こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
会計上の「収益」と税法上の「益金」という2つがあります。これらは似て非なるものであり、法人税の計算上は「益金の額」が重要な意味を持ちます。
この記事では、法人税法における「益金の額」の定義と範囲、収益との違い、そして税務調整や別表四の役割について解説します。
法人税の計算において、「益金の額」を正しく理解することは極めて重要です。なぜなら、会計上の利益がそのまま課税所得になるわけではなく、税法独自のルールに基づいた調整が必要だからです。特に中小企業の経営者や経理担当者の方にとって、この違いを把握しておくことで、適切な税務処理と節税対策が可能になります。
1 「益金の額」とは?法人税法における基本定義
法人税法第22条第2項では、課税標準となる所得金額は「益金の額」から「損金の額」を控除して算出するものと規定されています。
1-1. 益金とは「収益のうち課税対象になるもの」
益金の額とは、基本的には資本等取引以外の取引に伴って生じた収益を指します。具体的には、以下のような収益が該当します。
商品・製品等の販売収益
固定資産や有価証券等の譲渡による収益
請負契約に基づく役務の提供収益
その他の資本等取引に該当しない収益全般
これらに加えて、法人税法特有の取扱いとして以下のようなケースも益金に含まれます。
無償譲渡による収益:資産をタダで提供した場合でも、その時価を収益として計上
無償提供役務の収益:サービス提供に対して金銭を受け取らない場合も、経済的価値を益金として認識
無償で資産を譲り受けた場合の収益:受贈した資産の時価分を益金に算入
1-2. 益金に含まれない収益の例
一方で、企業会計上は収益として計上されても、税法上は益金に含まれない項目もあります:
- 受取配当金(益金不算入の適用がある場合)
- 保険金収入(一定の要件を満たす場合)
- 補助金等(圧縮記帳を適用する場合)
このように、税法では政策的配慮から特別な取扱いが設けられているのです。
1-3. 法人税法第22条の条文構造
法人税法第22条は以下の構造になっています:
– 第1項:所得金額の計算方法(益金の額-損金の額)
– 第2項:益金の額の定義
– 第3項:損金の額の定義
– 第4項:別段の定めがある場合の特例
この条文は法人税計算の根幹をなしており、会計上の利益計算とは明確に区別された税法独自の所得計算体系を示しています。
2 企業会計の「収益」との違いとは?
法人税法上の益金と、企業会計上の収益は一致しないことがしばしばあります。これは、両者の目的が異なるためです。
2-1. 両者の目的の違い
比較項目 | 企業会計 | 法人税法 |
---|---|---|
目的 | 経営実態の正確な把握、 投資家や債権者への財務情報の開示 | 公平な課税・税収の確保、 産業政策的観点の反映 |
基準 | 企業会計原則・会計基準 | 法人税法および通達における 「別段の定め」 |
特徴 | 実現主義・発生主義に基づき、 経済的実態を重視 | 課税の公平性・合理性を重視し、 一部の会計処理を否認・修正 |
2-2. 会計上の収益が益金にならない例・その逆もある
企業会計上では収益として計上していても、税法上は益金に含まれないケースがあります。たとえば:
■受取配当金:会計上は収益だが、一定の条件を満たせば益金不算入
■資産の贈与:会計上は収益計上されないことが多いが、税法では益金算入対象
2-3. 実務上の注意点
この違いを理解せずに会計処理を行うと、申告時に大幅な修正が必要になったり、税務調査で指摘を受けるリスクがあります。特に以下の点にご注意ください:
- ■月次決算時から税務上の取扱いを意識した処理を行う
- ■期末に向けて益金・損金の調整項目を事前に把握する
- ■ 顧問税理士と連携し、適切なタイミングで税務相談を行う
3 収益の計上時期と法人税法のルール
課税所得は、収益の計上時期によっても変動します。法人税法では、一定の原則と特例を設けて、計上タイミングを定めています。
3-1. 一般的な収益計上基準
取引類型 | 計上時期 | 補足 |
---|---|---|
商品販売 | 引渡基準 | 出荷日、検収日など継続的に採用している基準で判断(継続適用が要件) |
請負契約 | 完成引渡基準 | 一定の要件を満たす場合、部分完成基準の適用も可能(継続適用が必要) |
長期工事 | 工事進行基準 | 規模・期間の基準を満たす場合、強制適用 ※法人税法第22条の2、施行令第135条等に規定 |
3-2. 延払基準などの特例
例外として、代金受領に時間がかかる取引については「延払基準」を用いて、収益計上を繰り延べることが認められています。
3-3. 権利確定主義と実現主義
法人税法における収益計上は「権利確定主義」を採用しています。これは:
– 収益を得る権利が確定した時点で計上
– 現金の受領時期は問わない
– 会計上の実現主義とほぼ同様だが、一部で取扱いが異なる
【具体例】
売掛金:商品引渡時に益金計上(入金時ではない)
前受金:役務提供完了時まで益金計上を繰り延べ
4 益金不算入の具体例とその趣旨
法人税法では、企業会計上は収益とされる項目であっても、益金に算入しないと定める「別段の定め」が存在します。
4-1. 内国法人間の受取配当金
配当金は株式投資の収益であるため会計上は収益ですが、法人税法では二重課税を避けるため、一定の計算式により益金不算入とされます。
4-2. 受取配当金の益金不算入計算例
たとえば、他社株式から年間100万円の配当を受け取った場合:
- ■持株比率5%未満:益金不算入割合20% → 20万円が益金不算入
- ■持株比率5%以上1/3未満:益金不算入割合50% → 50万円が益金不算入
- ■持株比率1/3以上:益金不算入割合100% → 100万円が益金不算入
このように、持株比率によって益金不算入の取扱いが変わります。
4-3. その他の益金不算入項目
受取配当金以外の主な益金不算入項目:
– 保険差益(一定の生命保険契約)
– 還付金等(法人税等の還付加算金を除く)
– 資産の評価益(未実現損益は原則として益金・損金に算入しない)
– 債務免除益(一定の私的整理の場合)
これらは政策的配慮や課税技術上の理由から、特別に益金不算入とされています。
5 圧縮記帳という税法独自の調整制度
特定の補助金や資産譲渡益に対しては、「圧縮記帳」による課税繰延べが可能です。これは、企業の再投資を支援するための税制優遇です。
5-1. 圧縮記帳の仕組み
たとえば、補助金で機械を購入した場合、その補助金相当額だけ取得価額を減額し、減額分を損金に算入できる場合があります。
6 税務調整と申告書別表四の役割
会計上の当期純利益から法人税法上の所得を算出するためには、「税務調整」が不可欠です。その中心的役割を果たすのが申告書別表四です。
6-1. 別表四の加算・減算項目
■加算項目:会計では収益でなくても益金となるもの(例:計上漏れ)
■減算項目:会計では収益でも益金にならないもの(例:受取配当)
この別表四を通じて、益金・損金を調整し、法人税の課税所得が確定します。
まとめ:益金の額を正しく理解し、適切な税務処理を
法人税法における「益金の額」は、企業会計の「収益」とは異なる概念です。この違いを正しく理解することで:
- ■適切な税務申告:会計と税務の差異を正確に把握し、申告書を正しく作成できます
- ■効果的な税務戦略:益金不算入や圧縮記帳などの制度を活用した節税対策が可能になります
- ■税務リスクの軽減:税務調査での指摘事項を未然に防ぐことができます
富士市・富士宮地域の事業者様で、益金の取扱いや税務調整についてお困りの際は、お気軽にご相談ください。適切な税務処理により、事業の健全な発展をサポートいたします。