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こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
会社の資金が、役員によって私的に使い込まれる(横領・不正経費使用など)という事態は、経営に重大な損害を及ぼすだけでなく、税務上の処理にも複雑な対応を求められます。
今回は、法人税における所得計算への影響を中心に、役員の使い込みが発覚した場合の税務上の取り扱いについて解説します。
1 横領損失と損害賠償請求権は同時に計上されるのが原則
役員による資金の不正使用が判明した場合、会社にとっては「横領損失」が発生したとされます。
税務上は、原則として横領が発覚した時点で損失を損金計上します。
同時に、会社は加害者である役員に対して損害賠償請求権を取得し、損害賠償相当額を益金に計上します。これを「同時両建説」と呼び、会計処理の例は以下のとおりです。
この処理により、損金と益金が同額となるため、所得金額には影響しません。
2 損害賠償を途中で免除した場合のリスク
会社が役員の資力を確認したうえで、損害賠償請求を途中で免除した場合には注意が必要です。
この場合、免除額は役員に対する報酬として取り扱われます。
■役員賞与は定期同額でなければ損金算入不可 → 会社の所得が増加
■既に解任された元役員への免除は「寄付金」とみなされ、一部しか損金にできない
つまり、請求を免除することで、逆に法人税の負担が増加する結果となる可能性があるのです。
3 過年度にわたる使い込みが発覚した場合の対応
使い込みが過去の事業年度にわたっていた場合、次のような問題が生じます。
■過年度の売上漏れ、架空経費の発見
■修正申告の必要(本税+加算税+延滞税)
この場合、税務署に修正申告書を提出し、過去の所得を是正する必要があります。
まとめ|税務上も刑事上も重大なリスク。未然防止と早期対応を
役員による使い込みが発覚した場合の法人税上の影響は次のとおりです。
- ■発覚時点では、損失と損害賠償が両建てで処理され、所得への影響はないのが原則
- ■回収不能が明らかになれば、損金処理が可能(貸倒損失)
- ■免除した場合は、役員賞与または寄付金として損金不算入
- ■過去年度にさかのぼる場合は、修正申告と追加課税のリスク
- ■そもそも使い込み行為は刑事罰の対象となることもある