以下、または特定期間5千万円以下の事業者
適用取引1万円未満の課税仕入れ(相手がインボイス事業者でなくてもOK)
保存要件帳簿のみ(インボイス不要)
適用期間令和5年10月〜令和11年9月末

少額特例と段階的控除の違いを混同しないように注意が必要です。


5 仕入税額控除の実務例(段階的控除の場合)

例)令和6年10月、免税事業者から税込33,000円で仕入れた場合

  • ■消費税相当額:33,000円 × 10/110 = 3,000円

  • ■控除できる金額(80%):3,000円 × 80% = 2,400円

帳簿に取引内容を記載し、この2,400円を仕入税額として申告することができます。


まとめ インボイスがない場合でも救済措置はある。ただし段階的に消える。

経過措置対象適用期間保存要件
段階的控除免税事業者等からの仕入れ令和5年10月〜令和11年9月帳簿+記録(取引内容)
少額特例一定規模以下の事業者が行う1万円未満の仕入れ同上帳簿のみ(インボイス不要)

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