【会社設立】個人からの資産の引継ぎは、どうすればいい?

2025年5月25日
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2025年5月25日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

個人事業主が株式会社や合同会社を設立して法人化する「法人成り」。このタイミングで最も多く寄せられるご質問の一つが、「個人で使っていた資産はどうやって法人に引き継げばいいのか?」という問題です。

パソコンや自動車、在庫商品、さらには事務所として使っている不動産まで、個人事業で使用していた様々な資産を法人にどう移すべきか、悩まれる方は非常に多いです。

この記事では、法人成り時における資産引継ぎの方法、資産の種類ごとの取り扱い、そして注意点まで、具体例を交えながら解説します。

棚卸資産 (2)

1 法人成り時に選べる資産引継ぎの4つの方法

法人成りの際、個人事業で使用していた資産を法人に引き継ぐ方法には、主に以下の4つがあります。

①譲渡(売却)

最も一般的な方法で、個人から法人へ資産を売却する形です。

  • ■譲渡価格:時価等を参考に設定
  • ■メリット:明確な取引として処理しやすい
  • ■注意点:譲渡所得として税金がかかる場合がある

②賃貸(貸し出し)

個人が法人に資産を貸し出す方法です。

  • ■所有権:個人に残る
  • ■契約:法人との間で賃貸借契約を締結
  • ■メリット:所有権を手放さずに済む
  • ■注意点:賃料収入として所得税がかかる

③贈与

無償で資産を法人に譲渡する方法です。

  • ■費用:基本的に無償
  • ■重要な注意点:「みなし譲渡」として時価で譲渡したものとして課税される
  • ■個人側:譲渡所得課税(時価ベース)
  • ■法人側:受贈益として法人税課税
  • ■使用場面:税務上二重課税となるため、実務上は推奨されない

※注意:無償譲渡でも個人側で時価による譲渡所得課税が発生するため、実質的に贈与のメリットはありません。

④現物出資

資産を出資財産として法人設立時に拠出する方法です。

  • ■タイミング:法人設立時のみ
  • ■効果:資本金として計上される
  • ■注意点:手続きが複雑

2 資産ごとの処理方法と注意点

棚卸資産(在庫商品など)

処理方法:時価による譲渡が原則

重要な特例:
以下の場合は時価未満での譲渡も認められる:

  • その価額が「通常の販売価額のおおむね70%以上」であること
  • 継続してその価額で処理していること

個人側の処理:

  • 事業所得の売上として計上
  • 譲渡価額で収入計上

法人側の処理:

  • 棚卸資産として計上
  • 取得価額は支払価額

具体例:100万円の在庫がある場合、70万円以上で法人に譲渡

減価償却資産(自動車、パソコンなど)

処理方法:譲渡が原則(場合により賃貸も可能)

個人側の処理

  • ■譲渡所得として計上
  • ■帳簿価額と譲渡価額の差額が所得

法人側の処理

  • ■中古資産として固定資産に計上
  • ■新たな耐用年数で減価償却を開始

具体例:個人で使用していた営業車(帳簿価額50万円)を法人に80万円で譲渡

不動産(土地・建物)

譲渡の場合

  • ■所有権移転登記が必要
  • ■譲渡所得・不動産取得税が発生
  • ■登録免許税などの費用も考慮

賃貸の場合

  • ■所有権は個人のまま
  • ■法人と賃貸契約を締結
  • ■不動産所得として課税

重要な注意点:法人が個人の土地に建物を建てる場合は、借地権の認定課税に注意が必要です。

負債(借入金・買掛金)

引継ぎの代表的な方法は以下の3つ:

  1. 引継ぎしない:個人で返済を続ける
  2. 債務引受:金融機関の同意が必要
  3. 新規借入:法人で新たに借入し、個人分を返済

社用車

3 引き継げないもの・注意が必要なケース

引き継げないもの

賃貸物件やリース契約品

  • ■法人と新たに契約が必要
  • ■名義変更の手続きが必要

許認可

  • ■法人名義での再申請が必要
  • ■一部は引き継げない場合もある

注意が必要なケース

債務超過の状態

  • ■負債が資産を上回ると信頼性に影響
  • ■金融機関からの評価が下がる可能性

4 資産引継ぎ時の税務上の重要な注意点

①消費税の課税に注意

課税事業者(インボイス登録者等)が資産を譲渡する場合:

  • ■消費税が課される(土地など非課税資産を除く)
  • ■適格請求書の発行が必要

②全ての資産を引き継ぐ必要はない

選択的な引継ぎ

  • ■老朽化した資産は引き継がない
  • ■未使用資産は廃棄や売却を検討
  • ■法人にとって不要な資産は除外

③負債の引継ぎは慎重に

債務超過のリスク

  • ■法人の信用力低下
  • ■金融機関からの融資が困難になる可能性
  • ■計画的な引継ぎが重要

5 法人成りと資産引継ぎは専門家に相談を

法人成りと資産引継ぎの手続きは非常に煩雑で、税制への対応も求められます。税理士など専門家のサポートを得ることで、以下のようなメリットがあります。

専門家に依頼するメリット

節税効果

  • ■最適な手法を選択できる
  • ■税務上のリスクを回避
  • ■将来を見据えた戦略的な法人成り

時間・手間の削減

  • ■複雑な手続きをお任せ
  • ■本業に集中できる
  • ■設立後の経理・税務まで継続サポート

安心感

  • ■法的なリスクを回避
  • ■適切な記帳・申告体制の構築
  • ■将来の事業展開を見据えたアドバイス

6 まとめ:成功する法人成りのために

法人成り時の資産引継ぎについて、重要なポイントをまとめます。

覚えておきたいポイント

  • ■資産引継ぎは「譲渡」「賃貸」が主流
  • ■資産の種類や状況により処理方法が異なる
  • ■負債の引継ぎや消費税の課税に要注意
  • ■全ての資産を引き継ぐ必要はない
  • ■無理のない処理と適切な記帳・申告が重要

成功のカギ

  • ■事前の綿密な計画
  • ■専門家との連携
  • ■税務上のリスクの把握
  • ■将来を見据えた戦略的な判断

法人成りは事業の大きな転換点です。正しい知識と専門家の助言で、スムーズかつ有利に進めていきましょう。

 

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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