こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は「社長が取引先の冠婚葬祭に出席する際の衣装代を会社が負担した場合、その支出は会社の経費として認められるのか?」というテーマについて、税務の観点から整理して解説します。
1 取引先の冠婚葬祭に出席するのは業務の一環か?
法人の代表者が取引先や顧客の冠婚葬祭(結婚式や通夜・告別式等)に出席することは、実務上「業務の一部」として認識される場面も少なくありません。
特に地方の中堅企業などでは、地域や業界とのつながりを重視する文化があり、出席の頻度も高くなりがちです。
このような出席に伴って発生する祝儀や香典、供花代などについては、交際費として法人経費に計上することが一般的に認められています。
2 衣装代は「交際費」にできるのか?
問題となるのは、社長がこれらの冠婚葬祭に出席する際に必要となる「礼服」「喪服」などの衣装代です。
税務上の取扱いとしては、この衣装代は原則として会社経費にすることはできません
3 税務上の判断基準:「衣装代=衣食住の個人的費用」
法人が役員や従業員のために支出する費用のうち、「衣・食・住」すなわち個人の生活に密接に関係する費用は、原則として個人負担とされています。
衣装代は、たとえ法人の業務に関連して使用される場面であっても、「個人の生活維持に不可欠な支出」と位置付けられ、法人が負担すると役員報酬(経済的利益の供与)とみなされるリスクがあります。
そのため、たとえ社長が出席する冠婚葬祭が業務関連であったとしても、衣装は社長個人が用意し、自己負担するのが原則です。
4 交際費として認められる支出との違い
混同しがちですが、次のような支出は法人経費として処理できます:
- ■取引先の冠婚葬祭に対する祝儀・香典
- ■供花・供物の購入費
- ■弔問・慶事に伴う交通費(業務出張としての位置づけがある場合)
これらは「法人が外部との関係維持・信頼醸成のために支出する費用」として、交際費や福利厚生費に該当する可能性があります。
一方、衣装代は「社長個人の生活費」とみなされるため、損金不算入+役員報酬課税の対象になるという点が大きく異なります。
5 まとめ:社長の冠婚葬祭出席は経費でも、衣装はNG
結論として、
■社長が取引先の冠婚葬祭に出席すること自体は業務の一環と認められうる
■出席にかかる祝儀・香典・交通費等は交際費として経費処理可能
■ただし、礼服・喪服等の衣装代は、社長個人の生活関連費用に該当するため、法人負担は不可
このように、出席に関する費用のうち、どの部分が法人の業務に関連するか、どこからが私的支出かを明確に区別することが重要です。