役員報酬の税務上のルール

2025年6月22日
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2025年6月22日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

今回は、会社の「顔」とも言える役員の皆さんの報酬について、法人税法上で特に気を付けていただきたいポイントを解説します。従業員への給与とは異なる、役員報酬の税務上のルールを正しく理解しましょう。

1 役員報酬の基本と税務上の制限

会社は通常、「経営者(役員)」と「従業員」で構成されます。従業員と会社が「雇用」の関係にあるのに対し、役員と会社は「委任」の関係にあります。従業員への給与は、役員と従業員の合意に基づき、会社の費用(損金)として認められます。

ところが、役員報酬には税務上の厳しい制限があります。これは、特に中小企業に多い「オーナー会社」の場合、社長自身が株主であるため、会社の業績に応じて報酬額を自由に増減させることで、利益操作が可能となり、課税の公平が損なわれる可能性があるためです。

法人税法上、役員に支給する給与のうち、以下のいずれにも該当しない金額は損金に算入されません。また、事実を隠蔽・仮装して経理したり、不相当に高額な部分の金額は損金不算入となります。

なお、役員報酬が損金不算入となった場合、法人税法上は会社の経費として認められないため、会社側では法人税等の負担が増加し、同時に役員個人では所得税・住民税が課税されるという二重課税の状態となります。このため、役員報酬の設定は慎重に行う必要があります。

【具体例】資本金1,000万円の会社で、社長が期中に月額報酬を100万円増額した場合
・年間増額:100万円 × 12か月 = 1,200万円
・会社の追加法人税(実効税率30%):360万円
・社長個人の所得税・住民税(税率33%):396万円
・合計税負担:756万円(増額分の63%が税金)

このように、二重課税により非常に大きな負担となります。
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損金算入が認められる役員給与の3種類

損金算入が認められる役員給与は、主に以下の3種類です。

  • 定期同額給与(ていきどうがくきゅうよ)
  • 事前確定届出給与(じぜんかくていとどけできゅうよ)
  • 業績連動給与(ぎょうせきれんどうきゅうよ)

このうち「業績連動給与」は、その算定方法が有価証券報告書に記載されるなど、上場企業などに限定された要件が多いため、多くの中小企業には適用が難しいのが現状です。そのため、中小企業では「定期同額給与」と「事前確定届出給与」の理解が非常に重要になります。

2 定期同額給与とは?

定期同額給与とは、「支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、かつ、その事業年度の各支給時期における支給額が同額である給与」を指します。簡単に言えば、「毎月、同じ日に同じ金額を支払う役員報酬」のことです。

この「同額」には、源泉徴収される所得税や地方税、社会保険料などが控除された後の「手取り額」が同額であるものも含まれます

ただし、支給日が土日祝日にあたる場合の前後への変更や、うるう年による日数の違いは「同額」の判定に影響しません。また、社会保険料率の変更などによる手取額の変動も、報酬額自体が同額であれば問題ありません。

原則として、事業年度の途中で役員報酬の金額を増減することは認められません。しかし、例外的に損金算入が認められる改定パターンがあります。

損金算入が認められる改定パターン

1. 事業年度開始の日から3か月以内に行われる定期給与の改定

これは通常、定時株主総会の開催時期に合わせて行われる改定を指します。役員の選任機関である株主総会で報酬額を決議し、その決議に基づいて新しい事業年度の報酬額を決定します。

例えば、3月決算の会社であれば、6月の定時株主総会で役員報酬の改定を決議し、7月支給分から新しい報酬額を適用する、といったケースがこれに該当します。

注意点として、3か月以内であれば何度でも改定できるわけではありません。合理的な理由のない頻繁な改定は、税務調査で否認される可能性があります。

2. 臨時改定事由による改定

これは、役員の職制上の地位の変更や、職務内容の重大な変更など、やむを得ない事情によって行われる改定です。

例えば、社長が体調を崩して引退し、息子が新社長に就任する場合、新しい社長の職務内容の重大な変更にあたるため、臨時株主総会で報酬を決議し改定することが認められます。

また、役員が病気で入院し、一時的に職務の執行が困難になったために役員給与を減額する場合も、職務内容の重大な変更に該当し、臨時改定事由による改定として認められます。その後、職務が通常通りに戻った際の再改定も同様に認められます。

3. 業績悪化改定事由による改定

これは、法人の経営状況が著しく悪化したことなど、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情がある場合に行われる改定です。

単に業績目標に達しなかった場合や、一時的な資金繰りの都合は含まれません

具体的には、株主や債権者、取引先などの第三者の利害関係者との関係上、役員給与の減額が避けられない状況であると客観的に判断される必要があります。

例えば、売上の大半を占める主要な取引先が倒産し、今後売上が激減することが不可避と認められる場合、あるいは取引銀行との借入金返済のリスケジュール協議で役員給与の減額が求められた場合などが該当します。

重要なのは、「客観的な事情」があるかどうかであり、利益調整のみを目的とした減額改定は認められません。

認められない改定の注意点

上記以外の理由で事業年度の途中で役員報酬を増額または減額した場合、同額でない期間の役員報酬は、原則として損金に算入されません

例えば、期の途中で何の理由もなく報酬を増額した場合、増額された部分だけでなく、増額後の期間の報酬全体が損金不算入となる可能性があります。これは、法人税と個人の所得税が二重に課税されることになり、非常に大きな税負担となるため、十分に注意が必要です。

【損金不算入の計算例】
月額報酬60万円の社長が、10月に80万円に増額した場合:
・10月~3月(6か月間)の報酬:80万円 × 6か月 = 480万円
・この480万円全額が損金不算入の可能性
・会社の追加法人税:480万円 × 30% = 144万円
・個人の税負担:480万円 × 30% = 144万円
・合計:288万円の追加税負担

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3 事前確定届出給与とは?

事前確定届出給与とは、平たく言えば役員に支給するボーナス(賞与)の確定した額の金銭、または確定した数の株式や新株予約権などを交付する旨をあらかじめ定め、税務署に届け出ることで、その給与を損金に算入できる制度です。

【活用例】3月決算会社の社長賞与
・支給日:令和6年12月25日
・支給額:500万円
・損金算入による法人税軽減:500万円 × 30% = 150万円
・個人の所得税負担:500万円 × 20% = 100万円
・実質的な資金効果:手取り350万円、法人税軽減150万円

重要なポイント

1. 事前の届出が必要

「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。届出書には、誰に、いつ、いくら支給するのか(または何株/何個交付するのか)を具体的に記載します。

2. 届出通りの支給が必須

届け出た内容(時期と金額/数)と実際に支給した内容が一致していなければなりません。例えば、届け出た金額よりも多く支給したり、少なく支給したりした場合、原則として支給した全額が損金不算入となります。

ただし、やむを得ない事情により支給できない場合(例:役員の死亡、辞任など)は、不支給でも損金算入が認められる場合があります。一方で、資金繰りの都合による支給額の減額や支給日の変更は認められません。

3. 提出期限の厳守

届出書には提出期限があります。

原則: 株主総会等で支給の定めを決議した日から1か月を経過する日、または会計期間開始の日から4か月(特定の法人は5か月またはそれ以上)を経過する日の、いずれか早い日です。新設法人の場合は設立の日以後2か月を経過する日までです。

臨時改定事由が生じた場合: その事由が生じた日から1か月を経過する日と、上記の原則的な期限のうちいずれか遅い日が届出期限となります。

業績悪化改定事由により減額する場合: 変更決議をした日から1か月を経過する日(変更前の直前支給日がその1か月を経過する日前にある場合は、その支給日の前日)が期限です。

期限を過ぎると届出は無効となります。

同族会社の非常勤役員に対して、毎月ではなく年1回や2回といった形で報酬を支給する場合も、この事前確定届出給与の届出が必要になることがあります(非同族会社の場合は不要)。

4 その他の注意すべきポイント

役員報酬の社会保険への影響
役員報酬の金額は、社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」にも影響します。報酬改定を行う場合は、社会保険料の負担増減も考慮に入れて総合的に判断することが重要です。

【社会保険料の影響例】
月額報酬50万円→60万円に改定した場合:
・厚生年金保険料の増加(会社負担分):月約9,000円
・健康保険料の増加(会社負担分):月約5,000円
・年間で約17万円の会社負担増

税務調査での確認ポイント
税務調査では、役員報酬の改定理由の合理性、取締役会議事録や株主総会議事録の存在、事前確定届出給与の届出書と実際の支給内容の一致などが重点的に確認されます。適切な書類の保存と、改定理由の明確な記録が求められます。

5 まとめ:専門家への相談を

役員報酬は、会社の税金だけでなく、役員個人の所得税や社会保険料にも大きく影響する重要な要素です。知らずにルールから外れてしまうと、「悪気はなかったのに、税務調査で多額の損金不算入を指摘され、余分な税金を払うことになった」というケースも少なくありません。これは、個人と会社の両方で税金が課される「二重課税」の状態になり、非常に大きなダメージとなります。

事業年度の途中で役員報酬の増減を検討する際や、役員賞与の支給を考える際は、必ず事前に税理士などの専門家にご相談ください

適切な役員報酬の設定により、会社と役員個人の双方にとって最良の税務対策を実現しましょう。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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