【相続トラブルを防ぐ】特別受益とは?知っておきたいポイントを解説

2025年5月19日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。

相続の現場では、被相続人から「生前に家を建ててもらった」「結婚資金を援助してもらった」など、特定の相続人だけが利益を得ていたというケースがあります。これが「特別受益」の問題です。

特別受益を正しく理解しておかないと、遺産分割協議が不公平になり、相続トラブル(争族)に発展する恐れもあります。本記事では、特別受益の基礎知識から計算方法、トラブル防止の対策まで、実務経験に基づいて分かりやすく解説します。


1 特別受益とは?その意味と重要性

特別受益とは、法定相続人の中で、被相続人から遺言や生前贈与により「特別な利益」を受けた人がいる場合に、その利益を公平な相続に反映させるための制度です。

例えば、長男だけが住宅購入資金1,000万円を生前に受け取っていた場合、それを考慮せずに相続すると、他の相続人から「不公平だ」と感じられてしまいます。そこで、その1,000万円を一度遺産に「持ち戻す」ことで、相続分を調整します。特別受益は相続税の対象ではないため、この持ち戻しは相続税に影響を与えることは、基本的にありません。あくまで、公平な相続分を計算するための概念です。

法的根拠と要件
特別受益は民法903条に定められた制度で、以下の要件を満たす必要があります:
・相続人が被相続人から受けた利益であること
・「遺贈」または「婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与」であること
・扶養の範囲を超える多額の贈与であること

単なる生活費や一般的な教育費は扶養義務の範囲内とされ、特別受益には該当しません。

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2 どんなものが特別受益になる?

以下のような贈与や遺贈が、特別受益に該当する可能性があります。

特別受益となるケース

  • ■遺言による相続人への財産の贈与(遺贈)
  • ■婚姻・養子縁組のための多額の持参金や支度金
  • ■住宅購入資金の援助
  • ■事業資金の援助(農地・株式等)
  • ■高額な学費援助(医学部・留学費など)等

特別受益とならないことが多いケース

  • ■一般的な生活費・仕送り
  • ■高校までの教育費
  • ■同居家族の生活支援
  • ■生命保険金(原則)
  • ■被相続人が孫にした贈与 等

判断のポイント
特別受益に該当するかどうかは、以下の要素を総合的に判断します:

  • ■被相続人の資産状況や社会的地位
  • ■贈与の金額や性質
  • ■他の相続人との公平性
  • ■家族の慣行や社会通念

例:年収500万円の家庭での100万円の贈与と、年収5,000万円の家庭での100万円の贈与では、特別受益としての評価が異なる場合があります。

時効について
2023年4月1日施行の民法改正により、相続開始から10年を経過すると、原則として法定相続分による分割となり、特別受益を主張できなくなる点に注意が必要です。

 


3 特別受益があるときの相続分の計算方法

特別受益がある場合、遺産総額に特別受益を加えた「みなし相続財産」を基準に分割計算します。ここでの「みなし相続財産」は、相続税の計算における「みなし相続財産」とは異なります。あくまで、公平な相続分の計算のための概念です。

計算式

■みなし相続財産
= 相続財産 + 特別受益の額

■特別受益者の相続分
= (みなし相続財産 × 法定相続割合)- 特別受益額

例:遺産1億円、子3人、長女に生前贈与2,000万円

  • ■みなし相続財産:1億円+2,000万円=1億2,000万円

  • ■相続分:各4,000万円

  • ■長女の取得額:4,000万円-2,000万円=2,000万円

  • ■他の兄弟:各4,000万円

特別受益が相続分を超える場合

特別受益の額が計算上の相続分を上回る場合、その相続人は追加で相続財産を受け取ることはできません(民法903条2項)。

計算例:

  • ■遺産:3,000万円、子2人
  • ■長男への生前贈与:2,500万円
  • ■法定相続分:各1,500万円

この場合、長男は既に法定相続分を超える贈与を受けているため、残りの遺産3,000万円はすべて次男が相続します。

評価の時点

特別受益の価額は「相続開始時の価値」で評価します。例えば、贈与時1,000万円の不動産が相続時に2,000万円になっていた場合、2,000万円として計算します。


4 遺留分との関係と持ち戻し免除

遺留分計算における特別受益
特別受益は遺留分の計算にも影響します。2019年の相続法改正により、遺留分計算における生前贈与の対象期間は「相続開始前10年以内」となりました(ただし、遺贈や相続人以外への贈与は別ルール)。

重要:相続分の計算と遺留分の計算では、特別受益の取り扱いが異なります

  • ■相続分の計算:持ち戻し期間に制限なし
  • ■遺留分の計算:原則として相続開始前10年以内

持ち戻し免除とは
被相続人が「この贈与は特別受益として持ち戻さなくてよい」と意思表示することで、特別受益の持ち戻しを免除できます。

持ち戻し免除が認められる場合:

  • ■ 明示の意思表示:遺言書等に明記
  • ■ 黙示の意思表示:状況から免除の意図が推認される場合
  • ■ 法定推定:婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産贈与

記載例:
「長男○○に対する令和○年○月○日の金1,000万円の贈与については、民法903条の特別受益の持ち戻しを免除する。」

注意点
持ち戻し免除の意思表示があっても、遺留分の計算には影響しません。他の相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

 

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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