こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
今回は、「社長の入院にかかった特別室の追加料金を会社が負担した場合、その費用を厚生費として処理できるのか?」というテーマについて、法人税の観点から解説します。
1 結論:厚生費としての処理は認められない
このケースにおいて、特別室の追加料金は厚生費として損金に算入することはできません。
なぜなら、医療費の中でも特別室の差額ベッド代は、あくまで個人の便宜のための支出であり、会社がその費用を負担した場合には「経済的利益の供与」にあたるためです。
つまり、その費用を法人が負担すると、社長個人への給与として取り扱われることになります。
2 経済的利益とは?役員賞与としての課税対象
法人が役員の私的な費用を負担した場合には、「経済的利益の供与」(法人税基本通達9-2-10)とみなされ、その相当額が役員報酬とされます。
その結果、次のような税務上のリスクが生じます:
- ■法人側:損金不算入(費用として認められない)
- ■個人側:役員賞与として所得税課税の対象となる
特別室代は「個人の便宜のための支出」であり、業務との関連性がないため、法人が負担すれば実質的な給与の支給と同視されます。
また、重要な点として、このような経済的利益の供与は次の点に注意が必要です。
- ■定期同額給与の要件を満たさないため、法人側では全額損金不算入となります。
- ■源泉徴収義務が発生するため、適切な手続きが必要となります。
- ■重加算税等のペナルティのリスクもあります。
3 実務上の注意点と対応策
以下については福利厚生費として認められる場合があります。
認められるものは次の事項等です。
- ■健康診断費用(全従業員対象)
- ■見舞金(社会通念上相当な金額)
- ■団体医療保険の保険料(一定の条件下)
認められないものは次の事項等です。
- ■個人の治療費・薬代
- ■特別室・個室の差額ベッド代
- ■個人的な健康管理費用
- ■高額な先進医療費
福利厚生として認められるには、全従業員を対象とし、合理的で平等な基準に基づく制度であることが必要です。
トラブルを避けるため、役員や使用人の医療費を会社が負担する場合には、以下の点に注意が必要です:
1. 事前の制度整備を行う。
- ■医療費に関する社内規程の策定する。
- ■福利厚生制度の明文化と全従業員への周知を行う。
- ■見舞金制度の金額基準の明確化する。
2. 適切な処理を行う。
- ■医療費は個人負担を原則とする。
- ■会社立替の場合は速やかに個人精算を行う。
- ■見舞金は社会通念上相当な範囲内(一般的には数万円程度)とする。
3. 記録・証拠の保全を行う。
- ■医療費の領収書の適切な管理を行う。
- ■精算処理の記録保存を行う。
- ■福利厚生制度の平等な運用実績の文書化を行う。
4 まとめ|社長の入院費用は会社負担NG。課税のリスクに注意
社長や役員の特別室代など、個人的な医療費用を法人が負担することは、原則として厚生費にはならず、役員報酬として課税対象となります。
特に注意すべきリスクは、次のとおりです。
・法人側:損金不算入により法人税負担が増加
・個人側:給与所得として所得税・住民税が課税
・手続面:源泉徴収義務の発生と年末調整での処理が必要
会社として適切な運用を行うためには、事前に明確なルールを策定し、全従業員に平等に適用される福利厚生制度を整備することが重要です。個人的な医療費は原則として個人負担とし、会社は適切な見舞金制度等で対応することをお勧めします。