こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
相続が発生した際、被相続人が生前に特定の相続人へ財産を贈与していた場合、それは「特別受益」として相続財産に加えて計算されるのが原則です。しかし、被相続人が「その贈与分は相続財産に含めなくてよい」と意思表示していた場合は、この“持ち戻し”を免除することができます。
今回はこの「特別受益の持ち戻し免除」について、制度の概要、注意点、実務上の対策をわかりやすく解説します。
第1章|特別受益とは?~公平な遺産分割のための制度~
相続人の一部が、被相続人から住宅取得資金や結婚資金などの多額の贈与を受けていた場合、それは**「特別受益」**とされ、相続時に相続財産へ持ち戻して計算するのが原則です。
この制度は、すべての相続人が公平に相続できるようにするために設けられています。
第2章|持ち戻し免除とは?
持ち戻し免除とは、被相続人が「贈与分を相続財産に加えないでよい」と意思表示した場合に、特別受益を遺産分割の対象から除外できる制度です。
これは相続人間の公平よりも、「被相続人の意思」を重視する制度であり、特定の相続人を優遇したいという思いを反映できます。
第3章|持ち戻し免除が認められる3つのケース
1. 明示の意思表示がある場合
遺言書や贈与契約書などに、「特別受益の持ち戻しは免除する」と明確に記載されていれば、持ち戻し免除が有効です。
記載例:
「長男に対する生前贈与については、持ち戻しを免除するものとする。」
2. 黙示の意思表示が認められる場合
書面はなくても、被相続人の生前の言動や状況から「持ち戻しを免除する意図があった」と判断されれば、黙示の意思表示として認められることもあります。
認められやすいケース:
家業を継がせるための資産贈与
介護などの見返りがあった場合
経済的困窮など特別な事情のある相続人への贈与
3. 婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与
2019年の民法改正により、婚姻期間が20年以上の配偶者に対する居住用不動産の贈与や遺贈は、原則として持ち戻し免除の意思表示があったと推定されるようになりました。
第4章|持ち戻し免除の注意点
遺留分には影響しない
持ち戻し免除の意思表示があっても、遺留分(最低限の法定相続分)を侵害することはできません。遺留分の計算上は、特別受益として考慮されます。
たとえ遺言で「特別受益を持ち戻さない」と記載しても、他の相続人が遺留分を侵害された場合は、「遺留分侵害額請求」が可能です。
相続トラブルに発展するリスク
持ち戻し免除により特定の相続人が大きな財産を取得すると、他の相続人との間で不公平感が生じる可能性があります。
「本当に持ち戻し免除の意思があったのか?」
「遺言書の内容は妥当か?」
といった争いが、遺産分割協議・調停・審判に発展することも少なくありません。
第5章|トラブルを避けるための生前対策
遺言書で意思を明確に
持ち戻し免除を行う場合は、遺言書で明確に記載することが最も安全です。口約束や黙示では、後の争いの火種になることもあります。