こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
今回は、家族を役員として迎え入れた際の「役員報酬」について、その決め方・税務上の留意点・節税の可能性を整理して解説します。家族経営をされている方、これから法人設立を検討されている方はぜひ最後までご覧ください。
第1章|家族に役員報酬を支払うことは可能か?
法人では、役員(取締役・監査役等)に対して「役員報酬」を支払うことが認められており、家族であっても、登記上の役員であれば支給可能です。
ただし、税務上は「実態に見合った報酬かどうか」に注意が必要です。
第2章|税務上の「妥当な報酬額」の考え方
役員報酬には法律上の上限はありませんが、「業務内容・勤務時間・会社の業績・責任の重さ」等を総合的に勘案し、相当と認められる水準であることが求められます。
よく見られる評価基準
- 業務への関与度(常勤か非常勤か)
- 他の役員や従業員とのバランス
- 類似業種での報酬相場
- 勤務日報・議事録などの証拠
税務調査では、「勤務実態がなかった」などの理由で否認されることもあるため、報酬額と貢献度が見合っているかを常に意識する必要があります。
第3章|役員報酬を支払う6つの節税メリット
① 所得分散による節税効果
家族に報酬を分配することで、所得税・住民税の累進課税を抑えられます。
② 贈与税・相続税対策
役員報酬として家族に分配することで、贈与や相続による課税を回避できます。
③ 将来の年金額が増える
社会保険に加入することで、厚生年金を受給できる可能性が高まり、老後の備えになります。
④ 退職金の節税メリット
役員退職金は法人側で損金処理可能で、個人側でも退職所得控除が活用可能です。
⑤ 倒産リスクに備えた資産分散
報酬を通じて資産を分散しておくことで、万一の事態でも生活資金を確保できます。
⑥ 高額報酬の設定が可能
勤務実態に応じた合理的な理由があれば、高額な報酬を設定することも可能です。
第4章|注意点:役員報酬に関する3つのリスク
家族に役員報酬を支給する際には、税務上のリスクや制約にも十分配慮する必要があります。ここでは、特に重要な3つの注意点を解説します。
① 定期同額給与の原則
法人税法では、役員報酬は毎月同額で支払うこと(定期同額給与)が損金算入の前提とされています。
決算期から3か月以内に報酬額を決定し、それ以降は期中に金額変更できないのが原則です。
ただし、業績悪化などの特別な事情がある場合には、一定の手続きと書面(株主総会議事録等)により減額が認められることもあります。
② みなし役員に注意
登記上の役員ではなくても、実質的に経営に関与している従業員や株主は「みなし役員」として税務上の役員とみなされる場合があります。
みなし役員と認定された場合、その報酬も定期同額給与や賞与制限の対象となり、自由な報酬設計が難しくなるため注意が必要です。
③ 非常勤役員の報酬は慎重に設定する
勤務実態の薄い非常勤役員への高額な報酬は、税務調査で否認されるリスクが高くなります。
特に、年間103万円(所得税の扶養)や130万円(社会保険の扶養)を超えないように報酬を設定するケースでも、実際にどのような業務を行っているのかの説明責任が生じます。
まとめ|家族への役員報酬は、実態と根拠が重要
家族に役員報酬を支払うことは、所得の分散、相続対策、社会保障の充実など、法人経営における多くのメリットをもたらします。
ただし、以下の点を意識して慎重に設計しましょう。
実際の勤務実態に見合った報酬であること
定期同額給与を遵守していること
書面(議事録・契約書・日報等)で説明可能であること
制度を適切に活用すれば、節税と経営の安定に大きく寄与します。
設定や運用に不安がある場合は、税理士等の専門家に相談して、根拠のある報酬制度を整備していきましょう。