こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
個人事業主が株式会社や合同会社を設立して法人化する「法人成り」。このタイミングで最も多く寄せられるご質問の一つが、「個人で使っていた資産はどうやって法人に引き継げばいいのか?」という問題です。
パソコンや自動車、在庫商品、さらには事務所として使っている不動産まで、個人事業で使用していた様々な資産を法人にどう移すべきか、悩まれる方は非常に多いです。
この記事では、法人成り時における資産引継ぎの方法、資産の種類ごとの取り扱い、そして注意点まで、具体例を交えながら解説します。
1 法人成り時に選べる資産引継ぎの4つの方法
法人成りの際、個人事業で使用していた資産を法人に引き継ぐ方法には、主に以下の4つがあります。
①譲渡(売却)
最も一般的な方法で、個人から法人へ資産を売却する形です。
- ■譲渡価格:時価等を参考に設定
- ■メリット:明確な取引として処理しやすい
- ■注意点:譲渡所得として税金がかかる場合がある
②賃貸(貸し出し)
個人が法人に資産を貸し出す方法です。
- ■所有権:個人に残る
- ■契約:法人との間で賃貸借契約を締結
- ■メリット:所有権を手放さずに済む
- ■注意点:賃料収入として所得税がかかる
③贈与
無償で資産を法人に譲渡する方法です。
- ■費用:基本的に無償
- ■重要な注意点:「みなし譲渡」として時価で譲渡したものとして課税される
- ■個人側:譲渡所得課税(時価ベース)
- ■法人側:受贈益として法人税課税
- ■使用場面:税務上二重課税となるため、実務上は推奨されない
※注意:無償譲渡でも個人側で時価による譲渡所得課税が発生するため、実質的に贈与のメリットはありません。
④現物出資
資産を出資財産として法人設立時に拠出する方法です。
- ■タイミング:法人設立時のみ
- ■効果:資本金として計上される
- ■注意点:手続きが複雑
2 資産ごとの処理方法と注意点
棚卸資産(在庫商品など)
処理方法:時価による譲渡が原則
重要な特例:
以下の場合は時価未満での譲渡も認められる:
- ■その価額が「通常の販売価額のおおむね70%以上」であること
- ■継続してその価額で処理していること
個人側の処理:
- ■事業所得の売上として計上
- ■譲渡価額で収入計上
法人側の処理:
- ■棚卸資産として計上
- ■取得価額は支払価額
具体例:100万円の在庫がある場合、70万円以上で法人に譲渡
減価償却資産(自動車、パソコンなど)
処理方法:譲渡が原則(場合により賃貸も可能)
個人側の処理:
- ■譲渡所得として計上
- ■帳簿価額と譲渡価額の差額が所得
法人側の処理:
- ■中古資産として固定資産に計上
- ■新たな耐用年数で減価償却を開始
具体例:個人で使用していた営業車(帳簿価額50万円)を法人に80万円で譲渡
不動産(土地・建物)
譲渡の場合:
- ■所有権移転登記が必要
- ■譲渡所得・不動産取得税が発生
- ■登録免許税などの費用も考慮
賃貸の場合:
- ■所有権は個人のまま
- ■法人と賃貸契約を締結
- ■不動産所得として課税
重要な注意点:法人が個人の土地に建物を建てる場合は、借地権の認定課税に注意が必要です。
負債(借入金・買掛金)
引継ぎの代表的な方法は以下の3つ:
- 引継ぎしない:個人で返済を続ける
- 債務引受:金融機関の同意が必要
- 新規借入:法人で新たに借入し、個人分を返済
3 引き継げないもの・注意が必要なケース
引き継げないもの
賃貸物件やリース契約品:
- ■法人と新たに契約が必要
- ■名義変更の手続きが必要
許認可:
- ■法人名義での再申請が必要
- ■一部は引き継げない場合もある
注意が必要なケース
債務超過の状態:
- ■負債が資産を上回ると信頼性に影響
- ■金融機関からの評価が下がる可能性
4 資産引継ぎ時の税務上の重要な注意点
①消費税の課税に注意
課税事業者(インボイス登録者等)が資産を譲渡する場合:
- ■消費税が課される(土地など非課税資産を除く)
- ■適格請求書の発行が必要
②全ての資産を引き継ぐ必要はない
選択的な引継ぎ:
- ■老朽化した資産は引き継がない
- ■未使用資産は廃棄や売却を検討
- ■法人にとって不要な資産は除外
③負債の引継ぎは慎重に
債務超過のリスク:
- ■法人の信用力低下
- ■金融機関からの融資が困難になる可能性
- ■計画的な引継ぎが重要
5 法人成りと資産引継ぎは専門家に相談を
法人成りと資産引継ぎの手続きは非常に煩雑で、税制への対応も求められます。税理士など専門家のサポートを得ることで、以下のようなメリットがあります。
専門家に依頼するメリット
節税効果:
- ■最適な手法を選択できる
- ■税務上のリスクを回避
- ■将来を見据えた戦略的な法人成り
時間・手間の削減:
- ■複雑な手続きをお任せ
- ■本業に集中できる
- ■設立後の経理・税務まで継続サポート
安心感:
- ■法的なリスクを回避
- ■適切な記帳・申告体制の構築
- ■将来の事業展開を見据えたアドバイス
6 まとめ:成功する法人成りのために
法人成り時の資産引継ぎについて、重要なポイントをまとめます。
覚えておきたいポイント:
- ■資産引継ぎは「譲渡」「賃貸」が主流
- ■資産の種類や状況により処理方法が異なる
- ■負債の引継ぎや消費税の課税に要注意
- ■全ての資産を引き継ぐ必要はない
- ■無理のない処理と適切な記帳・申告が重要
成功のカギ:
- ■事前の綿密な計画
- ■専門家との連携
- ■税務上のリスクの把握
- ■将来を見据えた戦略的な判断
法人成りは事業の大きな転換点です。正しい知識と専門家の助言で、スムーズかつ有利に進めていきましょう。