はじめに|中小企業向けの「各論」とは?
「中小企業の会計に関する基本要領」(本要領)は、中小企業の実態に配慮した簡便な会計処理方法を「各論」として具体的に示しています。
今回は、その中でも中小企業にとって特に知っておくと役立つ会計処理のポイントをいくつかご紹介します。
1 収益と費用の基本的な処理
まず、収益の計上については、原則として製品・商品の販売やサービスの提供を行い、現金等を取得した時(または売掛金の発生時)に計上します。これは一般に「実現主義」と呼ばれます。実務上は、出荷時点で収益を計上する方法が多く見られますが、取引の実態に応じて決定することになります。
次に、費用の計上は、原則として費用の原因となる取引が発生した時点やサービスの提供を受けた時点で計上するというもので、これは「発生主義」といいます。
また、収益と関連費用を対応させて計上する「期間損益計算」の考え方も重要です。たとえば、販売した製品の売上原価を売上高に対応させて費用計上するような形がこれにあたります。
さらに、損益計算書では収益と費用は総額で表示する「総額表示」が原則です。たとえば、賃借した建物を転貸している場合には、受取家賃と支払家賃の両方を計上する必要があります。
2 資産と負債の基本的な処理
資産の計上については、原則として取得価額で計上する(取得原価主義)とされています。取得価額とは、資産の取得または製造に要した費用の合計であり、購入金額に付随費用を加えた金額です。
一方、負債の計上は、債務額で行うのが原則です。これは、将来支払うべき金額として認識する必要があります。
3 具体的な処理例とそのポイント
貸倒引当金
回収不能の見込みがある債権については、貸倒引当金を計上します。特に、法人税法上の中小法人に認められた法定繰入率による算定方法が例示されており、中小企業の実務に即した配慮がなされています。
有価証券
有価証券は原則として取得原価で計上しますが、売買目的のものは時価で評価されます。また、取得原価で評価しているものが時価より著しく下落し、回復が見込めない場合は評価損を計上します。なお、売買目的以外の有価証券は取得原価での計上を原則とし、これは法人税法と一致する考え方です。
棚卸資産
棚卸資産も原則として取得原価で計上します。評価方法としては、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法などがあり、最終仕入原価法も利用可能です。この点は、法人税法でこの方法を採用する企業が多いという実態を踏まえた配慮です。また、時価が著しく下落し回復が見込めない場合は、評価損の計上が必要です。
引当金
将来発生が見込まれる特定の費用や損失について、発生の可能性が高く、合理的な見積りが可能なものは、引当金として計上します。特に退職給付引当金については、退職金規程等が整備されていれば、自己都合要支給額を基に計上することが明記されています。一方で、中小企業退職金共済など外部制度を利用している場合は、掛金を費用処理し、引当金を計上しないとされています。
リース取引
リース取引は、賃貸借取引または売買取引に準じた方法で処理されます。賃貸借方式では支払リース料を費用処理し、売買取引に準じる場合にはリース資産およびリース債務を計上し、リース資産は減価償却します。また、簡便な処理方法(賃貸借方式)を選択可能とする点も中小企業に配慮した特徴です。重要なリース取引では、未経過リース料を注記することが望ましいとされています。
まとめ|会計処理における中小企業への実務的配慮
中小会計要領は、収益・費用に関する「発生主義」や「実現主義」、資産に関する「取得原価主義」といった基本原則をベースとしつつ、中小企業の実務や税制との調和に配慮した会計処理を示しています。
具体的には、貸倒引当金の計算方法、有価証券や棚卸資産の評価、退職給付引当金の計上方法、リース取引の処理方法など、中小企業が現実に直面する場面で活用しやすい内容が多数盛り込まれています。
これらの特徴を理解することで、中小企業はより的確で負担の少ない会計処理を行うことが可能になります。