こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。
「今期は思ったより業績が良かった!従業員のみんなに還元したいし、節税もできるなら一石二鳥だ。」
このように考えて「決算賞与」の支給を検討される経営者の方もいらっしゃることでしょう。
決算賞与は、適切に処理すれば、その事業年度の損金に算入することができ、法人税等の負担を軽減する効果があります。
今回は、決算賞与の基本的な仕組みから、損金算入の要件、支給時のメリット・デメリットまで、経営者の皆さんが知っておくべきポイントを解説します。
1 決算賞与とは?通常の賞与との違いを理解しよう
賞与の基本概念
「賞与」とは、企業が、支給額や支給時期を比較的自由に決められる費用です。労働者の勤務成績などに応じて支給され、支給額があらかじめ確定されていないものを指します。
決算賞与の特徴
決算賞与は、その名の通り決算時点の業績に基づいて支給額を決定し、臨時に支給される賞与です。業績が好調だった場合に、その利益を従業員に還元するという性質を持っています。
決算賞与のポイント:
- 支給額に上限や下限の定めはなく、企業が自由に決定できる
- 業績が低調な場合は、支給しないことも可能
- 雇用形態を問わず、パートやアルバイトなどの非正規社員にも支給可能
- あらかじめ就業規則に定めていれば、特定の従業員にのみ支給したり、事業場別に金額を変えたりすることも可能
通常賞与との違い
項目 | 決算賞与 | 通常賞与(ボーナス) |
---|---|---|
支給時期 | 決算後に支給されるのが一般的 | 夏・冬など、企業が定めた時期に支給 |
支給額の決定 | 決算時点の業績に基づいて企業が決定 | 人事評価などに基づいて決定されることが多い |
支給の確実性 | 業績次第で支給しないことも可能 | 比較的定期的に支給される |
2 決算賞与の損金算入について
決算賞与を支給することで、人件費として計上し、法人税等の課税対象となる利益を圧縮する効果があります。
原則は「支給日基準」
使用人に対する賞与は、原則として、支給した日の属する事業年度に費用として計上し、損金算入します。これを「支給日基準」といいます。
この方法が最も確実で、税務上の問題が起こりにくい方法です。
未払計上する場合の要件
原則は支給日基準ですが、未払金として経費計上し、その事業年度の損金に算入することも法人税法上認められています。この場合の要件は、損金算入のハードルは比較的高いと言えます。
未払賞与を損金算入するためには、次の要件をすべて満たす必要があります。
- その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること
- この通知をした金額を、通知をした全ての使用人に対し、通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に支払っていること
- その支給額につき、通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること
これらの要件のすべてを満たした場合に、未払計上した金額を損金算入できます。
損金算入が否認されるケース
未払計上した決算賞与は、上記の要件を満たさない場合に損金算入が否認される可能性があります。
特に注意が必要なケース
支給日在籍条件がある場合:
- 支給日に在職する従業員のみに賞与を支給することとしている場合、その支給額の通知は上記の要件を満たさないとされています
- 通知日から支給日までに退職した従業員がいた場合、その未払賞与の全額が損金算入できないこととなります
- 給与規程等で賞与の支給日在籍条件を定めている場合も、たとえ結果的に誰も退職しなかったとしても、期末時点で債務が確定しているとは言えないと考えられ、損金算入が難しくなる可能性があります
3 決算賞与を出す際の重要な注意点
損金算入を検討する際に、注意すべき点をまとめます。
役員への支給分は原則損金に算入できない
役員への賞与支給分は、原則として損金に算入できません。 これは、意図的に課税所得や税金を調整することを防ぐためです。
ただし、「事前確定届出給与」の手続きを税務署で行っていれば、役員への決算賞与も損金算入できる可能性があります。
未払計上の場合、決算期末から1ヶ月以内の支給が必要
未払計上により当期で損金算入するには、事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に全ての従業員に実際に支払う必要があります。 この期間を超えてしまうと、その決算賞与は翌期の費用として扱われることになります。
決算賞与通知書を作成し、通知通りに支給する
未払計上要件の「支給額の通知」を満たすために、決算賞与通知書を必ず作成しましょう。
通知書作成のポイント:
- 決算賞与を損金算入する事業年度の終了日までに、支給対象の従業員全てに渡す
- メールや口頭ではなく、書面で行うことが推奨されます
- 通知書には日付を記載し、従業員からの受領確認の署名や押印をもらっておく
- 通知した金額を通知書通りに支払う
社会保険料の損金算入時期に注意
決算賞与にかかる社会保険料は、原則として賞与を支給した月の翌月、又は、翌々月末に支払いが発生します。
重要なポイント:
- 社会保険料の損金算入時期は、保険料の計算対象月の末日が属する事業年度
- 決算期末後1ヶ月以内に決算賞与を支給した場合でも、社会保険料の損金算入は翌期になることが多い
- 社会保険料も当期の損金に算入したい場合は、決算日よりも前に決算賞与を支給しておく必要がある
4 決算賞与を出すメリット・デメリット
決算賞与の支給を検討するにあたって、メリットとデメリットの両方を理解しておくことが重要です。
メリット
損金算入による節税効果
要件を満たせば当期の損金に算入でき、法人税等の課税所得を減らすことができます。
従業員のモチベーション向上
業績を従業員に還元することで、貢献を認められたと感じ、モチベーションやエンゲージメントの向上が期待できます。
企業の評価向上
決算賞与を支給できる企業は、安定していると外部(優秀な人材、取引先、顧客)から評価されやすくなります。
デメリット
人件費が増え、キャッシュフローが悪化する可能性
決算賞与の原資は企業の利益ですが、支出が増えるため手元に残るお金が減少します。キャッシュフロー計算書などで資金繰りを十分に考慮する必要があります。
支給の有無や額による従業員間の評価の変化
「去年はあったのに今年はない」となると、従業員のモチベーション低下や、会社への不満につながる可能性があります。 また、従業員ごとに支給額が異なる場合に不公平感が生じることもあります。
対策: 決算賞与は業績に応じて支給される臨時的なものであることを、従業員に十分周知することが大切です。
5 まとめ:決算賞与を成功させるために
決算賞与は、業績が好調な場合の従業員への還元と節税対策という二つの側面を持つ有効な手段となり得ます。
重要なポイントの再確認
損金算入について:
- 原則は支給日基準が最も確実
- 未払計上による損金算入は要件が厳しい
- 通知書の作成や支払い期限など、細かな規定を遵守する必要がある
支給時の注意点:
- 役員への支給分は原則損金算入不可
- 社会保険料の損金算入時期にも注意
- キャッシュフローへの影響を十分検討
従業員への配慮:
- 決算賞与の性質(業績連動・臨時的)を十分説明
- 支給基準の透明性を保つ
- 継続性についての誤解を避ける